50 ギルドマスターと面会。とんでもない提案が!?
「まあ、普通ならランクアップを勧める。受けられる依頼の種類が増え、それだけ稼げるようになるからね。だけど、アンタにはお勧めできないねぇ。悪目立ちしすぎるから、メリットと同じ位、デメリットも発生するだろうよ」
「確かに……、一気に三ランクアップするわけですしね」
ダイアナさんの言葉になるほど、と思う。
冒険者になったばかりの人間が銀級に昇格するのは、色々と面倒なことになりそうな気がする。
経験豊富なベテラン冒険者がランクアップを嫌がるのであれば、高ランク者が担う重責から逃れようとしていると思われても仕方ないかもしれない。
今までお世話になってきた、ギルドや周りの人たちのことを軽んじていると捉えられるかもしれない。
けれど、俺は冒険者になって三日。
さすがにそういった責任を背負う領域には、到達していない。
むしろ、今回の功績を笠に来て先輩風でも吹かせようものなら、勘違い野郎も甚だしい。
そう考えると、俺には圧倒的に経験が足りていない。
しばらくの間は鉄級で地道に頑張るべきだ。ランクアップも飛び級ではなく、ひとつずつ上がっていくのが、望ましい気がする。
「まあ、ギルドマスターとして、アンタの実力なら、そういったことで生ずる障害を跳ね除けられると判断しているから、ランクアップを許可するんだけどね」
「ダイアナさん、今回はランクアップを見送って、鉄級のまま保留でお願いします」
実力を買ってくれるのはありがたいが、俺にランクアップはまだ早い。
鉄級冒険者として、色々経験を積んでいきたい。
「それが懸命だと思うよ。金に困ってるわけでもないんだろ?」
「ええ」
「なら決定だ。最後に、今回の一件を他の街のギルドと情報共有させてもらうよ。もしかしたら、別の街に行った際、アンタの腕を見込んで、頼みごとをしてくるかもしれないけど、そこは勘弁しておくれ」
「分かりました。別に断ってもいいんですよね?」
ダイアナさんとの話し合いの結果、俺のランクアップが保留となった。
だが、各ギルドへは俺のことが知らされるとのこと。
念のため、ややこしいことを頼まれたら断ってもいいよね、と聞いておく。
「問題ないよ。まあ、報酬は弾むから、なるべくなら引き受けてほしいけどね」
「考えておきます」
「ずっと隠しておくより、そうやって無理難題を解決していって、自然と周囲から認められるようになるのが、一番いいのさ」
その言葉を聞き、なるほどと納得する。
今回の一件だけだから、腕に見合っていないランクアップと思われてしまうのだ。
同じような問題を何度も解決すれば、誰も反論しなくなる。
むしろ、ふさわしいと思ってくれる。
ダイアナさんは俺のことを思って、色々考えてくれているようだ。
というか、偉く高く評価されている気がするな。
「色々と気を使って頂いて、ありがとうございます」
俺はダイアナさんの配慮に感謝し、お礼を言った。
「優秀な人材には、ギルドを抜けてほしくないからね。受付にはアンタのことは話しておくから、何か困ったことがあったらアタイに相談しな」
「助かります。その時はよろしくお願いします」
「話は以上だ。行っていいよ」
「失礼します」
俺はダイアナさんに頭を下げると、部屋を後にした。
これで、冒険者ギルドでやることは済んだ。
宿に帰ろうか? とミミと相談していると、声をかけられる。
「おう、終わったか」
「あ、エドモンさん」
俺を呼び止めたのは、エドモンさんだった。
その後ろには、サラさんとクリストフさんもいる。
「言ったろ。たらふく食わせてやるって。行くぞ」
「な、はい」
というわけで、ご馳走になる事になった俺は、エドモンさんたちに取り囲まれた状態で店へ連れて行かれることとなった。
見るからに高そうな店に通され、問答無用で席に座らされる。
注文などは済ませてあったようで、こちらが何か言わなくても、料理がドンドンやってくる。
皆で乾杯したあとは、思い思いに料理をつつくこととなった。
全員、数時間前まで全力で動き回っていたせいで腹が減っていたこともあり、しばらくはひたすら無言で食った。胃が落ち着いてきたところで、サラさんが思い出したかのように話し始める。
「しかし、驚いたわ。あの数を全滅させただなんて……」
「エドモンやハンスが力説したから信じたが、普通なら嘘だと思うわい」
サラさんの言葉に、クリストフさんが酒を片手にうんうんと頷く。
「俺も未だに信じられんからな……」
と、エドモンさんがため息をつく。
まあ、二百三十七頭一気に倒しちゃったし、多少驚かれてしまうのは仕方ない。
「やはり、あれだけの数のモンスターが現れるのは、珍しいんですか?」
俺も、アックスブルの大群を見たときは驚いた。
ああいうことはよくあるのだろうか。
「……あれは別の場所から移動してきたのよ」




