360 ミミにせがまれ、まさかの展開に!?
フローラさんの肩を揺するも反応が薄く、起き上がる気配がない。
このままだと熟睡してしまいそうだな。
「仕方ないなぁ。片づけが終わったら部屋に運ぶか」
『マスター、マスター』
「どうしたの?」
『ハーモニカを聴いたら、フローラさんも起きるんじゃない?』
「どうだろう……」
音が目覚まし代わりになるかもしれないが、あそこまで酔っているとちょっとやそっとでは起きなさそうだけどな。
『ミミ、ハーモニカが聴きたいな』
「そういえば、最近吹く機会がなかったもんなぁ」
なんで目覚ましにハーモニカを使うのか不思議だったが、そういうわけか。
どうやらミミは、久しぶりにハーモニカが聞きたかったみたいだ。
『だめ?』
ミミがじっと俺を見つめてくる。
「よし、縁側に出て吹こうか」
俺はハーモニカを吹くことを即座に決定する。
いつも頑張ってくれているミミのためなら、何だってやりますとも。
『やったー!』
ミミは大喜びで飛び跳ねた。
『早く!』と服をつかまれ、縁側に誘導される。
そんなに聞きたかったのか。
俺はそれほど演奏がうまい訳じゃない。嬉しいけどちょっと照れくさいな。
縁側に座ると、ミミが膝の上に乗る。
ハーモニカを吹く時は、俺の膝の上がミミの特等席だ。
「それじゃあ、吹くね」
『うん!』
演奏すると、膝の上に座ったミミが楽しそうに体を揺らしながらハミングを歌いだした。
というか、歌が浄化の魔法になっているような……。
楽しそうだし、まあいいか。
演奏が中盤に差し掛かった頃、急に肩をつかまれる。
「私もやる!」
「おわ!? フローラさん?」
何事かと振り向けば、フローラさんが鼻息荒く立っていた。
掴んだ肩をモミモミしてくるのも忘れていない。
俺の体って柔らかいから、何かしらの理由をつけて揉まれがちなんだよな……。
フローラさんはミミを背後から抱き上げ、ぎゅっとしたまま仁王立ち。
目が据わってる……。
「ハーモニカ! やって!」
「は、はい……」
強烈な圧をかけられ、ハーモニカを吹く。
すると、ミミと一緒にハミングを始めた。
一曲終了し、二曲目、三曲目……。
五曲目を終了したあたりで満足した雰囲気を感じたので、演奏を止める。
急にどうしたんだ?
というか……。
「フローラさん、今歌えていましたよね?」
ハミングとはいえ、ちゃんと発声し歌になっていた。
「ほんとだ!」
自分でも自覚がなかったのか、遅れて気付いていた。
「なんで……」
そして歌えた瞬間を思い出すようにして考え込む。
「楽しい雰囲気で適当にやったからじゃないですか? 失敗が許されないような状況じゃなかったし」
誰かに披露するわけでもなく、自分がやりたいようにやっていたから気楽だったんじゃないだろうか。
プレッシャーになるような要素が少なかったから、歌声が自然と出たのではと予測する。
「喉が苦しくなかった」
フローラさんは自身の喉に触れながら呟いた。
「前から気になっていたんですけど」
「何でしょう?」
「話す時もそうでしたよ? 普段は途切れ途切れに発声していたのが、モンスターと対峙したときとか、驚いた時は普通に話していました」
と、俺は気付いたことを話す。
フローラさんは普段話すとき、声が途切れ途切れになる。
が、追い詰められたような状況の時は詰まることなく話せていた。
「え、ほんとに?」
今まで全く気が付いていなかったのか、俺の指摘に驚きの表情となる。
「今もスラスラ話せていますよ。酔っているから?」
かくいう今も詰まりがなく話せている。
酔いで意識がおぼろげになっているからかもしれない。
「全然気が付かなかった……」
「意識していないときだから、覚えていないのかもしれないですね。多分、発声以外に注意が向く時は、普通に話せていたんだと思います。テリーさんとケンカしていたときも、段々普通に話していましたし」
声のことに集中しすぎると、うまくいっていない印象がある。
他の事に気をとられると、普通に話せているんだよね。
「……そうだったんだ」
俺の説明を聞き、フローラさんがかみしめるように呟く。
「普段から声を出すことに、強いプレッシャーを感じているのかもしれないですね」
「どうすれば……」
「リラックスするのも一つの手ですけど、プレッシャーに慣れるのが一番ですよ。プレッシャーをプレッシャーと感じなくなれば、それはリラックスしているのと一緒ですから」
フローラさんの喉は治っている。
なら、後はリハビリ的なことが重要になってくるのだと思う。
「そんな無茶苦茶な」
俺の言葉を聞き、フローラさんが険しい表情になる。
「喉に問題がないのであれば、これから少しずつ練習していって、いい経験や成功体験で上書きしてしまえばいいんです」
いくら治っているとはいえ、不安がある状態での練習は精神的に応えるだろう。
だけど、慣れることは重要だと思う。
強いプレッシャーに慣れていけば、弱いプレッシャー下では普通にできるようになるかもしれない。
そして弱いプレッシャー化で自在に出来るようになれば、自信に繋がる。
そういったことを積み重ねていけば、うまくいっている経験が下地となって、より大きなプレッシャー下でも普段のパフォーマンスが出せるようになる可能性は高い。
「練習か……、もうずっとやっていないな……」
そう呟いたフローラさんはどこか遠くを見つめていた。
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