31 新たなクエストを受注。それは……!
素材売却を済ませた俺は、再度冒険者ギルドへと戻ってきた。
「お金に余裕は出来たけど、依頼をこなした方がいいよな」
貯金があるうちに色々な依頼を経験しておくのは、悪いことじゃない。
今なら失敗しても違約金を払えるし、難しそうな依頼にも挑戦できる。
『今日もお外に出るの?』
「う〜ん、そうだなぁ。何か丁度いい依頼があれば、出たいけど……」
ミミに答えながら、掲示板を見て回る。
「お、これなんてどうだろう」
手に取った依頼は死骸運搬というものだ。
モンスターは討伐証明部位さえ持っていけば、討伐依頼達成となって報酬が貰える。
そのため、モンスターを倒した後、様々なパターンが発生する。
証明部位だけ取って放置する。
その場で解体し、必要な素材だけはぎ取っていく。
初めから荷運び専用の要員を確保していく。
荷車や馬車を活用する、と様々だ。
どの場合にも言えることは、運べる重量に限界があるということ。
予定を超える数のモンスターを倒してしまい、持ち運びが不可能となってしまえば、討伐証明部位以外を持ち帰るのは難しい。
かといって、死骸を取りにもう一度その場に戻るのは、無くなっている場合を考慮すると、ためらいが生まれる。
そういった時、後にギルドを通じて依頼を出す場合がある。
それが死骸運搬依頼である。
モンスターの死骸は傷みにくい。
というか、普通の動物の死骸とは全く違う損壊のしかたをする。
一週間は鮮度が全く落ちず、一定期間を過ぎてから損壊が始まるのだ。
損壊という表現を使ったのは腐るわけではないからだ。
どちらかというと時間経過とともに焼け焦げた炭の様になって塵になっていく。
そのため、保存や運搬が容易なのである。
しかも、虫が湧かないというオマケ付き。
だから依頼を出し、止む無く置いてきた分を取りに行ってもらう、という依頼が成立する。
残された死骸は早い者勝ちなので、他の冒険者が持っていってしまうこともある。
自分で行くのは儲けがなかったときに悔しいが、人に任せれば時間を無駄にしなくて済む。
そして、倒した当人が正確な場所を覚えているので、依頼の成功確率は高い。
このタイプの依頼は、低ランクでも受けることができる。
なぜなら、モンスターを討伐するわけでないから。
うまくいけば、ただ運ぶだけ。積極的に戦う必要がない。
モンスターの生息地へ足を踏み入れるわけだから、リスクは伴う。
だが、それに見合った旨味を感じられる依頼でもある。
俺は依頼の詳細を聞くため、受付を通して依頼主と面会した。
「やあ、依頼の話を聞きたいってのは、君かい?」
「はい。まるもっちーと言います。よろしくお願いします」
「俺はギュスターブ、よろしくな。見たところ一人のようだが、大丈夫か? 依頼書を見てもらっているなら分かると思うが、トレント十体の死骸だぞ」
「アイテムボックスがあるので、大丈夫です」
アイテムボックスというスキル自体は存在するので、そう説明しておく。
実際は固有スキルの特殊アイテムボックスだけど、言わない方が都合が良い。
これからも何か聞かれたら、そういう感じで押し切っていこう。
「おお、そいつは頼もしいな。トレント十体入るとなると、かなりの大容量じゃないか。俺のパーティーに欲しい人材なくらいだ。どうだ、依頼は止めて、うちのパーティーに来ないか?」
「すいません。そういった勧誘は現在お断りしています。できれば、依頼の話を……」
まさかの勧誘を受けてしまう。
鉄級であろうとも、アイテムボックスを持っていると確保したい人材になってくるようだ。
俺はのんびりやっていきたいので、今はパーティーを組むことは考えていない。
そういったわけで断った。
「そうか、分かった。くぅ……、惜しいな。よし、気持ちを切り替えて依頼だ。俺たちは討伐依頼を受けた帰りに、トレントの集団に襲われたが返り討ちにしたんだ。その時すでに討伐対象のモンスターを運搬中だったため、倒したトレントは、討伐証明部位以外を残して放置してきた。そいつの持ち帰りを依頼したい。報酬は、解体後の買取価格の三割。他の冒険者が持ち帰ったり、別のモンスターが食ってしまったりしている可能性があるから、何体残っているかは分からん。現地に着いて、依頼対象が発見できなかった場合でも依頼失敗にはならず、違約金は発生しない。その代わり報酬もゼロだ。やるか?」
「受けます」
「おお、助かるぜ。地味に量が多いから、中々受けてくれる人がいなかったんだ。じゃあ、詳細を地図に書く」
と、ギュスターブさんから目的地までが描かれた地図を受け取る。
地図を描いてもらう過程で細かい説明も受けたので、ルートも理解した。
後は、依頼のブツが無事に残っているかどうかだけ。
誰の目にも触れず、モンスターにも食べられていなければ依頼達成したようなものだ。
俺は受付で依頼の受注処理を済ませ、ギルドを出て街の外に出た。
『マスター、今日はどこに行くの?』
「今日はね、あの山を越えるんだ。ちょっと遠出になるかな」
ミミの問いに、俺は目的地を指差しながら答える。
ギュスターブさんから聞いたトレントの死骸があるポイントは、一山越えて、その次の山の中腹。
山脈のようになっているため、山越えは必須だ。
中々の距離だが、十体となると、諦めてしまうのが惜しいのも分かる。
俺はミミを頭から降ろすと、その場で軽くジャンプして体をほぐす。
今回、目的地に向かうに当たって、何の準備もしていない。
本来、山越えをするなら、それなりの装備や食料が必要になる。
だが俺は、強引に日帰りで終わらせるつもりでいた。
レベルをカンストした俺が気合を入れて走れば、多分何とかなるだろうという腹積もりだ。
「しかし、全力疾走となると危ないかもしれないな……」
と、ミミを見下ろす。頭上に乗せたまま荒地や山を全力で走り回れば、落としてしまうかもしれない。
俺の頭がデカいから、肩車やおんぶはできないし、困ったな。
おんぶ紐のように、背に紐でくくりつけるか。それとも抱っこ紐みたいにしようか……。
思案していると、ミミが『どうしたの?』と聞いてくる。
「ちょっとの間早く走りたいから、ミミを頭の上に乗せるのは危ないなあと、考えていたんだ」
『じゃあ、そこに入る』
と、オーバーオールの胸ポケットを差す。
「う〜ん……。ちょっと、この中には入れないかな」
ミミのかわいい発想に、つい顔が綻んでしまう。
確かに胸ポケットに入ることが出来れば良かったが、サイズが合わない。
いくら小さいとはいえ、ミミの大きさは幼児ほど。
ポケットに収まる大きさではない。
『これなら入る?』
そう聞いたミミが、俺の目の前でいきなり縮みだした。
「ええ!?」
何の前触れも無く起きた出来事に驚き、声を上げてしまう。
ミミの体は見る見るうちに小さくなり、その大きさは人形ほどになって止まった。
『しばらくなら、この大きさでいられるよ』
「これならポケットに入るわ……」
問題解決である。
『本当? やったー!』
「じゃあ、しっかり掴まっていてね」
『分かった!』
俺は元気よく頷いて応じてくれるミミを、オーバーオールの胸ポケットへ入れた。
縮んだ状態ではタオルケットは大きすぎるので、アイテムボックスへ収納。
ミミは少し残念そうな表情をしていたが、寝るときになったらまた出すよ、と言うと笑顔に戻った。
胸ポケットにタオルケットを詰めるとパンパンになるので、ここは我慢してもらうしかない。
ミミが真剣な表情でポケットにしがみ付いたのを確認し、目的地へ向けて駆け出す。
といっても短距離を走るわけではないので、速度と体力の消耗は抑えている。
最大速度を出すつもりでは走っていない。あくまでマラソン感覚であり、ジョギング感覚だ。
だが、速い。
この餅人間、意外に速い。




