53 旅立ちの決断。まさかの事態に……!
私はオレリア。フジェの村で狩人をしている冒険者だ。
「ふう、今頃どうしているかしら」
先日、途轍もない力を持った冒険者が村に現れた。
その名はまるもっちー。
「会いたいな……」
彼は村の修復に役立てて欲しいとラッシュボアを置いていった。
実際に受け取ったのは四頭だったが、彼が初めに渡そうとしたのは十四頭。
つまり、一度の戦闘で大量のラッシュボアを仕留めたのだ。
しかも、短時間かつ一撃で、だ。
そんな冒険者、一度も見たことがない。
一体どんな方法で倒したのか。
どんな立ち回りで多数のラッシュボアを相手にしたのか。
疑問が尽きない。
暇があればつい考え事をしてしまうくらいには、気になっていた。
「会って求婚したいな……」
「なに隣で勝手なモノマネしてくれてるのよ!!」
と、私は隣で自分のモノマネをする爺の後頭部をはたいた。
全く、無言で考え事をしていたら、勝手に声を当ててくるのはやめてほしい。
油断もすきもあったものじゃない。
「ふ、例には及ばんぞ。ちょっと心の声を代弁したまでじゃ」
後頭部をさすりながら爺が得意気に言った。
「捏造しないでよね!」
私がいつそんなことを言ったというのか。
「ふん、まるもっちー君のことが気になって仕事をするときも上の空になっておるくせに」
「う……」
そこは図星だった。
気配から感じ取れるあの強さ。魔法の上達速度。
どれをとっても驚異的だった。
この辺りでは有望な冒険者として、そこそこ自信があったのに、あんなものを見てしまっては気になってしょうがないのだ。
「まるもっちー君にはとても世話になった。彼は冒険者になって日が浅いようだし、恩を返しも兼ねて、少し面倒を見てやったらどうじゃ」
「魔法を教えたわ」
と、爺の言葉に反論する。
あれで充分。過干渉になりすぎるのはよくない。
「あんなもので返しきれる恩でもないわ」
「それに私が会い行きたいのは恩を返したいからじゃない。彼の強さを間近でみたいからよ」
目にしたのは倒したモンスターのみ。
あんなものを見せ付けられたら、実際に戦っている場面に興味を持ってしまうのは冒険者なら当然だ。
一体どうやってあの数のラッシュボアを一人で倒したのか。
凄まじい手際だ。是非、その瞬間を見てみたい。
「口実に使えばいいんじゃ。オレリア、行ってきなさい」
「でも……」
現在、村は修復中。いくら費用の目処が立ったとはいえ、この場を離れるわけにはいかない。
「行かないなら、わしが行こう。恩を返したい気持ちは本当じゃからな」
「なんでそうなるのよ! それなら私が行くわよ!」
「今、行くって言ったよね?」
「く、謀ったわね……。行くわよ! 行ってきます!」
まんまと乗せられてしまった。
私が村のことを気にして行くのをためらっていたから、ここまでぐいぐい来るのだろう。
きっと、最近の私の様子を見た村の人が心配して、爺に相談したといったところか……。
本当に憎たらしい爺だ。
「行ってらっしゃい。まるもっちー君によろしくな」
そう言った爺の後ろには笑顔で深く頷く村の皆がいた……。
――全員グルだったってわけね。
微笑ましいものを見るような視線をこちらに送るのは止めて欲しい。
「……分かったわよ。もう戻って来いって言ってもダメだからね」
照れくさかった私は感謝の言葉の代わりに捨て台詞を残して、村を後にした。
…………
タマリの街へ着き、早速冒険者ギルドへ向かう。
ギルド内でまるもっちーを捜すも見当たらない。




