28 素材売却。その金額はなんと……!
「あ、まるもっちーさんにミミちゃん! お帰りなさい!」
星の糸車亭に到着し扉を開けると、凄まじい勢いでアリサちゃんが駆け寄って来た。
だ、大丈夫か。
「ただいま。そんなに走って大丈夫?」
アリサちゃんは体が弱い。
初めて会った時も顔色が悪く、階段を上るのもかなり辛そうだった。
それが全力ダッシュでのお迎え。体調が心配になってしまうのも仕方ない。
「それが、昨日の夜辺りから凄く調子がいいの! 寝ている時も咳が出なかったし、朝から動いていても疲れないの。だからつい嬉しくなっちゃって!」
と、ニッコリ笑顔。おまけにその場でクルリとターン。
様子を窺えば肌に艶があり、血色も良い。
息切れしている様子もない。確かに凄く調子が良さそうだ。
昨日、何かあったのだろうか。
例えば、薬を飲んだとか……。
「あ……」
と、ここまで考えて、あることを思い出す。
俺は昨日、アリサちゃんに癒やし効果スキルをたっぷり注いだ月見団子を一つあげた。
彼女は、その場で美味しいと言って食べてくれていたが……。もしや……。
「どうかしましたか?」
「あ、ううん。何でもないよ」
確かめる手段がないので、何ともいえない。
が、今のアリサちゃんの快調さと、俺の固有スキルが関係している気がしてならない。
まあ、元気になったんだし、それでいいか。
その後、俺たちは宿の食堂で食事を済ませ、部屋へ戻った。
俺とミミ、二人でベッドに腰掛け、ほっと一息。
就寝前のおやつ感覚で、月見団子を食べ、お茶で一服。
うん、落ち着くな。
「この世界のことも、何となく分かってきたな」
隣で美味しそうに月見団子を食べるミミの頭を撫でながら、そんなことを呟く。
この異世界、中々に特殊だ。
建造物は中世っぽい趣があるも、文明は妙に偏った発展を遂げている。
それは、モンスターと魔法という元の世界では存在しなかったものが、強く影響しているためだろう。
例えば食べ物。色々と食べ歩いた結果、肉の消費量が半端ないと分かった。
どこで食べても肉、肉、肉。
それはなぜかと問われれば、モンスターの肉を食べているためだ。
モンスターは、とても繁殖力が高い上に人を襲う。
危険度の高い害獣なため、定期的に討伐する必要がある。
結果、肉の供給が安定しているのだ。
牧畜も行われているようで、主に鶏や牛を育てていた。
だがそれは、食肉のためではなく、卵と乳のため。肉はモンスターのものが使われる。
実際、モンスターの肉は旨い。鶏肉や牛肉の味に似たモンスターがいるなら、わざわざ鶏と牛を食う必要はない。
そして、調味料も豊富。
冒険者セットは塩のみの味付けだったが、あれは例外だ。
色々食べ歩いてみると、そんなことはなかった。
砂糖や胡椒の使用頻度は高く、スパイスを使った料理も販売されていた。
お陰でいい匂いに釣られて買い食いしてしまうこと数度。屋台の魅力、恐るべし。
また、料理にハンバーガーやポテトチップスがあることから、俺たち以外にも昔誰かが勇者召喚された可能性も考えられる。
買い食いや買い物をした結果、金貨一枚が大体一万円くらい、銀貨一枚が千円くらい、銅貨一枚が五十から百円くらいに感じられた。
現物は見ていないが、金貨百枚分に当たる魔銀貨なるものと、金貨千枚に相当する魔金貨というものも、存在するらしい。
要は、百万円札や一千万円札に相当するものだ。今の俺には縁が無さそうな代物である。
次に魔道具。
この世界には、魔石と呼ばれる魔力を秘めた石が存在する。
それをエネルギー源として、様々な機能を発揮する道具を魔道具という。
魔石が電池のように付け替え可能になっており、故障しない限りずっと使えるという優れものだ。
魔道具の種類は照明、コンロ、冷蔵庫、水道にシャワーと多種多様。
生活に密着した形で、何でもあるのだ。
余りに便利すぎて、街に来てから文明のレベルが低くて生活に困るということがない。
最後に薬草。
俺は今日、薬草採取の依頼を受けた。
その際に知ったが、薬草は街の中でも栽培されているそうだ。
治療院と呼ばれる病院代わりの所や、薬屋に薬園があり、そこで栽培、収穫され、薬が作られている。
しかし、畑で育てた薬草で作った薬は効果が薄くなってしまうらしい。
過酷な自然環境で生き残ったものでないと、上級の回復薬は作り出せないとのこと。
そのために薬草採取の依頼が存在するのだそうだ。
ミミが作ってくれたベンダーラ草は上質なものと鑑定され、依頼で問題が発生することはなかった。さすがミミ特製である。
街に来て二日、色々なことが体験できた。
この二日で知りえたことは、どれも元の世界の感覚だと、不思議に感じるものが多かった。
そういった部分は、時間をかけて慣れていくしかない。
だが、それがとても楽しく、ワクワクする。
次はどんな不思議なものが見られるのか。
そんなことを考えていると、どうにも目が冴えてしまう。
明日は買取所に行かないといけないし、そろそろ寝ないと……。
「寝るか〜」
『うん!』
「じゃあ、ミミにはこれをあげよう」
と言って、今日買ったタオルケットをアテイムボックスから取り出す。
俺はタオルケットで覆うようにして、ミミの頭に被せた。
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