38 オレリアさん、やさぐれる。その理由はとんでもないものだった!
「雑! 急にどうしたんですか!?」
名乗魔法を教えてくれている時は、色々な話を交えながら丁寧に教えてくれていたのに、この落差は一体。
「……いいから。やってみなさいよ。抗議はそれから受け付けるわ」
つべこべ言ってないでやってみなさいよ、みたいなオーラを発してくる。
……ちょっと怖いです。
「分かりましたよ」
俺は納得できないものを感じつつも頷いた。
一応、魔法自体は見せてもらえたので、イメージはしやすい。
後は実践あるのみだと言いたかったのかもしれない。
『ねえ、マスター。ミミもやってみたい!』
俺が生活魔法を試そうとしていると、ミミがオーバーオールの裾を摘まんでくる。
見ているだけだと、退屈になってきたのかな。
「よーし、一緒にやろうか」
『うん!』
というわけで、ミミと一緒に生活魔法を使ってみることにする。
突き出した片手に魔力を溜め、火が灯るイメージを思い描きながら魔法名を唱える。
「魔力点火」『魔力点火』
すると、俺とミミの片手からポッと火が出る。成功だ。
お次は、体の汚れを浮かすイメージを思い描く。
「魔力清掃」『魔力清掃』
二人同時に魔法名を唱えると、それぞれの体がピッカピカになった。
体感としては汚れを浮かせて取り除くといった感じだ。
水洗いというわけではなさそうだ。
もっと魔力を込めれば、効果範囲を広げて部屋全体とかやれそうな雰囲気がある。
もう一度魔力を片手に溜めた俺とミミは、顔を見合わせ、頷き合う。
「魔力製水、魔力製氷」『魔力製水、魔力製氷』
魔法名を唱えると同時に、手のひらからジョボジョボと水がこぼれ落ちた後、小さな氷が地面に落ちる。
四回連続成功。いい感じである。一旦深呼吸し、次の発動に入る。
「魔力温風」『魔力温風』
タイミングがぴったり合った状態で、二人同時に温風発射。
洗濯物をかわかせそうな温かさの風が、緩やかに吹く。
「おお、出来た」
『やったー!』
俺はしゃがみ込むと両手を突き出す。
するとミミがぴょんと飛び上がって、ハイタッチを返してくれる。やったぜ。
「……本当にあっさり出来ちゃったわね。私は使えるようになるまで、結構かかったのに……。ちょっと悔しいわ」
俺たちの様子を見ていたオレリアさんが、呆れた様子で呟く。
「あ、もうひとつあったわ。魔力消毒っていうの」
「魔力消毒。一応出来た手応えは感じましたね」
早速使ってみると、魔法が発動した感触があった。
けど、目に見える変化はないな。
「基本的に食べ物に使う魔法よ。冒険者をやっていると、生ものや腐っているかもしれないものを食べなければいけなくなるようなときがある。そういうときに使う魔法よ」
「それで食べられるようになるんですか?」
「あまりに酷い場合は無理ね。飢え死にするよりかは増しって手段ね」
「なるほど」
俺には餅スキルがあるし、そういった状況でお世話になることはなさそうな魔法だな。
「他に使う状況といったら、そうねえ……。運が悪いと、食べ物に小さな虫がまぎれていることがあるの。そういうのに当たって、お腹で悪さをされた経験がある人なんかは、生野菜や果物を食べる時なんかにも使ったりするわね」
「参考になります」
オレリアさんが言っているのは寄生虫のことだろうか。ちょっと怖いな。
生っぽいものを食べる時には、念のために使っておくのがいいかもしれない。
これで生活魔法は全て教わった。
後は……。
「最後は属性魔法ですね」
属性魔法は実際に試してみて、適正があるかどうかを確かめる必要がある。
適性がなければ試した瞬間に直感的に分かるらしい。
「まあ、そうなるわね。じゃあ、氷貫弓、水勢弾、魔風刃、硬石弾の順にやってみて。属性は氷、水、風、土よ」
オレリアさんに魔法名を聞き、ミミと二人で順に試してみるも、どの魔法も発動しなかった。
どうやら俺とミミには氷、水、風、土属性の適正はないようだ。
「後、私が知っている属性魔法で試してないのは、火属性の火炎弓かしら。でも、ここで発動しちゃうと火が燃え広がるから、火事にならないような場所を見つけて自分で試してみて」
「確かにここで成功したら、山火事になりますね。川でも見つけたらやってみます」
火属性の魔法をこんな水気のない山中で撃つわけにはいかない。
帰り道に水辺があれば、そこへ向かって撃って、発動できるか試してみればいい。
「他にも属性魔法は沢山あるけど、私が教えられるのはこれで全部よ。残りは、専門の学校なんかじゃないと、無理かもしれないわね」
一旦はここまでか。




