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42 けが人が団子を食べた結果、どんでもない事態に!?

 


「お、この間の甘味じゃねえか! これ、うめえんだよな。いいのか?」


 三色団子を見たエドモンさんが喜色を浮かべ、大きな反応を示す。


 甘い物が好きなのかな。


「はい。お二人も良かったらどうぞ」


 俺はエドモンさんに頷き返しながら、サラさんとクリストフさんにも三色団子を勧めた。


 二人が受け取っている間、エドモンさんは三色団子を見つめながら何やら語り始める。


「これこれ、この三色で色違いってのが、見た目にも綺麗だよな。しかも、三種類の味を楽しめるから、お得な感じがする。俺は一度食っただけで、こいつの虜になっちまったぜ」


「エドモンさんって、甘い物が好きなんですね」


「おうよ。稼いだときなんかは、つい甘味を買っちまうんだよな。じゃあ、お言葉に甘えていただくぜ?」


「どうぞどうぞ」


 食べたくて仕方がないといった様子のエドモンさんに三色団子を勧める。


「うん……、やっぱうめえなぁ。気が楽になってくるぜ。甘い物に意識が向いてるせいか、痛みが薄らぐな」


 エドモンさんは串を口に入れ、歯を使って一つ目の団子を抜き取った。


 そして目を閉じ、団子を味わう。充分に咀嚼した後、ゴクリと飲み込み二つ目の団子を口に入れる。


「なんだろう、旨い物を食ったせいか、元気が出てきたな。気合が入るぜ」


 二つ目の団子を飲み込んだ瞬間、そんなことを言う。


 確かに、さっきより血色が良いし、活力が漲っているかのような気配を感じる。


 エドモンさんは名残惜しそうな顔で、最後の団子を口にし、旨そうな顔で咀嚼。


 ゴクリと三つ目を飲み込む。


「はあ……、旨かった。三つあるから長い時間楽しめるのが、コイツのいいところだな。一本食べただけでも、満足感があるぜ。なんか、体の具合も良いし、いい気分転換に……って傷が治ってるじゃねえかッ!? どうなってるんだ、こりゃ!?」


 と、急に大声をあげて立ち上がるエドモンさん。


 慌てた様子で巻いていた包帯や布を取り去ると、傷が完治していた。



「……ほんと、跡ひとつ残ってないわ」


「元気バリバリじゃー!」


 団子を食いながらその様子を見ていたサラさんとクリストフさんも、自身の異変に気づいて包帯をはがす。


 すると、出血が収まるどころか、傷跡一つ残っていない状態の素肌がそこにあった。


 三色団子を食ったら完全完治。


 ちょいちょいそうじゃないかと思える兆候はあったが、どうやら癒やし効果スキルには傷を治す効果もあったようだ。


 スキルを直に当てると微妙だが、食べ物などを介すると、真の効果が発揮されるのかもしれない。


 癒やし効果、凄いな。


 いや、これもレベル99になってスキルの威力が上がっているからかも?


「まるもっちー……、もしかしてこの甘味……」


 団子の串を握りしめたエドモンさんが、真剣な表情で言葉を詰まらせる。


「そこまでよ、エドモン。冒険者相手に、自ら話したがらないことを無理に聞こうとするのは、野暮の極みよ」


「だな。治ったんじゃし、それでいいじゃろ」


 エドモンさんが俺に何か聞こうとしたのを、サラさんとクリストフさんがいさめる。


 一連の流れが熟練の冒険者っぽくて、なんだかかっこいい。


 俺には出せない渋い雰囲気が羨ましいな。


「悪い。つい……、な。これは故郷の甘味。それで間違いねえ」


 何かを納得したエドモンさんが、そう言い切る。


「まあ、別に話してもいいですけど。甘味に俺のスキルを使っただけです。効果は今一つはっきりしないんですけど、悪い影響は多分ないので、安心してください」


 俺は癒やし効果スキルのことをざっくりと説明した。


 よく分からない部分もあるけど、こんな感じ。お解りいただけただろうか。


「「「話すのかよ!!!」」」


 完全に同じ台詞、かつ同タイミングで突っ込んできたため、三人の声が被る。


 旧知の仲と知れる貴重なシーンであった。


「ええ、エドモンさんになら話しても問題ないです」


 俺だって話す相手くらいは選ぶ。


 エドモンさんたちになら、知られても大丈夫だろう。


「そ、そうか、偉く信用されたもんだな」


「それより、しばらく休んでください。傷が治ったといっても、体力は消耗しているわけですし、体に障りますよ」


 三人とも、傷が治ったと大騒ぎだ。


 だけど、負傷した状態で移動していたわけだし、体力は消耗しているはず。


 ここはしっかりと休息した方がいい。


「そうも言ってられねえ。早く街に戻ってアックスブルのことを伝えないと。街の方へ向かう気配はなかったが、放っておける数じゃない。人が寄り付かないように周知し、冒険者を使って数を減らしておいた方がいい」


「数が数だから、急いだ方がいいわ」


「うむ。被害を少なくするのが先決じゃ。さっさと行くぞ」


 休息するべきという俺の提案は却下され、三人は出立準備を始めた。


 そこまでしなければならないほど、異常事態なのか。


「まるもっちー、お前も俺たちが来た方向へ行くなよ? 依頼をこなす範囲は、この辺りまでにしておけ。俺たちは行く。甘味、旨かったぜ」


「今度街で会ったら、何かご馳走させなさい」


「それがいいわい。ただ、礼金を出すのは趣がない」


 エドモンさんたちはあっさりと準備を済ませ、俺に警告すると街へ向かって歩き出す。


 その際、傷の完治のお礼に、飯を奢らせろと言ってきた。


 こんなことでお金を貰うのは気が引けるが、ご飯くらいならいいか。


「そういうこった。次会ったら、たらふく食わせてやるからな? 覚悟しておけよ」


「分かりました。皆さんも気をつけて帰ってください」


「誰に向かって言ってやがる。お前こそ気をつけろよ!」


 エドモンさんは現場に近づかないよう俺に念押しすると、サラさんとクリストフさんと一緒に街へ向かった。俺はその場に留まり、三人を見送った。


『マスターが知らせに行った方が早くない?』


 ミミが疑問顔で俺に尋ねてくる。


 実際、俺が全力で走った方が早いだろう。


「街に帰るのは、もう少し後にしようか。アックスブルってやつを見てからね」


 俺が、街へ帰らなかった理由。


 それは、アックスブルを見ておきたかったためだ。



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