228 スタート前に衝撃の事実が発覚……!
それからあっという間に時間が過ぎ、レース開始まで後三十分。
観客席は隙間なく埋まり、皆の視線が出場する魔走車に注がれている。
まだ始まらないのか、という無言の期待が高まり会場全体が昂揚した雰囲気に包まれつつあった。
開始時間が近づくにつれ、レース特有の緊張感が高まっていく。
そんな中、俺は地図を見ながらルートの確認を行っていた。
長距離レースは旧街道と呼ばれる現在は利用されていない道の一部を利用して行われる。
街道を通るのは、ミルティユの街の側を通るときだけだ。
「折り返し地点まで片道四日。一日毎にチェックポイントで休憩し、朝になったら順位順に時間差を付けて出発するのか」
チェックポイントはただ停車するだけでなく、整備も可能となっている。
ここで準備を整え、次の日に挑む感じだ。
俺の呟きを拾ったジョゼさんがその通りと頷く。
「旧街道を使用する事で、一般の馬車や魔走車とすれ違うことが少なくなる。これで事故を予防しつつ、速度を出せるわけだ。そして、レース仕様の魔走車を長時間走行させることにより、四日という短時間で折り返し地点まで着くことを可能にしている。片道四日、往復で八日。出場選手は運転技術だけでなく、体力、精神力などが必要とされ、総合的な能力を競うのが長距離レースだ」
「ジョゼさん……、大丈夫ですか? いくらなんでも試運転で走るには過酷過ぎる気がしますけど」
改めてレースの概要を確認し、ジョゼさんが心配になる。
「……昨日、思いつきで決めて今日が本番だったから、冷静に考える時間がなかった。今さらだが、これはまずいかもしれないな」
コースを見たジョゼさんも俺と同意見のようで、語尾が弱々しくなる。
昨日は魔走車の調整が終了したせいで軽い興奮状態だった。
今思い返すと、あの時は乗りだけで決めてしまっていた。
冷静になると、ちょっと不安だな。
「魔走車を使うのはやめて、俺が抱えて走りましょうか?」
「ッ!? い、いや、君に負担をかけるわけにはいかない。私も出来る限り自分の事は自分でする。だが、無理だと思ったらチェックポイントで途中退場させてもらうことにするよ」
「それがいいかもしれませんね」
無理をした結果、折角調整が終わった魔走車が故障しては意味がない。
ジョゼさん自身への負担も馬鹿にならないし、身に危険を感じたらそこまでにしてもらおう。
「む、スタートの準備が整ったみたいだぞ。確か遅れて出るんだったな」
「はい。はじめは団子状になるので、先頭集団が形成されてから追い抜く形になります。それで、何か代案は思いつきましたか?」
「ハンデをつけて一位を取るのとほぼ同じなのに、方法なんて思いつくわけがないだろう……」
少し前に俺が疑問に思ったことにジョゼさんも気付いたようだ。
そうなんだよな。ほぼ全車をごぼう抜きしないといけない。
「それじゃあ、初めのチェックポイントまで魔走車はお預かりしますね」
「止むを得まい……。なるべくゆっくりで頼む……」
「いやいや、先を進む集団に追いついて、先頭近くまで抜かないといけないですから」
それは無理な相談というものだ。
「そうなるか……」
ジョゼさんががっくりとうなだれる。
「こっちは小型で小回りが利きますから、先頭集団まで追いつくのもそれほど時間はかからないはずです。その後は速度を落としますよ」
今回の長距離レース用魔走車は、短距離レースのものと比べるとかなり大きい。
それは、モンスターを退けるために結界を内蔵し、舗装されていない悪路を進める仕様になっているためだ。
また、数日過ごす荷物を搭載するスペースを確保してあるためでもある。
余計なものを詰んでいる分、大型で重量もあるので速度は短距離レースで出場した魔走車より遅い。
多分、抜くのはそれほど難しくないはず。
「それじゃあ、失礼しますね」
「頼む。君は相変わらず柔らかいな。これから起きることがなければ、心地良くて眠ってしまいそうだ」
横抱きにしたジョゼさんから、寝心地が良いと言われてしまう。
『マスターは、とっても柔らかいの! お布団とは違う柔らかさなの』
と、頭上のミミがジョゼさんの言葉に同意する。
まあ、餅ですからね……。
と、思っているとシグナルが点灯し、サイレンが鳴る。
「あ、スタートしましたよ。俺たちはもう少し後ですね」
「十分後だったな。全く、とんだハンデ戦だ」
などと話している間に、時間が経ち、出発となる。
俺は歓声が引いた会場を駆け抜け、外に出た。




