166 揚げ物中にとんでもない事態に……!
気を取り直してカツを作っていく。
今回使うのもラッシュボアのロース肉だ。
まずは塊を食べ易いサイズにカット。次に筋切りを行い、両面に塩コショウ。次に小麦粉をつけた後、溶き卵にくぐらせる。
最後にパン粉をしっかりとつけたものを大量生産し、準備は完了。
「揚げ油の温度が分からないな……」
温度計なんて洒落たものはないので、直感でいくいかない。
まあ、高温になっていれば問題なく揚がるはず。
熱した油に何度かパン粉を放り込んで様子を見る。
充分熱くなったと判断し、パン粉を纏ったロース肉を投入。
途端、ジュワという良い音とともに肉の回りに細かい泡が出た。
「お、いい感じじゃないの?」
しばらく揚げて表面がしっかりと色づいたところでとんかつを取り出す。
ひと口サイズにカットしてみると、サクサクと小気味良い音が鳴った。
断面を確認すれば、ちゃんと火が通っていることが分かる。
「おお、見た目も旨そうだ……。上出来じゃないか?」
初めて作ったがちゃんとカツだ。
失敗しても揚げなおせばリカバリーがきくと思って選んだが、杞憂だった。
安心した俺は残りのロース肉を全て揚げていった。
出来上がったものからひと口サイズにカットして、キャベツの千切りと一緒に皿に盛る。
次に並行して作っていた味噌汁とご飯をよそう。最後に酢醤油を小皿に注いで完成だ。
「本当はソースにしたかったんだけどなぁ……」
酢醤油で揚げ物を食えばさっぱりとして旨い。
けど、とんかつと言えば、やっぱり中濃ソースだ。
しかし、市場を探してもソースを売っている店はなかった。
醤油や酢があるだけでもありがたい話ではあるが、無念ではある。
残念だが今回は酢醤油で食べるしかないのだ。
「ソースがないと意外に困るよなぁ……」
市場で売っていないのだから仕方ないが、あるとないでは天と地ほどの差がある。
そのまま単体でもよく使うし、何かと混ぜて使うこともある。
焼きそばやお好み焼きに至っては、ソースがないと別の料理になってしまう。
「これは自作しないとダメかもしれないな……」
中濃ソースを作るって滅茶苦茶難易度高そうなんだけど。
俺に出来るのだろうか……。
もう少し料理に慣れたら挑戦してみたいな。
ひとまず、とんかつは無事完成した。
さあ、後はジョゼさんを呼びに行くだけだ。
作業場へ行って声をかけると、ジョゼさんが軽く驚いた。
「君達、服を新調したのかい?」
どうやら服装が変わったことに驚いた様子だ。
そりゃあ二人揃って格好が変わってるわけだし、さすがに気付くか。
「ええ、前の服はボロボロになっていたので思い切って新しくしました。いい感じでしょ?」
『うふふ、マスターとお揃いなんだよ!』
ミミと二人、決めポーズを取って鼻を鳴らす。自信作ですとも。
「バーテン服か。二人とも似合っているな。それに作業にも向いていそうだ」
と、ジョゼさんからお褒めの言葉を頂く。
それにしても、まさかバーテン服と分かるとは。
まあ、奇抜な格好と思われないなら、なんでもいいか。
「まあ、服のことは置いておいて。ご飯が出来たので夕食にしましょう」
『ご飯なんだよ!』
「分かった、すぐ行く」
と、着替えたジョゼさんとダイニングへ到着。皆で夕食となった。
「ふむ、これはうまいな。衣はサクサクとしていて、肉は柔らかい」
『お肉、美味しいね!』
とんかつはミミとジョゼさんに大好評。二人とも美味しいと言ってくれた。
俺も食べてみるかと、とんかつをひと口。
「おお、肉が旨い……」
ラッシュボアの肉はとても柔らかく、大して咀嚼しない内に溶けるようにして消えてしまう。
肉と脂の旨味がしっかりとして食べ応えも充分。酢醤油で食べるのも悪くない。
でも、これだけ肉が旨いなら、中濃ソースで食べるともっと美味しいはず……。
その味を二人にも是非味わってもらいたいな。
しかし、肝心のソースがない。
やはり、自作するしかないのか……。
二人が美味しそうにとんかつを食べる姿を見ている間に、新たな目標がひとつできてしまった。
期限がある訳でもないし、ゆっくりとやっていきますか。




