43 猛牛発見! とんでもない数になっていた……!
『え〜、近づくなって言われてたのに。いけないんだぁ』
いたずらっぽい笑みを浮かべたミミが、俺の足をつついてくる。
そう言われると、全く言い返せない。
あれだけ注意されたのに、アックスブルを見に行こうとしているのだから、お叱りを受けて当然である。
「高いところから見下ろすから大丈夫。俺は足が速いし、いざとなったら逃げるよ」
『あんまり速くしないでね? 怖かったよ?』
上目遣いのミミが俺の足にしがみついてくる。
「うん、気をつけるよ」
ミミの頭を撫でながら約束する。
『はい、抱っこ』
縮んだミミが両手を挙げ、万歳のポーズを取る。
俺は両手で抱き上げ、胸ポケットへと入れる。準備完了だ。
「それじゃあ、行きますか」
俺は、アックスブルが居るとされる地点を目指して駆け出した。
聞いていたポイントが近づいてくると一旦止まって、高所を探す。
近くにあった山に登り、山頂から辺り一帯を見下ろしてみる。
すると――。
「これは凄いな……」
アックスブルの大群。
一帯を埋め尽くし、その場が黒一色に染まっていた。
ラッシュボアと同等の大きさのモンスターが広範囲に密集しているから、そういう地形かと勘違いしそうだ。
空を覆う入道雲の真逆。地を覆う大黒雲。そう例えるにふさわしい状態。
恐ろしい数のアックスブルがひしめいている。
エドモンさんたちはよく逃げ切れたものだ……。
『いっぱいだぁ! マスター、数えられないよ……』
ミミも驚きの声を上げる。
これは誰が見ても驚く以外のリアクションはとれないだろう。
「エドモンさんが言っていた通りだな……。この数は危険だ。減らしておいた方がいいよな」
アックスブルは好戦的な性格だという。
もし、眼前の大群が人里へ向けて移動を開始した場合、どれだけの被害が出るか予想もつかない。
それなら、この場に留まっている今の内に、少しでも倒しておいた方が被害を抑えられる。
『やっつけるの?』
「このまま戦うと、取り残しが出ちゃうから、少し準備してからね」
何の準備もないままに戦闘に突入しても、大して倒せないだろう。
倒す数より逃がす数が多くなるのは必至。分散されてしまったら、後が厄介だ。
ここはしっかり準備をして、少しでも多く倒せるようにすべき。
そう考えた俺は、アックスブルを倒す準備を整えるため、その場を離れた。
「ふぃ〜。大体こんな感じかな」
準備を整え、状態を確認しての一息。
我ながら、上出来ではないだろうか。
『モンスターがいないよ?』
辺りを見回し、アックスブルが一頭もいないことを疑問に思ったミミが尋ねてくる。
確かにここは、アックスブルがたむろしている場所から、少し離れている。
しかし、この地形を利用しない手はないと考えた。
今、俺が居る場所は一直線に伸びる峡谷の底。
左右を高い絶壁に挟まれた場所だ。その一端に大岩を積み上げた。袋小路を作った。
大岩の設置は、アイテムボックスを活用した。
まとめて収納、簡単運搬、楽々設置の三拍子。
テンポ良く峡谷を塞ぐことに成功した。
レベル99の俺は、身長の二〜三倍はある大岩も片手で持ち上げられる。
その膂力と固有スキルを以ってすれば、大して時間も掛からずに準備は整った。
後は誘導するだけだ。
「こっちへおびき寄せるんだ。これを使ってね」
俺は餅スキルで月見団子を作って、ミミに説明する。
『ッ! ミミも食べていい?』
「どうぞ」
説明したはずが、ミミをおびき寄せる結果となってしまった。
月見団子を美味しそうに頬張る姿を見ていると、もう一個あげた方がいいのか、真剣に悩んでしまう。




