51 四人がかりとは卑怯なり。まるもっちー窮地に立たされる!?
「……あれは別の場所から移動してきたのよ」
「ああ、アックスブルが住み着くのは、もっとただっ広いところじゃて」
「多分、シプレの街辺りから逃げてきたんだ。あの辺りがアックスブルの生息地だからな」
三人の話を総合すると、別の広い場所から逃げてきたのが密集して、あの状態になったらしい。
確かに、満員電車のように詰め詰めで息苦しそうだったな。
「ということは、その街の周辺で何かあったんですか?」
エドモンさんの、“逃げてきた”という台詞が気になって、聞いてみる。
「あら、知らないの?」
「さすが鉄級の凄腕。実力と知識がチグハグじゃのう」
「おいおい、頼むぜ? シプレの街はブラックドラゴンと正面衝突したところだ。壊滅的ダメージを受けて、絶賛復興作業中だ」
「ああ、そういうことだったんですね」
要はオレリアさんの村と同じ状況だったのだ。
ブラックドラゴンが暴れたせいで、そこに生息していたモンスターが別の場所へ逃げ出した。
そして、逃げたモンスターが別の場所で、環境の変化に適応できずに暴れる。完全な悪循環だ。
「ええ、ブラックドラゴンが初めて目撃されたのが、シプレの街から少し離れた場所よ」
「まあ、後は予想がつくじゃろ? 街は迎撃失敗。ブラックドラゴンは荒らすだけ荒らして、王都へ向かって飛び立った、というわけじゃ」
「その騒動に、人間以外も巻き込まれて大混乱ってわけだ。しかし、あれだけのアックスブルが移動したとなると、シプレの街は食料にも困っているかもしれんな」
俺が詳しいことを知らないと察した三人は、補足説明をしてくれる。
聞けば聞くほど、シプレの街の状態が気になる。
壊滅的ダメージを受けた上に、食料となるアックスブルが移動してしまったとなると、大変なのではないだろうか。
丁度今、俺の手元にはその辺りから逃げ出したアックスブルが大量にある。
これをその街まで持っていけば、役に立つかもしれない。
「ちなみに、シプレの街はここから遠いんですか?」
「遠いな。というか、今は近くの街までしか、定期便が通っていない。行くとしたら、そこから徒歩になる。もしかして、行くつもりか?」
「いえ、ちょっと聞いてみただけです」
エドモンさんに問われ、ごまかす。
「これは行くわね」
「間違いなく行くじゃろ」
「俺も行く方に賭けるな」
三人がニヤニヤしながら、そんなことを言ってくる。
く、一発でバレた。
『マスターは行くと思うの』
ミミ、お前もか……。
「ぐ……」
否定できない俺は、黙り込むしかなかった。
行く方向で考えていたのは、事実だしね……。
「アックスブルを捌くなら、それしかないわよね」
「あの数じゃしな……。ここで売り切っても、供給過多で買取価格が下がるしのう」
サラさんとクリストフさんは、別の意図を読んで俺がその街へ行くと考えたようだ。
だけど、俺のアイテムボックス内は時間が停止しているので、早急に捌かなければいけないというわけではない。
そこまで心配する必要はないんだよね。
「結構遠いぞ? しかも、ブラックドラゴンの足跡を辿るようなもんだから、進めば進むほど荒れている。かなり危険な道のりになる」
「行くとしても、しばらく先ですけどね」
エドモンさんが行く体で話を進めていくので、すぐに向かうわけではないことを強調しておく。
明日はギュスターブさんとの約束。
三日後はアックスブルの買い取りがある。
もし、その街へ行くとしても、もうしばらくは身動きが取れないのだ。
「止める気はないけど、気をつけてね」
「危ないと思ったら、引き返すんじゃぞ。そういった判断ができて、一流の冒険者じゃからな」
「近所で依頼のイロハを教えてやるわけじゃねえから、付いていってやることはできねえ。お前が決めたことだから、止めもしない。頑張れよ、まるもっちー!」
サラさん、クリストフさん、エドモンさん、三者三様に俺を励ましてくれる。
「はい!」
嬉しくなった俺は、力強く返事を返した。
ベテランから激励されると、冒険者として認められたみたいで嬉しいな。
『ミミがお手伝いするから大丈夫だよ!』
と、頼もしいお言葉を頂く。これは心強い。
って、これじゃあ行くのが決定したも同然だ。
でも、気になったのは事実だ。それに色々と思うところもある。
やはり、動けるようになったら、シプレの街に行ってみよう。
「……と、ところでよ」と、エドモンさんが視線をそらしたまま、モゴモゴと呟き、
「腹も一杯になったし、締めにデザートといきたいところだよな」などと言いながら、サラさんへ視線を送る。
「それはとても素晴らしい提案ね、エドモン」
するとサラさんが棒読みかつ、カクカクした動きでそんなことを言う。
「くぅ、抜かったわ。この店には甘味がないんじゃ。わしとしたことが、うっかりしとったわい!」
そして、最後の締めにクリストフさんからダメ押しのひと言が入る。
この人たち、わざとらしいぞ……。
さすがパーティーを組んでいるだけあって、阿吽の呼吸。
ナイスコンビネーションと言わざるを得ない。
三人は言いたいことを言い終えると、チラッチラッとこちらを見てくる。
めっちゃ見てくる。
最初から企んでたな……。
などと思っていると、子供用の椅子に座ったミミがモジモジし始めた。
『ミミ、甘い物が食べたいなぁ』
――ミミ、お前もか。
追い打ちとばかりに、エドモンさんたちを真似してミミも、俺をチラッチラッと見てくる。
四人がかりとは卑怯な……。
「分かりましたよ。今出しますんで、皆さんでどうぞ」
俺は折れた。というか、別に苦でもなんでもないし、ここで出し惜しみする必要は無い。
持ち込みが大丈夫な店か確認したところ大丈夫だったので、存分に味わってもらおう。
「「「おお!!!」」」
エドモンさんたちが抱き合って喜ぶ。
『やったぁ!』
ミミが飛び跳ねる。
皆がそこまで喜んでくれるなら、俺としても作り甲斐があるってものだ。
というわけで、餅スキルでみたらし団子を大量に作って出した。
屋外で食べるとタレが厄介なんだけど、こういう場所なら気にせず食べられるよね。
宴会の締めにみたらし団子。うん、満腹だ。




