250 遭遇! とんでもない事態に……!
「すっかりご馳走になっちまったな。それにしてもお前、試験の方はいいのか?」
俺の問いに、ゆったり白湯をすすっていたちんちくりんが寝坊したことに気付いたようにハッとした表情になる。
おいおい、大丈夫かよ。
ちんちくりんは急いで道具類を片付けると、俺の方をじっと見て来た。
「心配すんな。傷は治ったし、もう一人でも大丈夫だ」
という俺の言葉にも疑り深い表情を向けてくるちんちくりん。
「ほら、この通りだ。ピンピンしてるぜ」
しょうがないので、その場で跳んでみせ元気なことをアピールする。
「さっさと行った方がいいぞ。試験中なんだろ?」
ここで俺の介抱をしていたせいで、かなり時間が経過している。
制限時間のある試験は、大体が八時間と決まっている。
これ以上ここで油を売っていては間に合わない。
「早く行けって。失格になったらお前のマスターが悲しむぞ」
主のテイマーが今の状況を知れば、何をやっているんだと憤るに違いない。
赤の他人の面倒を見て、失格なんて最悪の展開だからな。
ちんちくりんは決心を固めたのか、俺に手を振って来た。
「おう、試験頑張れよ」
手を振り返し、ちんちくりんを激励しておく。
これだけ助けてもらったにも関わらず、俺のせいで失格になったら寝覚めが悪いからな。
ちんちくりんはニコッと笑うと俺に背を向けて走り出した。
「ふう、行ったか。それじゃあ、俺も街に帰るか」
もう、ここでやるべきことはない。
傷も癒えたし、さっさと街に帰るべきだろう。
失格は確定だし、気分転換に酒場で一杯やりたい気分だ。
俺は立ち上がると、森の外を目指して歩き出した。
…………
「くそ……、今日はついてないな……」
つい愚痴が漏れる。
木の陰に隠れた俺の視線の先にはレッドウルフの群れが居やがった。
これ以上近づけば気付かれる。
いや、この場に留まっていても、匂いで察知されている可能性すらある。
相手は複数。戦うには数が多すぎる。
かといって迂回しようと動けば物音で気付かれてしまうかもしれない。
身動きがとれない。最悪の事態だ。
ターゲットのモンスターにカウンターを喰らって負傷したと思ったら、今度はモンスターの群れと遭遇……。今日は本当についてない。
いちかばちか、走って距離を開けるしかないか……。
考え出した策は逃走。
何をやっても気付かれるなら、少しでも早く動くしかない。
幸い、手持ちに煙幕玉がある。
こいつを使って、相手を攪乱し、その間に脱出を図る。
試験だからと奮発して買っておいてよかったぜ。
俺は着火の魔道具で煙幕玉に火をつけると、木の陰から飛び出す。
そして、レッドウルフ目がけて投げつけた。
煙幕玉が地面へ落下すると同時にレッドウルフに背を向け、駆ける。
全力疾走だ。
「はぁ……はぁ……、ちくしょう……、なんで森の出口にいやがるんだ……」
レッドウルフから逃げるため、森の奥へと逆戻り。
いや、初めに来た時より、更に奥へ進むこととなってしまう。
状況を確認するため、後ろを振り返ってみるが、レッドウルフの影はない。
振り切れたか?
いや、まだ安心できない。俺は体力が続く限り走り続けた。
しばらく走っていると、森が開け、湖が見えてきた。
そこであるものが見えた俺は慌てて立ち止まる。
「ウソだろ……」
湖のほとりにはラッシュボアがいやがった。
あれはまずい。銅級の俺が単独で戦って勝てる相手じゃない。
ラッシュボアは湖の水を飲んでいるため、まだこちらには気付いていない。
逃げるなら今だ。
しかし、反転して走ればレッドウルフと再会する恐れがある。
迷いが生じる中、俺はラッシュボアを呆然と見つめるしかなかった。
そのせいで、あるものがふと視界に入った。
「ッ!? あいつ何やってやがる!?」
なんと、ラッシュボアに対峙するように、ちんちくりんが身構えていたのだ。




