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36 魔法発動! その効果がとんでもなかった!

 

「名乗魔法……、どんな効果がある魔法なんですか?」


 名前から効果が予想できない。先が気になった俺は、オレリアさんに尋ねる。


「ひと言で言えば、身体強化よ。筋力が上がるとか、そういったレベルじゃないわ。魔力を含めた全ての能力が一定時間強化されるの。要は、基礎能力が上昇するといった感じかしら。だから汎用性抜群。戦士だろうが、魔法使いだろうが、その恩恵にあずかれるわ」


「おお、それは凄い!」


「興味持ったかしら?」


「俺に、名乗魔法の使い方をご教授ください。お願いします」


「よろしい。この魔法は手に魔力を集中させるのではなく、全身の魔力を増幅させることが前段階となるわ。その後が少し特殊ね。呪文詠唱の変わりに名乗るの。現象想像では発動しないわ」


「自己紹介するってことですか?」


 なんか、不思議な魔法だな。珍しい魔法と言うだけはある。


「そうよ。敵に己の正体を自ら明らかにし、自分から逃げ場を無くしていく。弱点を晒して決死の覚悟を決めることにより、無意識に制御していた力を一時的に解放するの」


「火事場の馬鹿力みたいな感じか……」


「火事場の?」


 そういうことか、と魔法のイメージが何となく固まってきた。


 つい、呟いてしまったため、オレリアさんに聞き返されてしまう。


「いえ、うちの田舎のことわざみたいなものです」


「そう。じゃあ、実際に使ってみるわね」


 というわけで、オレリアさんの指導の下、魔法の実践練習に入る。


「まずは全身に流れる魔力を感じ取るの。次に、お腹の辺りに力を込め、魔力の流れる量と勢いを増やす。自分の意思で全身を循環する魔力の量を増やすの。沢山息を吸い込んで、強く吐くみたいな感じ。その状態を維持したまま、名乗る」


 オレリアさんが、ゆっくりとした動作でひとつひとつ丁寧に説明してくれる。


 準備段階を終え、最後の詠唱ならぬ、名乗りに入った。


「我が名はフジェの村のオレリア。村長の孫にして、氷結魔法使いの狩人!」


 片手を前に突き出し、凛とした通る声で叫ぶ。


 途端、彼女の周囲に風が舞った。


 オレリアさんから圧のようなものを感じ、肌からピリピリとした感覚が伝わって来る。


 なんだろう、雰囲気が変わった気がする。


「おお!」


「こんな感じよ。ちょっと恥かしいけど、恥かしいと思うくらいのことを言わないと発動しないわ。当然、声も大きい方がいいからね。それじゃあ、やってみて」


 俺は静かに首肯して立ち上がると、ミミから離れた。


「ミミ、少し離れていてね。……まずは、魔力を感じ取るところからですね」


 発動の初期段階は、魔力を感じることだと言っていた。


 ここが最初のハードルになりそうだ。


「魔力はお腹の上の方、鳩尾から全身へ向けて循環しているわ。だから鳩尾部分が体の中で一番魔力が濃いの。お腹に手を当てて集中していると、段々感じ取れるようになってくるはずよ」


「分かりました。やってみます。…………あ、これかも?」


 お腹に手を当て、集中する。


 すると、今までに感じたことのない感覚を味わう。これが魔力?


「中々筋がいいわね。もしかしたら魔力が高いのかしら……。じゃあ、強く息を吐くようなイメージで魔力の勢いを強めてみて」


「出来ました。う……、これって結構維持が辛いかも」


 強めることは出来たが、声を出すのも難しい。


「慣れるまでは、そう感じるかもね。そして、次は名乗る。なるべく、自分のことを詳細に話す。コツとしては、相手が有利になって、自分に不利になる情報を開示するの。でも、長く話すと詠唱が長いのと同じで、発動まで時間がかかってしまうわ。だから、なるべく簡潔にね」


「む、難しいですね」


 急にそんなことを言われても、困る。


 自己紹介しろって段階でハードルが高いのに、どうしろと。


 大体、自分が不利になる情報って言われても、パッと思い浮かばない。


 だって、レベルカンストしてるし……。


 とりあえず、簡潔に自分を表す言葉だけでも何とかしよう。


 何かないかと考え、すぐに思い浮かぶ。


 今の俺なら、これしかない。


「お餅モチモチまるもっちー!」


 俺は決めポーズと共に、目一杯叫んだ。


 途端、全身からオーラのような炎が上がり、力が漲るのを感じる。


 ――成功だ。


 ゆるキャラの決め台詞と決めポーズで発動しちゃったよ……。



 試しに軽く反復横飛びをしてみると、残像が出るほどの速度が出た。


 そんな俺を見て、オレリアさんが目を見開く。


「なんでそんな名乗りで発動するのよ! 意味が全然伝わらなかったんだけど!……待って。おかしい。その動きはおかしい!」


「え、発動失敗ですか!?」


「違う、そういうことじゃないから。速過ぎるって言ってるのよ!? 見えないから! さっきから速過ぎて背景が透けて見えるのよ!」


「じゃあ、成功していることはしているんですね」


「まあね……」


 無事、名乗魔法を習得したことに安堵する。よかったよかった。


 よくないから! というツッコミが入りそうなので、声には出さないでおこう。



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