4 餅人間の固有スキルがまさかの……!
「そうそう、はじめは凄い能力に目覚めて喜んでるんだけど、段々ハエ化していくんだよね〜」
正解を言い当てたみたいで気持ちいいのは分かるけど、その状況に直面しているかもしれない人間の前で嬉々として言わないでくれ。
「……そうか、俺は転移失敗者。つまり、その映画みたいに着ぐるみと人体が合成されてしまったというわけか。……って、着ぐるみ人間を通り越して、ゆるキャラの特性まで受け継いで餅人間になっちゃってるんだけど!?」
鑑定した時、餅人って出てたし。
着ぐるみ人間というより、完全にゆるキャラ化しているような気がする。
「そこはきっと世界の理が空気読んでくれたんじゃないっすか?」
「着ぐるみ人間じゃ、あんまり変わらないもんね」
「そういう心遣いができるなら、はじめから失敗しなけりゃいいんじゃないかな!」
俺が思いの丈を叫ぶと、「も、申し訳ありません」と、魔導師のリーダー格っぽい人が悲壮感たっぷりに謝ってきた。
先程からちょいちょい発言しているこの人が、召喚計画の指揮をとっていたとのこと。
名前はルイーズさんといい、宮廷魔術師なのだそうだ。
彼女の謝罪を契機に、深刻で重い空気が漂いはじめる。
空気に耐えかねたのか、鷹村君が俺を肘で小突きつつアイコンタクトしてくる。
それに応じた俺は、「あ、いや、全然大丈夫ですよ。五体満足で健康ですしね!」と笑顔を作った。
――その後、勇者である鷹村富士原ペアは王様と謁見。俺は客間に通されて待機となった。
謁見が済んだ後、二人はそのまま会議に参加。
そこでブラックドラゴン討伐に向けての計画が練られる。
その過程で、俺の扱いも決まるとのことだった。
微妙な能力値とスキルな上に、勇者召喚のオマケである俺が王様と謁見するのもおかしな話だし、戦闘に詳しいわけでもないから、会議に加わっても邪魔になるだけ。
ここは大人しく待つしかない。変に騒いで目を付けられるのも嫌だしね。
この体が元に戻るのかとか、元の世界に帰れるかとか気になることはある。
だが、それらはブラックドラゴンとの戦いが終わらない限り、どうしようもない。
しばらくは皆忙しそうだし、こちらに構っている暇も無い。
そうなってくると、俺はやることがない。微妙に手持ち無沙汰だ。
「これが俺の新しい体か……」
と、両手を見つめる。
角のない円柱のようになってしまった腕は、モチモチして柔らかい。
これって物とか掴めるのか?
疑問に思いながら手に意識を向けると、ボクシンググローブのように形状が変化する。
更に集中すると、五指に分かれて箸も難なく持てそうな感じに変化した。
が、気を抜くとすっと円柱に戻ってしまう。
「なんとも不思議な……」
餅の如き柔軟性に驚愕する。
しばらく手を出したり引っ込めたりして遊んでいたが、飽きてきた。
他に何かないかな。
「そういや、変な固有スキルがあったな」
餅と癒やし効果。
俺にだけ備わったスキルだ。
会議が終わるまでまだまだ時間がありそうだし、スキルの検証でも行ってみよう。
早速、餅っと念じてみる。
すると、つき立てからしばらく時間経過し、適温となった食べ頃の餅が手のひらに現れた。
めっちゃホカホカだぜ。
名前どおりに餅を出すスキルで間違いないようだ。
次に癒やし効果っと念じてみると、全身が淡い光に包まれた。
――客間の中心にあるソファに腰掛け、旨そうな餅を手にしたゆるキャラが全身発光。
扉を開けてばったり遭遇したら、ドッキリを疑うレベルでのシュールさだ。
まあドッキリでもないし、餅を手にして発光しているのは俺自身だが。
「……宴会芸かな?」
餅人間になるわ、全身が発光するわで、異世界の俺に対する扱いが酷い。
癒やし効果って光るだけなの? と様子を見るも、特に何も起こらない。
それならこれでどうだ、と餅に癒やし効果っと念じてみる。
念じた瞬間、光が手のひらに集束、一瞬で餅へ吸い込まれた。
光を取り込んでも餅は発光しなかった。
俺はその餅を口の中へと放り込み、咀嚼。
わりと自棄になっていた上に小腹が減っていたので、躊躇いなど一切無し。
どこからともなく出てきた上に、怪しげな光を吸った謎の餅を味わう。
「あ、うまっ」
異世界で味わう故郷の味。
それだけで普段の数倍美味しく感じてしまう。
餅を味わっていると、この数時間の内に起きた出来事から生じる不安が洗い流されていく。
心に穏やかさが訪れ、気持ちが落ち着いてくる。とてもほっとする。
餅を食べ終わる頃には心の中にあった負の感情が一掃されていた。
――きっと、これが癒やし効果。
「これが俺だけの固有スキル……」
餅を生み出す力と癒やす力。そのまんまだ。
癒やし効果スキルに関しては食べ物を介しないと、うまく発動しないのだろうか。
いや、淡く光る俺を見ていると心が癒やされるのかも……。
変なスキルと思ったが、自力で食料を作りだせるのは大きい。
今使った感じだと全く負担を感じなかったし、相当大量に作っても問題なさそうだ。
その後色々と試してみた結果、餅スキルで生み出せる物をある程度把握できた。
このスキル、結構自由度が高い。
餅に関係する食べ物を自在に作り出すことができてしまった。
さすがに餅要素の少ないわらび餅や、汁気がある雑煮なんかは不可能であったが。
それでも、大福や三色団子なら楽々出せた。この世界で甘味に困ることは無さそうである。
「ちょっとお腹一杯になってきたな……」
検証をしすぎた結果、スキル使用で疲れるより、腹の方が限界を迎えてしまった。
ちょっと膨らんだお腹をさすり、一息。
餅、団子、大福。元の世界でも、一度にこれだけ食べたことはない。
ファミレスのメニューを、上から順に制覇したかのような満足感があった。
うん、食べすぎだな。
「お茶が欲しいな」
固有スキルにお茶がないことが悔やまれる。
そこはセットで完備しておいてほしかったよな。
などと考えながら、ごろりと寝転び、あることに気付く。
――あれ?