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358 依頼を取り下げ、まさかの展開に!?

 

「それは依頼を出しても誰も来ないですよ」


「え、ダメですか?」



 が、俺の依頼内容を聞いたエラさんが首を振る。


「この街の冒険者は漁師がほとんどですからね。素手で戦う状況なんてないんですよ」


「そういえばそうか」


「そもそも、普通の冒険者でも素手で戦うことはないと思いますけど?」


「それもそうか……」


 二つの理由を聞き、それももっともだと納得してしまう。


 誰が好き好んでモンスターと素手で戦おうとするのか。


「どこで依頼を出しても、誰も来ないと思いますよ?」


 エラさんにきっぱりと言い切られてしまう。


 可能性はゼロというわけか。


「いいアイデアだと思ったんだけどなぁ」


 思いついた時はナイスなアイデアだと思ったが、行き詰まってしまった。


「ギルドとしても、モンスターと素手で戦うような状況になったら逃走を勧めますよ。煙幕玉なんかで逃げる方が無事に済む可能性が高いですからね」


「煙幕玉って何ですか?」


 初めて聞く名前が出たので尋ねる。


「投げつけると、目くらましの煙を出す玉です。中々使うタイミングのない道具ですが、あると便利ですよ」


「へぇ、そんなものがあるのか。今度買っておこうかな」


 意外に使い勝手がよさそうな道具だ。


 いざという時に所持していれば便利かもしれない。


「格闘術を習うよりかは、使えると思います」


「く、その通りだと思います。依頼は取り下げます」


 エラさんに言われ、依頼を出すのを諦める。


「誰も受けてくれないと思うので、その方がいいですよ」


「分かりました。それじゃあ、祭りの準備が始まったら、またよろしくお願いしますね」


「はい。お待ちしています」


 依頼を通して格闘術を習うことをあきらめた俺は、ギルドを後にした。


 ギルドを出た俺はミミと手をつなぎ、散歩気分で宿に帰る。


「それじゃあ、宿に戻ろうか」


『久しぶりだね!』


「そうだね。今回は屋外で活動する事が多いから、ほとんど宿を使っていないな」


 森に滞在したり、無人島に居座ったりしていたから、あまり利用していない。


 街にいるのに珍しいパターンだ。


『ミミね、あそこの料理大好きなの』


「美味しいよね」


 ミミに言われ、月の雫亭の料理を思い出す。


 アクアパッツァやパエリア。マグロのタタキなんてもの美味しかったなぁ。


 ミミはエビフライがお気に入りだったっけ。


『うん! 今日のご飯が楽しみなの』


 ワクワクした表情のミミが、楽しそうに言う。


 そんなミミの姿を見ていると、俺も夕食が楽しみになってきた。


 ウキウキした気分で宿に着き、扉を開ける。すると、言い争う声が聞こえてきた。


 何事だ、と中に視線を向けると、テリーさんとフローラさんが口論しているようだった。


「祭りくらい出ろよ!」


「そういうわけにはいかないのよ!」


「なら準備は? 手伝いはできるだろ!」


「ダメよ。私が顔を出せば、色々と……」


「何でだよ! あいつにひと声かけてやってもいいだろ」


「……それは」


 テリーさんが詰め寄り、フローラさんが困ったように表情を歪ませる。


「皆心配してるんだぜ? 冒険者なんてやめて、みんなの手伝いをやった方がいいって」


「そこまで割り切れるわけないでしょ!」


 フローラさんはそう叫ぶと、宿を飛び出して出て行ってしまった。


「待てよ、姉貴!」


 テリーさんが声をかけるも、フローラさんが立ち止まる気配は無い。


「あの、何が原因で口論になったんですか?」


 目撃してしまった俺は、事情を聞こうとテリーさんに話しかけた。


「ちょっと祭りのことでな……」


 と、詳しくは話してくれない。


「俺、追いかけてきます」


 駆け出していったフローラさんが心配だし、後を追うか。


「悪いな。俺が行っても、またケンカになるだけだろうし、頼む」


 テリーさんの言葉に頷き返した俺とミミは、宿を出てフローラさんの後を追った。


 …………


 フローラさんは宿の下にある砂浜にいた。


 ぼんやりと海を見つめ、立ち尽くしている。


 俺は驚かれないようにそっと近づき、声をかけた。


「フローラさん、大丈夫ですか?」


「あ、まるもっちーさん……」


「戻りましょう。またケンカになりそうだったら、俺が間に入りますんで」


「明日帰ります。今日はちょっと……」


 帰ろうと言うと、言葉を濁すフローラさん。


 今戻っても気まずい雰囲気になるのは間違いないし、時間を置いた方がいいか。


「なら、森に家を出しますよ。何か美味しい物でも食べましょう」


 テリーさんには後でこっそり伝えておこう。


「……うん」


 俺の提案に、フローラさんは小さく頷いた。


『マスターの大福を食べたら元気になるよ!』


 と、ミミがフローラさんの手を取って歩き出す。


「まだ夕食には早いし、今日は作ろうかな」


 無人島では魚を焼いたりしたけど、最近は作り置きを食べてばかりだった。


 たまには作り立てを食べるのも悪くない。


 歩きながら今日食べる料理の献立を考えていると、ミミがこちらに手を振って来た。


『マスター!』


 ミミにせがまれ、手を繋ぐ。


 全員で手をつなぎ、ミミを真ん中にした俺たちは街を出て森へと向かった。





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