161 夕食後。まさかの事態に……!
「明日以降に、家事以外にやっておくことはありますか? 買出しなんかがあれば行っておきますけど」
家事以外にも用事があればやっておくけど、何かあるかな。
「うむ……、この際だから言っておこう。買出しは必要ない。買うとすれば生活必需品と食材のみだな。……なぜなら」
ジョゼさんが深刻そうな表情で言葉を詰まらせる。
「なぜなら?」
俺はごくりと喉を鳴らした。
「もうお金がないんだ! 魔走車の材料や部品は高い。最早、今の私の懐事情では何一つ買うことは出来ない。だが、材料は一通り調達済みではある。失敗して魔走車の材料や部品が使い物にならない限りは問題ない」
「中々に綱渡り状態なんですね。良かったらお金を出しましょうか? ここで寝泊りするので、現状使う予定もないですし、家賃を払うということで」
そこまで切羽詰っているなら、家賃を払う形にすればいいんじゃないかな。
「うむ、大丈夫だ。さっきも言ったが物は揃っているんだ。何かが壊れでもしない限り問題ない。それに、エントリーしていない人物から金銭を受け取るのはグレーゾーンだ。判断によっては出場停止になるかもしれないから、止めておいた方がいいだろう」
と思ったら、ルール上は止めておいたほうが無難なのか。むむ、残念だ。
「そうなると、結構空き時間ができちゃうんですけど。冒険者の依頼とかこなしに行っても大丈夫でしょうか? ギルドマスターに何件か頼まれごとをされているんですけど」
「構わないぞ。もし、数日空けるようなことがあれば、事前には言ってほしいかな」
「分かりました。それと、長距離レース当日もギルドマスターから頼まれごとをされているんですが、抜けても大丈夫でしょうか?」
「私は長距離レースには出場しないから大丈夫だ。出場していたとしても、君はピットに入れない。だから短距離レース当日も依頼を受けてくれて問題ないよ」
「了解です。これならギルドマスターからの依頼は全部受けれそうだな」
どうやら、長距離レース中は依頼を受けても大丈夫そうだ。
さすがに短距離レースの日は予定を空けておいて応援にいきたいけど。
「ギルドマスター直々の依頼なら、引き受けた方がいいだろう。むしろ折角助手になってくれたのに、何もしてやれずに申し訳ない」
「いえ、俺も出来る範囲でジョゼさんが動き易いように精一杯サポートさせてください」
「助かる」
ジョゼさんから、ギルドマスターの依頼を受けてもいいと許可を得る。
これで依頼を断らずに済む。適当な所で時間を作って、依頼をこなしていくか。
「そうだ、君に頼んでおかないといけないことがあるんだ」
と、思い出したかのようにジョゼさんから話を切り出された。
「なんでしょう?」
「私が普段やっている仕事を引き継いで欲しいんだ。本当はレースの準備が終わらないので、期間中は全て断ろうと考えていたんだ。だが、君が来てくれたし、代行をお願いしたい」
「俺で大丈夫でしょうか? 知識の類いは持ち合わせていないんですけど」
ジョゼさんの代わりに仕事をするとなると、ちょっと不安だな。
「仕事の内容は事前に説明するから大丈夫だ。それに、元々レース期間中は仕事を減らすように申請してあるので、数自体少ない。多分、一件か二件くらいだと思う。基本、錬金術を使うような依頼は来ないから大丈夫だ」
「それなら……、なんとか」
そのくらいならやってやれないことはないか。
「助かるよ」
「それで、どんなことをするんですか?」
「下請けだよ。私たちのような小さな工房は大手の工房の依頼を受けて仕事をする事が多い。大手工房が作った商品が売れたら、それを配達して取り付け工事をするんだ。他には修理を引き受けることもある。うちはやっていないが、部品を大量生産するところもあるな」
「ということは、俺もどこかのご家庭に魔道具の取り付けに行くんですね」
話の感じだと、きっと大型の魔道具なんだろう。
風呂やシャワー、冷蔵庫やクーラー辺りかな。
「察しがよくて助かる。その通りだ。契約している小規模工房ごとに担当区域が決められていて、そのエリア内の仕事を受け持つことになっている。ただ、この時期はどの工房もレースに出たいから、大手がある程度自力で仕事をこなすけどね」
「そういう仕組みなんですね」
「うむ。というわけで、依頼が来た時は私の代行を頼みたい。内容を見て、難しいと判断した場合は断るよ」
「了解しました」
「助かるよ」
事前に説明してくれるなら、何とかなるか。
ちょっと面白そうだし、ワクワクするな。




