145 思わぬ方向に話が進み、とんでもない事態に……!
俺はジョゼさんの迫力に負け、ミミとソファに腰掛けた。
『いろんな物がいっぱいだね!』
ミミは目をキラキラさせながら床に散らばる物を見ていた。
今まで見たことがないものばかりだし、好奇心がくすぐられるのだろう。
「今は大事な時期だから、作業を優先しているんだ。目途が立ったら整理もする」
俺たちの部屋に対する無言の感想を察したジョゼさんが、視線を逸らしながら言い訳っぽく呟く。
それを聞いたヴィヴィアンさんが腕組みして、うんうんと頷いた。
「そうね、レースまであと一月。本来ならテスト走行を済ませて、コース練習に入り、微調整をしている時期ね。で、貴方は魔走車を完成させたのかしら?」
「……まだだ。だが、後少しだ。必ず完成させる」
「レースっていうと、魔走車レースのことですか?」
ギルドマスターからそんな話を聞いたことを思い出す。
それ関連で依頼を受けてくれないかと頼まれたんだよな。
「そうよ、この街の一大イベントなの。工房持ちの錬金術師は皆出場するわ」
「うむ。そういう意味では良い時期に来てくれた。一人では手が回らなくて困っていたんだ。君が助手になってくれて本当に助かるよ」
「錬金術は分かりませんが、雑用なら任せて下さい」
さすがに残り一月という時期に錬金術のイロハを教わって、魔走車の整備に参加するのは難しい。
そうなると、俺が手伝えるのは家事かな。
これだけ散らかっていると、やりがいがありそうだ。
「そうねぇ、ジョゼの今の状況を考えると、レースが終わるまでは本格的な指導は難しいでしょうね。そうだわ! 私が教えてあげましょうか? 幸い、うちは魔走車も完成して大体の調整も済んでいるわ。貴方にレッスンする時間も充分にあるから、遠慮は要らないわよ?」
ヴィヴィアンさんが声を弾ませながら俺の手を取って顔を近づけてくる。
が、ジョゼさんが即座に反応し、飛び掛って来た。
「隙あらば自分のところに引き抜こうとするんじゃない! 確かに本格的に教えるのはしばらく先になるだろうが、基礎なら今からでも教えられる! ヴィヴィの力を借りる必要はない!」
そう言いながらジョゼさんがヴィヴィアンさんを俺から引きはがした。
「あらぁ、本当かしら。助手を持ったことがない人間が片手間で指導しても、いい結果には結びつかないと思うけどぉ?」
ヴィヴィアンさんが口元を手で押さえ、クスクスと挑発的に笑う。
「ならば、そこで見ていろ。今、錬金術の基礎を軽く説明してみせる」
「うふふ、お手並み拝見といこうじゃない」
「それではまるもっちー君、始めるぞ」
「ぇ……? は、はい」
結果、ヴィヴィアンさんの挑発に乗る形で、ジョゼさんの錬金術授業が始まった。
えらく急な展開だな……。こっちは心の準備ができていないぞ。




