32 捜索開始! ミミが重要な手がかりを発見か!?
凄まじい勢いで景色が変わり、山が近づいてくる。
後方を見れば、足を動かすのに合わせて、土煙が激しく舞い上がっていた。
こちとらレベル99だ。身体能力の高さは折り紙つきなのである。
「一応予想通りの結果だけど、実際に走ってみると驚くな」
『わぁー♪ 速い速い!』
流すように走り、山頂へと到着する。
「中々の見晴らしだな」
高所から見下ろし、地図と目的地を照らし合わせる。
周囲は似たような山が多数あるため、ここは慎重に見ていく必要がある。
じっくりと見定める中、村のようなものが見えた。
「へぇ、あんなところにも人が住んでいるのか」
王都とタマリの街しか見た事のなかった俺にとっては、小規模な村を見るのは初体験。
壁のように厚い木の柵は崩れ、中の家屋が見えるもボロボロだった。廃村なのだろうか。
何かの目印になるかもと村を記憶しつつ、地図と景色の間を視線で往復。
しばらくして、目的の山を発見する。
「多分あれだな」
『あの山に行くの?』
「そうだよ。また走るから掴まっていてね」
『うん!』
ミミが身構えるのを確認した俺は目的地へ向けて山を下った。
しばらくして、依頼のポイント近くへと到着する。
匂いを嗅いで探ったり、気配を探知したりするスキルでもあれば便利なのだが、俺はそんなスキルを持っていない。ここからは地道に探すしかない。
もう走らないので、ミミには元の大きさに戻ってもらう。
ここからは二人で森を散策、もとい、捜索を開始する。
周囲に何か痕跡が残っていないか、視線を巡らせながら、ゆっくりと歩く。
俺の隣では、ミミが真剣な表情で探してくれている。
そして、『マスター、見て!』と、どんぐりを拾ってきてくれた。
うん、捜索は順調に進行中だ。
どうもこの辺りは倒木が目立つ。嵐でも通り過ぎたかのように、荒れていた。
「お、湧き水だ」
しばらく歩き回り、水が湧いている場所を発見する。
大きさは水溜まり程度だが、澄んだ水が溜まって泉になっていた。
もしかしたらギュスターブさんたちは、この辺りで休息をとったのかもしれない。
「あら、冒険者さん?」
泉を見ていると、背後から声をかけられる。
振り向くと、女の人がこちらを見ていた。
雪のように透き通った白い肌に、青みがかった銀色の長髪が映える
なんとも涼しげな雰囲気を漂わせる女性だった。
手には籠を持っており、中にはキノコが沢山詰まっていた。
「はい、まるもっちーと言います」
自己紹介し、ぺこりと頭を下げる。
「ご丁寧にどうも。私はオレリアよ。依頼?」
「はい、死骸運搬の依頼です。といっても、依頼のモンスターを捜索中で、まだ運んではいないんですけどね」
「そうだったの。私は近くの村からキノコ採りに来てたのよ」
「大漁みたいですね」
「ええ、今から帰るところ」
「トレントの死骸を探しているのですが、この辺りで見かけませんでしたか?」
この辺りに住んでいるなら、何か知っているかもと聞いてみる。
「ううん、見てないわ。村の人がモンスターの死骸を村に運び込んだりしているのも見ていないから、まだ誰も見つけていないと思う。そのまま残っているんじゃないかしら」
「そうだといいんですけどね。もう少し探してみます。ありがとうございました」
「見つかるといいわね。だけど、ここからはなるべく早く離れた方がいいわ」
と、オレリアさんに忠告を受ける。この辺りは危ない地帯なのだろうか。
「何かあるんですか?」
「昨日、ラッシュボアの群れが現れたのよ。多分、ブラックドラゴンから逃げて来たんじゃないかしら。そのせいで、村はボロボロ。私は食料探しってわけ」
「もしかして、あの辺りにある村ですか?」
俺は、山頂から見下ろした時に見つけた村があった方を指差して尋ねた。
「そうよ。来る途中で見えた? 家や畑が荒れちゃって大変なのよ。もし、持ち帰れないくらいモンスターを倒したら、おすそ分けしてね。それじゃあ」
と、冗談めかしに言うとオレリアさんは去って行った。
俺は彼女を見送ると、トレントの死骸捜索を再開する。
泉から離れ、しばらく歩いた所で開けた場所に出た。
「見つけた……、あれだ」
そこで目当てのトレントの死骸を発見する。
トレント、でっかい木のモンスターだ。
木材として利用され、非常に需要が高い。
害獣のくせに、高級木材の待遇という不思議な存在。
ざっと見渡すと、剣で斬られた跡や、矢が刺さっている死骸が十体。間違いない。
近づけば、討伐証明部位が取り除かれていた。
俺は、トレントの死骸をアイテムボックスへと収納する。
「よし、これで後は帰るだけだな」
『お仕事、終わったの?』
「うん、うまくいったよ」
『やったー!』
万歳するミミに笑顔で応えながら、帰ろうと立ち上がる。
すると、急に辺りが薄暗くなった。
何事かと思えば、巨大な影が差し込んだせいだった。
影の正体は巨大なモンスター。俺の正面に立ちふさがる形で、巨大な猪が現れたのだ。
軽トラほどの大きさの猪は、鼻息荒くこちらを睨んでいた。
お互いの視線が交差し見つめ合う中、新たな猪が次々と現れる。
「多分、こいつらがラッシュボアなんだろうな……」
見た目はうり坊のように可愛らしい。
そんな外見に反するように、突出した二本の巨大な牙が凶悪さを醸し出す。
巨大で気性が荒そう。群れと呼ぶにふさわしい頭数。ついさっき聞いた話と合致する。
鑑定スキルを使ってみると、ラッシュボアと出た。
うん、やっぱり正解だ。
……さて、どうしよう。




