52 旅立ち。行き先はとんでもないところだった!?
――四日後。
トレント、アックスブルの報酬受け取りが滞りなく完了した。
その額、なんと金貨一万三百二十枚。魔銀貨と金貨で支払われた。
日本円に換算すると一億円くらいか……。
元の世界では無縁の金額すぎて、実感が湧かない。
ちなみに、アックスブルはお肉を全て売らずに少量引き取った。
旨いそうだし、その内料理に使ってみるつもりだ。
宿に戻ってから、お金を手に取って数えてみたりもしたが、中々の重量。
袋に詰めて殴れば武器になりそうな勢いだった。
とりあえず、アイテムボックスに入れておけば、落としたり盗まれたりすることはないので安心である。
元の世界でこれだけのお金が手に入ったなら、大きく減らない範囲で散財したに違いない。
パソコンなりスマホを新調したり、調子に乗って服や腕時計なんかも買ったと思う。
だが、こちらの世界には前の世界で買うであろう物は、いくらお金を出しても手に入らない物ばかり。今のところ使い道が貯金くらいしかない。
当面の使いどころは旅の食費と宿泊費くらいかな。
その内、買い物の時間を作って色々と見て回りたい。
この世界ならではの面白い物がきっとあるはず。
まあ、今はショッピングを楽しむより、旅支度を整える方が先決だ。
シプレの街へ行って、お肉を届けたい。
「それじゃあ、チェックアウトするか」
『はーい! 今日は乗り物に乗るんだよね。ミミ、楽しみ!』
俺は鞄を肩に掛け、部屋を出ようと扉を空ける。
すると、ミミが腕の下をするりと抜け、走り出す。
定期便を早く見たくて仕方がないのかな。
「走ったら危ないよ」
『わっ!』
「きゃっ」
声をかけると同時に、扉の向こうで驚きの声が二つ聞こえてくる。
慌てて部屋を出ると、ミミとアリサちゃんが衝突していた。
といっても、ミミは小さくて軽いので、両者共に転倒することはなかった。
アリサちゃんがしっかりと受け止めてくれたのだ。ナイスキャッチである。
「ごめんね、アリサちゃん。ミミ、気をつけないとダメだよ。アリサちゃんにごめんなさいして」
『ごめんね。大丈夫?』
「うん、平気だよ」
ミミのジェスチャーを見て、アリサちゃんが意味を察して笑顔を作る。
どうやら、アリサちゃんは俺たちを見送りに来てくれたみたいだ。
「もう行っちゃうんですか?」
「うん。ある人が定期便のチケットをくれたんだ。その出発が今日なんだよ」
俺が報酬受け取りの手続きをしている間に、エドモンさんが用意してくれていたのだ。
「ほらよ」と、強引に受け取らせ、こちらの言葉を待たずに行っちゃいましたとも。
かっこいいぜ。
俺もそういったことがさりげなくできるようになりたい。
「そうですか……」
『どうしたの? 元気出ないの?』
寂しそうな顔を見て、ミミがアリサちゃんの手を握る。
実は報酬を受け取るまでのこの四日、かなり暇だった。
その間、アリサちゃんに街の案内を頼んで皆で散策したりした。
その過程でアリサちゃんとミミは随分と仲良くなった。
これでお別れとなると、少し寂しくなるのも無理はない。
ミミもそれを察して、アリサちゃんを元気付けようとしているのだろう。
「大丈夫だよ。また遊びに来てね!」
笑顔になったアリサちゃんがミミの頭を撫でる。
「この街に来ることがあれば、また利用させてもらうよ。これ、皆で食べて」
俺は癒やし効果をたっぷりと注入した月見団子が詰まった包みを渡す。
「わあ、ありがとうございます」
「一度に食べ過ぎないようにね。それじゃあ」
『ばいばーい!』
俺はミミと一緒に手を振り、アリサちゃんとお別れする。
星の糸車亭。
入り組んだ場所にある小規模な宿だが、安心価格で充実のサービス。
部屋は綺麗でゆったりくつろげた。雰囲気も良く、とてもいい宿だった。
またこの街に戻ってくることがあれば、是非利用したい。
俺は星の糸車亭を後にし、定期便の乗り場へ向かった。
「うーん……、乗り場はこっちって聞いたんだけどな」
「おう、合ってるぞ。この先にある橋を渡ってすぐだ」
「あ、エドモンさん!」
しばらく歩いていると、エドモンさんたちと遭遇する。
多分、俺たちを待っていてくれたんだ。
「チケットありがとうございました」
「そのくらいどうってことねえよ」
「じゃな。傷の治療費にもなりゃせんわい!」
エドモンさんが鼻を擦り、クリストフさんが俺の背をはたく。
あいかわらず強烈な突っ張りだ。
「そこそこいい部屋を取っていたから寛げるはずよ。楽しんでね」
サラさんがミミと戯れながら言ってくる。
「さっさと行きな。乗り遅れちまうぜ?」
「達者での」
「シプレの街周辺は荒れているわ。気をつけてね」
「はい。皆さんありがとうございました。またどこかで!」
俺とミミは三人に別れを告げると、深々と頭を下げ、その場を後にした。
「さて、行きますか〜!」
お肉片手に目指すはシプレの街。
『乗り物ってミミより大きいかな?』
一緒に旅してくれるのは、かわいくて頼れる精霊。
「どうだろうね。俺も初めて見るから分からないな」
『楽しみだね!』
「よーし、走って見に行くかぁ」
俺はミミを頭の上に乗せると、駆け出した。
定期便の乗り場はもうすぐだ。




