22 食事中に精霊の凄さを実感。その理由は……!
入浴後、ホコホコになった俺たちは食堂へ向かい、夕食を取ることにした。
アリサちゃんの説明によると、宿泊費用に含まれる料理は別命「冒険者セット」と呼ばれる。
冒険者セットは腹に溜まることに重点をおいた質素な料理らしい。
別料金を払えば美味しい料理が食べられるとのこと。
体が資本の冒険者には味より、安くて量が多いものが喜ばれる。
結果、そういうシステムに変わったそうだ。言われて納得である。
全体の費用を抑えつつも、利用客を満足させる工夫というわけだ。
当然俺は冒険者セットを注文。豪華な料理を食べてみたい衝動に駆られるも、これからの見通しが立たない状態で贅沢は禁物である。
振る舞われた料理は肉がゴロッと入ったスープに大きくて固いパンと少量のチーズ。
ファンタジーの創作物でよく見かける、定番のメニューといった感じだった。
ひと口食べてみると、味の方はいたって普通。
料理の腕がどうこうということではなく、味付けがシンプルそのもの。
調味料は塩しか使っていないのかもしれない。
これはこれで素材の味が楽しめて美味しい。何より量が多いのが魅力だ。
『マスター、ちょっと高いの』
隣を見れば、椅子に座ったミミが、料理に手が届かず困っていた。
「おっと、ごめんごめん。これで届くかな」
俺はミミを膝の上に乗せ、一緒に食べることにする。
これは大人用の椅子に座れるようになるものを買わないといけないな。
今度探してみよう。
『ぴったりの高さだよ! 食べていい?』
「どうぞ召し上がれ」
『美味しいね!』
「うんうん」
ミミはスプーンなどがうまく使えず、口の周りがベタベタになってしまっていた。
俺は、相づちを打ちながら口元を拭いてあげる。
『マスター、今度はこぼさずに食べるから見てて?』
「おう、やる気だな!」
『うん!』
ミミがおぼつかない手つきで一生懸命にスプーンを使ってスープを飲む。
正直、手伝いたくて仕方がないが、ここはぐっと我慢。
見ているこっちの方がハラハラしてくる。
頑張れ!
『できたよ!』
「おお! 上手に食べれたね」
頭をなでてやると『うふふ』と、嬉しそうに笑っていた。
一度で出来てしまうとは、意外に器用で優秀。うちの精霊、相当の逸材である。
ミミがどの程度食べるか分からなかったので、自分の分を含めて料理を二人前頼んだ。
ちょっと多すぎたかな? と思ったのは杞憂に終わる。
ミミは、一人前分をペロリと平らげてしまったのだ。
表情を見ると、まだ物足りなさそうだ。餅スキルで磯辺焼きを作ってあげると、満足してくれた。
しかし、ミミは何でも食べる。
犬や猫なら、人間の味付けだと濃すぎて体に悪い。それに玉葱などにも、気をつけないといけない。人と同じ物を食べると、危険なことが多いのだ。
しかし、草木の精霊であるミミには、そういったことはない。
この街に来るまでの道中で、本人に聞いてみたが『精霊だから大丈夫だよ』と、得意気に胸を張っていた。
草木の精霊っていう位だし、植物を食べると共食い的なことになってしまわないのか、とも聞いてみたが、精霊と植物は違うとのこと。
精霊事情には詳しくないので、そういうものなのかと納得するしかない。
それにしても、食べ物に気を使わなくていいのは助かる。
同じ物を食べて美味しいと言い合えるのも、地味に嬉しい。
ただ、俺より食うので、分量だけは気をつけていかなければ。
元気一杯に沢山食べる姿はかわいいし、色々な料理を食べさせてあげたい。
食事を終えた俺たちは部屋に戻った。今日はもうやることもないし、あとは寝るだけ。
っと、寝る前にお願いしたいことがあった。
俺は、頭の上で楽しそうにしているミミに話しかけた。
「ミミ。ミミが精霊だってことは、内緒にしておきたいんだけど、いいかな?」
この世界で精霊というのが、どういった扱いなのか、未だ分からない。
モンスターの従魔ということにしておいた方が、余計なトラブルが発生しない気がする。
『秘密ってこと?』
「そう、二人だけの秘密だ」
『かっこいいかも! うふふ、ミミが精霊だって知ってるのはマスターだけなの』
秘密という部分が気に入ったようで、快諾してくれた。
これで、精霊と気付かれるまでは、モンスターということでゴリ押ししていける。
いつまでバレないかは分からないが、しばらくはこれで通していこう。
お願いも済んだし、頭上のミミをベッドへ降ろしてやる。
さて、眠るとしますか。
『マスターと一緒に寝たい』という要望に応え、同じベッドでの就寝となった。
ミミは初めてのベッドに興味津々。『柔らかくて、温かいよ!』と、とても大事な情報を報告するように話してくれる。
「明日も朝から動くから、今日はもう寝ようね」と背を撫でる。
すると『はーい! ベッドで寝るの、楽しいね』と元気一杯の返事が返ってきた。
これは気分が昂揚して、中々寝付けないパターンで確定とみた。
どうやら、初めての宿にワクワクしていたのは、俺だけではなかったようだ。
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