55 巨大! その乗り物の正体はとんでもないものだった……!
俺の目の前には巨大な船があった。ピカピカの新造船だ。が、船とは違う部分がある。
一見、帆船のように見えるが、船底には車輪がいくつもついているのだ。
「これが定期便の結界装甲陸船……。ほんとに陸を進む船って感じだな」
『大きーい! マスター、上が見えないよ!』
と、隣で使役精霊のミミも驚きの声を上げる。
二人で見上げるも、巨大なせいで上部の構造が見えない。
きっと、乗客以外に大量の貨物を運ぶからこの大きさなのだろう。
「迫力があるなぁ」
余りのデカさに、ほう、とため息。
これに乗ってシプレの街へ向かう。
向こうは、ブラックドラゴンの被害を受けて大変な状態だと聞く。
そこへ、大量に手に入ったお肉を持って行くのだ。
といっても、道が崩れているため、結界装甲陸船で行けるのは途中まで。
そこから先は、徒歩で向かうことになる。
まあ、レベル99の俺の足を使えば、それほど苦にはならないはず。
見込みが甘いかもしれないが、現地に行ってみないとハッキリとしたことは分からない。
駄目なら引き返せばいいだけだし、気楽に行けばいい。
俺はエドモンさんたちから頂いたチケットを使って、船内へと乗り込んだ。
「中は客船みたいな感じなんだな」
『お部屋が一杯だね』
内装は豪華客船を思わせる作りとなっていた。
床一面に毛足の長い真紅の絨毯が轢かれ、手すりや壁には複雑な彫刻が施されている。
吹き抜けとなっている部分には巨大なシャンデリアが吊るされ、周囲に煌びやかな雰囲気と明かりを振りまいていた。
陸地を進むが、外観も内装も船といった方がしっくりくるな。
そんなことを考えながら、ロビーの受付へ向かい、客室の鍵を受け取る。
「よし、部屋に荷物を置いたら探検に行くか」
『わーい! ミミね、一番上に行ってみたいの』
「いいね、きっと見晴らしがいいだろうな」
『アリサちゃんの家も見えるかな』
ミミと話しながら、部屋へと向かう。
しばらく進んでいると、前方の角を曲がった先から泣き声が聞こえてきた。
なんだろうと、角から顔だけ出して先を覗く。
先は休憩所となっており、二人の人影が見えた。
どうやら、泣いている女の子をもう一人がなだめているようだった。
しかし、なだめている方の人が女の子より小さい。
小さいからといって子供という印象はないけど、小人的な種族なのだろうか。
「うわぁあああん! ママー!」
「お、落ち着きたまえ。私が一緒に母親を捜すから」
「う゛わぁあああああああん!」
「むぐっ。は、放すんだ。これでは身動きが取れない」
子供を泣き止ませようとしているが、うまくいっていない。
「む、迷子かな」
『泣いてるよ。大丈夫?』
会話を聞くと、女の子が母親とはぐれたっぽい。
そこへもう一人がたまたま出くわし、対応しているようだ。
だけど、そういったことに慣れていないのか、どうにも頼りない。
女の子にされるがままになり、抱きしめられて身動きが取れなくなっている。
「ぐ、締まる……。抜け出せない。だ、誰か……助けて」
女の子に締め上げられ、脱出不能となって助けを求めるって、どれだけ非力なんだ。
「止めに入った方がいいかな……」
『ぎゅ〜ってされてるね』
「大丈夫ですか? ほら、苦しがってるがってるから離してあげて」
女の子と抱きしめられている人の側へいき、両者へ声をかける。
「うう……、ママ……」
すると、俺を見上げた女の子が抱きしめていた相手を離した。
また抱きしめられるとまずいと考えた俺は、素早く解放された人を掴んで背後へと回す。
あれ? なんか妙に軽いな。
「あ、ありがとう助かったよ」
「いえいえ、これくらいなら何でもないです……よ?」
返事をしようと振り返り、相手の顔を確認して固まる。
それはどう見ても、ローブを着たピンクのクマのぬいぐるみだった。




