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401 フローラは立ち向かう 3

 

 ――隣に先輩が立った。



「先輩!」


 歌うことを忘れ、つい声を上げてしまう。


「続けて」


「はい!」


 先輩の言葉を受け、歌を再開する。


 側で先輩が私の歌を聞いてくれていると思うだけで、体が軽くなり気持ちが昂ぶる。


 隣に居てもらうだけで、こんなに心強いなんて。


 先輩がマイクを持つ。


 そして声を出そうとする。


 だけど――


「ッ……。ハァ……ハァ……」


 うまくいかない。


 私と練習していた時は、荒削りながらも歌うことができるようになっていた。


 その事を二人で喜び、毎日の練習が楽しいものに変わりつつあった。


 だが、今はすごく辛そうにしている。


 こんな状況にさえならなければ、もう少しでちゃんと歌えるようになっていたはずなのに……。


 苦しそうにする先輩の姿はとても痛々しく、見ていられなかった。


 が、そこでジョーンズさんが私たちの側に駆けて来た。


 そんなジョーンズさんを止めようとしたのか、他のスタッフも後を追ってこちらへ来る。


「フローラちゃん、無理言ってすまなかった! フローラちゃんは下がってろ。俺が歌う!」


 そう言って、ジョーンズさんが前に出た。


 それを他のスタッフたちが羽交い絞めにする。


「お前、何言ってるんだよ! 魔法が使えないのに歌ってもしょうがないだろうが」


「うるせえ! こんな状況で黙ってみてられるかよ! かといって、海に行っても二次災害になるだけだ……。だから歌うんだよ!」


「なら、俺も歌うぜ」


「私も!」


「私だって!」


 と、なぜかジョーンズさんを止めにきたはずの全員が歌い出した。


 とても上手いとは言えない歌声が重なり、歪な合唱となる。


 どれだけ歌う人が増えようとも、光属性魔法の適性がなければ何の意味もない。


 魔法を使うことが出来なければ、ただの歌なのだ。


 だけど、心が温かい。まるで皆の想いが、歌声から伝わってくるかのようだ。


 私も負けていられない。


 一人でだって、オーロラくらい発生させてやる!


 …………


 私、フローラは、悔しさのあまり拳を強く握り締めた。


 視界がぼやけ、涙が溢れそうになっていることに気付く。


 私は一体何をやっているんだ。


 以前は歌うのが楽しくて仕方が無かったはずだ。


 それなのに今は思い切って声を出すのが怖くて仕方がない。


 そんな思いがうずまいて、脈が乱れ、手が震えた。


 まるで自分が自分でないような感覚だった。


 心も体も無力感に支配され、自分が自分でないかのような気分になってしまった。


 そんな私を見かねて、ジョーンズさんが駆けつけた。


 彼は私に謝罪すると、なりふり構わず歌いだしたのだ。


 なぜかジョーンズさんを止めにきたほかの皆も、それに釣られて歌い出す。


 音程も、声量のバランスも無視した、がむしゃらで必死な歌声。


 まるで、一人ひとりから強い想いが伝わってくるかのようだ。


 そんな光景を見ていると悔しさと怒り、それにも増して熱い何かが体を駆け巡る。


 隣で歌うステファニーちゃんとスタッフの皆を見て、否が応にも心が奮い立つ。


 ――もう一度思う。私は一体何をやっているんだ、と。


 ここで歌えなければ意味が無い。


 酔っている時だけ歌えても仕方がないのだ。


 どうなってもいい。


 今歌えればどうなってもいい。


 音程もどうでもいい。


 声に魔力さえ乗ればそれでいい。


 もう一度歌を。


 私に歌を。


 そう思った瞬間。


 ――声が出た。


 いつも通りの声が。


 私の気持ちに応え、私の喉が動く。


 ステファニーちゃんにスタッフの皆を加えた大合唱が、私の背を押してくれる。


 そう感じた瞬間、震えが止まり、無理に叫ばなくても発声できるようになる。


 声はどんどん大きくなり、音程も安定していく。


 そう、昔はこんな風に歌っていたのだ。


 視線を感じて顔を向ければ、瞳に涙を滲ませたステファニーちゃんが頷いた。


 私は強く頷き返すと、歌にこめる魔力を強めた。


 途端、歌唱台から出た音に色が付き、オーロラとなっていく。





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