19 服を購入しようとするも、とんでもないことに……!
丁度列が途切れており、すぐにカウンターへと着くことができた。
「いらっしゃいませ。タマリの街、冒険者ギルドへようこそ。受付担当のシモーヌがお伺いします。本日はどういったご用件ですか?」
受付のお姉さんが兎耳をピコピコと動かしながら聞いてくる。名前はシモーヌさんか。
「冒険者の登録をしたいのですが」
街に来る前は、冒険者になろうとは考えていなかった。
けれど、ミミと一緒に街に居るためには登録が必要不可欠。
それなら、冒険者として頑張ってみるのも悪くない。
なんか面白そうだしね。
「登録料として金貨一枚をいただきます。問題ありませんか?」
「はい、お願いします」
「確かに。それではこちらの用紙に、必要事項を記入してください。分からないところは書かなくて結構です」
お金を払い、用紙を書き込んでいく。
といっても、名前や年齢など最低限のことしか書く必要が無いので、すぐに書き終えてしまう。
ちょっと迷ったのはクラスの項目くらいだ。
鑑定結果を参考にすれば俺は精霊使いらしい。
だが、そのまま書くとミミとの従魔登録に支障が出るかもしれない。
今回の目的はミミと街中を歩けるようにする事だ。
となると、衛兵の人が言っていたテイマーというクラスにしておいた方が無難だろう。
そう判断し、用紙にクラスをテイマーと記入しておく。
書き終えた用紙を渡すと、それを元にカードを作成してくれた。
「では、こちらのカードに、血を一滴垂らしてください」
と、自分の名前が入った金属製のカードと、針を受け取る。
さっそく針を指先に刺して、血を出そうとする。
痛そうだけど、ここは我慢我慢。
「……うお」
だが、刺した瞬間、針がぐにゃりと直角に曲がってしまう。……刺さらないぞ。
俺は慌てて針を真っ直ぐに曲げ直して、元に戻した。
まさか刺さらないとは……。この体、どんだけ頑丈なんだ。
しょうがないので、針を刺した辺りの指先をカードにこすりつけてみる。
するとカードが何やらピカッと光り出す。やばい……、壊してしまったか?
「はい、登録完了ですね」
と、別の作業をしていたシモーヌさんが、顔を上げてカードを確認してくれる。
血を垂らさなくても何とかなったようだ……。
「最後に、これが簡易マニュアルになります。読んで分からないことや、詳しく知りたいことがあれば、気軽に受付にお尋ねください。では、頑張ってくださいね!」
マニュアルという名の折りたたんだ紙を貰い、冒険者登録はあっさり終了。
って、ここで終わってしまうと困る。
肝心のミミのことが何もできていないわけで。
「あ、ちょっと待ってください!」
「まだ何かありましたか?」
「ええ。この子を従魔登録? したいのですが……」
俺は頭上で手を振るミミを指差した。
ミミに気付いたシモーヌさんは一瞬驚いた表情を見せるも、すぐに手を振り返す。
何とも微笑ましい光景である。
「す、すみません! うっかり忘れていました……。テイマーの方なんて初めてでしたので。う〜ん……、その子はアルラウネの子供……ですかね?」
「そ、そうです」
シモーヌさんの問いに、目を逸らしながら頷く。
頭上でミミが『違うよぉ〜?』と言っていたが、今はそういうことにしておいてくれと頭の中で念じる。
すると、『分かった!』と返事が返ってきた。
聞き分けのいい子で助かるぜ。
「登録料として、銀貨五枚が必要になりますが、大丈夫ですか?」
「よろしくお願いします」
「それではカードをお借りしてもよろしいでしょうか。……はい、記入しました。これで従魔登録完了です。他にご用はありますか?」
「いえ、ありがとうございました」
無事、ミミの登録も終え、受付を後にする。
座れる場所でもあれば、貰ったマニュアルをじっくり読みたい。
そう思って、周囲を見るも、ギルド内は人が多くて騒がしい。
集中して読むには、ちょっとふさわしくない環境だ。
別に急ぐわけでもないし、宿を取った後に部屋でゆっくり読めばいいかな。
「お、終わったか。じゃあ、服屋へ行くぞ。付いて来な」
俺がぼんやり考えていると、エドモンさんがどこからともなく現れた。
エドモンさんは俺の腕を取って外へと引っぱっていく。
そしてそのまま服屋へと連行されることとなった。
もちろん抵抗することもできた。だけど、いつまでも腰みの状態でいるのは嫌だ。
ここは素直に付いて行こう。
「あ、エドモンさんいらっしゃい。今日はどういった物をお探しですか?」
「おう! こいつに合う服を見繕ってくれ」
「あら貴方、新人冒険者なのね。ふふ、エドモンさんったら、またお節介してるんだ」
「そうだ。悪いか」
「はいはい、ちょっと待っててね」
あっという間に服屋へ到着し、エドモンさんが店員さんと話をつけてしまう。
俺、ひと言も話してないんだけど。
と思っている間に、店員さんが服を持って戻ってきた。
「ごめんなさいね。貴方のような体型だと、合う服が限られるのよ。今、お店にあるのだと、これくらいしか丁度いいのがなさそうなの」
手渡されたのは、胸元に大きなポケットのある特大サイズのオーバーオール。
それを見て、そりゃそうだと納得する。
俺は頭がデカい。
人並み以上のサイズだ。
となると服を着ようとしても、頭が入らない。
Yシャツタイプでも、普通のサイズだと首元が締まらない。
下は何かしら穿けると思うが、上着は無理。
魅惑のゆるキャラボディが、こんなところで仇になるとは。盲点だった。
オーバーオールなら俺の大きな頭を通す必要もない。
ナイスチョイスである。
「まあ、確かに俺の体はデカいですしね。普通の人が着るようなのだと、体が入らないし……」
「そうなのよ。貴方の体に合う物となると特注になるわね」
「採寸して一から作るとなると、高そうですね……」
「おお? 俺だって体はデカいけど、服なら普通にあるだろうが。何でこいつのは特注になるんだ?」
「その……、言いにくいんだけど……、頭が……ね」
「ああ…………」
二人の同情するような視線が、俺の特大の頭と胴に注がれる。
そんなにジロジロ見られると、さすがに恥ずかしいぞ。
「気を使わなくていいですよ。自分でも分かってますんで」
「か、かわいいと思うわよ! でも服との相性は悪いのよね〜……」
「ま、まあ、それでも一着見つかって良かったじゃねえか。金は足りるか? 無ければ貸すぞ」
「あ、大丈夫です。それと、ここで着ていっても大丈夫ですか?」
「奥に試着室があるから使って。服は金貨三枚になるわ。特別サイズだから、ちょっと高いわよ」
「じゃあ、ちょっと着てきます」
店員さんに金を払い、服を受け取った俺は試着室へと向かった。
オーバーオールを素早く着用し、皆の下に戻る。
「うん、似合ってると思うわ」
「ああ、いいじゃねえか」
『マスター、かっこいい!』
「ありがとうございます。確かにしっくり来ますね」
皆からお褒めの言葉を頂き、笑顔で礼を言う。
ゆるキャラ体型と、この服は相性がいいのだろう。
自分で言うのもなんだが、こういうバージョンのぬいぐるみとかあったら、そこそこ売れそうな気がする。
とにかく、これで全裸状態から脱することが出来た。
服、なんと甘美な響きだろうか。
無事服を手に入れた俺は、エドモンさんと店を出た。
「で、お前、宿は決まっているのか?」
「いえ、街に着いたら冒険者ギルドへ直行したので、どこにも寄ってないです。従魔が泊まれる宿ってありますか?」
「従魔ってそいつのことか? その位のサイズなら、どの宿でも断られることはないと思うけどな。そいつ、吠えたり暴れたりするのか?」
「いえ、凄く大人しいですよ」
『そんなことしないもん!』と頬を膨らませるミミに「そうだよね、ミミはお利口さんだもんね」となだめる。いい子なんですって。
「なら、宿でひと言聞いてみればいい。そういうのを嫌がる客でも泊まっていない限り、問題ないと思うぜ。じゃあ、俺のお勧めの宿に案内してやるから、付いて来な」
「何から何まですいません」
「性分だから気にするな」
エドモンさんに案内され、宿へと向かう。
ファンタジー世界の宿屋と聞くと、ワクワクしてくる。
ただの宿ではあるが、今は快適さより好奇心が勝つ。
やっぱり、雰囲気って大事だよな。
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