40 休息中に遭遇。その人物とは……!
――翌朝、オレリアさんと村長にお礼を言い、村を後にする。
家を出る瞬間、村の皆が待ち構えており、そのまま見送られる形で出立となってしまったのが、微妙に恥かしかった。
「さて、街に帰るか。日帰りのつもりが一泊になっちゃったし、ちょっと急ぐかな」
俺は全身をほぐすため、首や肩を回し、足を屈伸する。
ちょっと気合を入れて走れば、昨日より早く街に着ける自信はある。
今はそれに加えて名乗魔法も覚えた。
魔法を使えば更に速くなるし、移動時間を短縮できそうだ。
俺は全身を巡る魔力の勢いを強め、名乗魔法の発動準備に入る。
「お餅モチモチまるもっちー!」
高らかに、名乗魔法を発動。これで速度増し増しである。
「ミミ、しっかり掴まっててね」
『分かったよ!』
縮んだミミが、胸ポケットにしがみ付いたのを確認し、駆け出す。
速い……。そう自分で自覚してしまうほどに、危険な速度に到達してしまう。
昨日走った時は、景色が凄い速度で遠ざかる感じだったが、今回はもはや瞬間移動レベルで景色が変わる。ぶっちゃけ危険だ。
起伏の激しい山中で出していい速度ではない。
案の定、ミミが怯え出したので急停止する。これはいけない。
力加減を修正し、ミミが楽しめる速度をキープして再出発。数分で山を越え、森へ入る。
しばらく走っていると、川が見えた。
そういえば火属性の魔法をまだ試していないことを思い出し、川へ向かう。
『川だ! お魚取るの?』
「ううん、昨日の魔法の続きだよ」
質問に答えつつ、川へ向けて手をかざす。
手のひらに魔力を集中させ「火炎弓!」と、唱えるも無反応。
残念ながら、火属性の適正もなかった。無念。
俺の行動を見ていたミミが、自分もやると言い出したので、地面へ降ろしてあげる。
『火炎弓!』
続いてミミが魔法名を唱えるも、火の玉は発生しなかった。
これで、二人とも火属性の適正がないことが分かった。
「残念、ミミも使えないみたいだね」
『できると思ったんだけどな〜』
二人揃ってしょんぼりしてしまう。
これだけやって属性魔法が使えないと、そこそこショックだ。
「よし、気分転換だ」
こんな時は、癒やし効果をたっぷり載せた餅を食うのが一番。
そう考え、餅スキルで大福を作り、ミミと二人でおやつ休憩にする。
折角河原にいるので、石を積んでかまどを作り、枝を拾って魔力点火で火をつけてみる。
うまくいったので、魔力製水で水を出して鍋に入れ、白湯を沸かして飲んだ。
川の流れる音に耳を傾けながら大福を頬張り、白湯で一息つく。
「ふう、落ち着くなぁ」
『見て、お魚が跳ねたよ!』
「う、見逃した」
などと話しながら、のんびりする。
こうやってゆったりした時間を過ごしていると、属性魔法なんて使えなくてもなんとかなるか、と思えてくる。
生活魔法が使えるだけで便利だし、それだけで充分かもしれない。
俺たちがほっと一息ついていると、川の対岸に三人の人影が見えた。
一人が一人を背負い、残りの一人は杖をついている。
距離が離れているせいで顔ははっきり見えないが、何やら大声で話しているのが聞こえてくる。
「川に着いたぞ! あそこで応急処置をするから、もう少しの辛抱だ!」
「しっかりせえ! わしだって肋骨が何本も折れとるんじゃ、気合いを入れんか!」
「分かってるわよ……。大声出さないで……」
声を聞き、三人がエドモンさん一行だと気付いた俺は慌てて駆け寄った。
「エドモンさん!? 大丈夫ですか!」




