45 激闘、猛牛戦! 大群を前にとんでもない事態に!
「お餅モチモチまるもっちー!」
覚悟を決めた俺は名乗魔法を使った。
食うことに必死な眼下の大群に俺の口上は届かない。
それでも効果は抜群。力が漲り、体が軽い。
『どうするの?』
俺の行動を不思議に思ったミミが尋ねてくる。
「下へ降りるよ。危ないから、ミミはここで待っててね」
『ミミも行く!』
と、真剣な表情でしがみついてくる。
「う〜ん……、でもなぁ」
アックスブルに接近するのは危険だ。できれば安全なところに居てほしい。
ただ、逃走する場合を考えると、側にいてくれた方が素早く行動に移れる。
遠方に避難させておいたら、そこへ回収にいかないといけない分、不測の事態を招き易い。
これは迷うな……。
「側から離れないって、約束できる?」
『うん!』
「じゃあ、一緒に行くか」
側にいてくれれば守りやすいし、逃げ易い。
ここはミミの為にも、早期決着を図る。
気合を入れて頑張ろう。
「降りるから、しっかり掴まっててね」
『掴まったよ!』
「よし、行くぞ」
ミミが胸ポケットの中で身構えたのを確認した俺は、峡谷の端へ降下。
アックスブルたちの背後へ立つ。
人が一人落下して来たというのに、見向きもされない。
皆、月見団子を無心で食っている。
余程腹が減っていたようだ。
「これならいける」
俺は石を一つ持って、投擲体勢に入る。
狙うは複数の貫通。
今まで軽く投げただけでも、モンスターを貫通する威力の投石ができていた。
なら、全力で投げれば、複数まとめて貫通できるはず。
名乗魔法も使ったし、五頭くらいはぶち抜きたい。
俺は石を握りしめ、大きく振りかぶる。そして、投擲。
一投目だし、感じを掴む意味で四割ほどの力で投げてみた。
手から離れた途端、ボッと空気の壁を突き破るかのような音と共に、石が加速。
赤熱した石は強烈な速度で複数のアックスブルを貫通。
減衰する気配を微塵も感じさせないまま、真っ直ぐに飛んでいく。
「……ん? これは……ヤバイんじゃあ……」
石は重力に逆らい、地面と平行な状態を保ったまま、どこまでも突き進む。
そして、端の端。月見団子を積み上げた山を貫き、峡谷を塞いだ大岩の山に当たって止まった。
アックスブルたちの動きがピタリと止まり、恐る恐るといった体でこちらへ振り向いてくる。その表情は、え、何事? といった感じで固まっていた。
「あ、危ない……、もう少しで塞いだ部分を破壊してしまうところだった……」
もし、全力で投げていたら、積み上げた大岩を破壊し、逃げられていた可能性がある。
弱めに投げておいて良かった……。
万が一に備えて、名乗魔法を使ったのが仇となってしまったか。
これでは強くなりすぎだ……。
次からは、二割くらいの力加減で投げよう。
そう思い、片手に石を大量に抱えた状態で、次々と投擲していく。
投げた石は強烈な威力を保持したまま、アックスブルを次々貫通。死骸の山を築き上げていく。大半は逃げ惑う暇もなく、秒で絶命していった。
「むう、順調だけど、当たりにくくなってきたな」
しばらく投石を続けた結果、残った固体がまばらな状態となり、まとめての討伐が難しくなってくる。
そんな状態にできたことは喜ばしいが、ここからは時間がかかりそうだ。
と、思っていると、ミミが『任せて!』と言いながら胸ポケットから飛び出した。
ミミは着地すると同時に元の大きさに戻り、両手を前に突き出す。
次に『え〜い! 動けなくなれ〜!』と叫んだ。
転瞬、地面から大量の蔦が飛び出し、生存するアックスブルへと絡みつく。
蔦は頑丈で、どれだけ抵抗しようとも、千切れる気配はない。
「おお、やるな!」
『マスター、今の内に!』
「おう!」
俺はミミに頷き返すと、石を持った状態で近くのアックスブルへと接近。
別個体とまとめて倒せる角度から、石を投擲する。
名乗魔法を使っているせいか、ひとつひとつの動作が非常に短い時間で終わる。
移動と投擲を流れるような動作で繰り返し、次々と仕留めていく。
気が付けば、残り一頭で全滅という状態になっていた。
俺は軽く呼吸を整えると、最後のアックスブルへ石を投げつけた。
「ふぃ〜、これで終わりっと」
最後の一頭を仕留め、深く息を吐く。
戦闘に入ってからは、ほんの数分の出来事であったが、倒した数が数だけに少し疲れた。
う〜ん……、これって一体何頭くらい倒したんだ?




