5 実食! いちご大福の味がとんでもないことに……!
「……あれ? これって全裸じゃね」
現状、転生前に着ていた着ぐるみと、同じ外見になってしまっている。
ゆるキャラのまるもっちーは、服を着ないタイプのキャラクターだった。
何かのコラボや季節イベントで特別に衣装を着ることはあっても、基本は全裸。
転移前の撮影会では基本フォームだった。つまりは全裸。
まるもっちーと一体化してしまった俺は今、一糸纏わぬ状態で素肌を晒しているということになる。
「これはエチケットに反するな」
ということで、客間のベッドからシーツを拝借。腰に巻いてみる。
何か違う。これでは風呂上りのおっさんみたいだ。
一旦外し、シーツを細長く折りたたむ。
それをまわしのようにしてキュッと締めてみる。なんともいえないフィット感があり、いい感じだ。
と、一人満足して頷いていると急に扉が開かれた。
何事だ、と視線を向ければ、鷹村富士原ペアと宮廷魔導師のルイーズさんがこちらを見ていた。
「相撲取りみたいっすね」
「オムツしている赤ちゃんみたいで、かわいい」
鷹村富士原ペアの意見を聞き、俺はそっとシーツを外して全裸に戻った。
「そ、そんなことより、大変なことになってしまいました!」
二人の会話を遮り、ルイーズさんが慌てた様子でまくし立てる。
「そうなの? 立ち話もなんだし、詳しい話は中で」
俺はルイーズさんをなだめつつ、三人を室内に招き入れた。
皆が席に着く間に、客間にあった皿を拝借し、スキルで大福を出す。
「まあ、これでも食って落ち着いてよ」
「これは?」と首を傾げるルイーズさんとは対照的に、鷹村君と富士原さんは見知ったお菓子を目にして驚いていた。
「俺の固有スキル。旨いよ?」
と、勧めると、鷹村君がぱくりと口に入れる。
「うっめー! いちご大福じゃん!」
「え、うそ……。じゃあ、私も。……ッ、美味しいッ! まさかこの世界で、こんな物が食べられるなんて」
富士原さんも大福を口にし、旨いと言ってくれる。
なかなかの好感触。出した甲斐があったというものだ。
「では……、私も……」
恐る恐るといった体でルイーズさんも大福を口にする。
そして――
「な、なんですか、これは!? 」
――と驚愕の表情となる。
「表面はモチモチとし、中には豆を甘くしたものと……苺が入っているのですね……。我が国にはない珍しい食べ方ですけど美味しい! 素晴らしい甘味です」
「いちご大福って言うんだぜ?」
「私、和菓子はあんまり食べないけど、これは苺が入ってるから好き」
ルイーズさんが驚きで硬直する中、鷹村君と富士原さんが我が物顔で解説してくれる。
「ほほう、いちご大福と言うのですね。大変美味しかったです……。って、それどころではないのですよ!」
いちご大福でほっとひと息ついたのも束の間、ルイーズさんが再びくわっと目を見開く。
「そ、そうなんすよ! ヤバイっすよ! まるもっちー!」
「大変なことになっちゃったんです! まるもっちー!」
次いで、鷹村富士原ペアも何やら必死な様子。
「俺にとっては二人が俺のことを、自然にまるもっちーって呼んでいる方が大変なんだけど……」
こう見えて茄子畑です。お間違いなく。
「……あれ? 本当だ……、なんで?」
「ぐお、滅茶苦茶強く意識しないと茄子畑さんって言えない!?」
俺の言葉を聞き、妙なところで苦しみはじめる二人。
え、俺の名前ってそんなに覚えにくい? 画数は多い方だと思うけど。
「やだなあ、二人とも。まるもっちーくらい普通に言ってよ。って、ええ!?」
今俺は茄子畑紫郎くらい普通に言ってよ、と言ったつもりだった。
そのはずだったのに、口から出た言葉はまるもっちー。ちょっとしたホラーである。
「もしかして、鑑定結果の名前がまるもっちーって出たのと関係してるのか……?」
「……きっと転移失敗も関係してると思う。この世界に餅人として存在が定着しはじめているんじゃあ……」
「なにそれ怖い……」
二人の予測を聞き、自分がまるもっちーとして、この世界に存在が固定化されつつあることに戦慄する。……餅か。いや、……まじか。