13 女神様への願い事。……叶う!
『そんなことをすれば、本当の意味で貴方を知る人はこの世界に誰もいなくなってしまうわよ?』
「女神様は知ってるじゃないですか」
『私たちをカウントしてもねぇ。大体、貴方は元の世界に帰らないの?』
「この姿で帰ったら、大混乱になってしまいますから……」
出来れば帰りたいが、そこは諦めるしかないだろう。
しっかりと気持ちを切り替えて、こちらで生きる術を探さねば。
『そのぉ、何ていうか……。こちらに残るのはあまりお勧めしないわよ? この世界って、貴方がいた世界より危ないから』
『だよな。今回は運が良かったが、次もうまくいくとは限らないぜ。この世界はお前が思っているより危険な場所だからな』
「でも、元の姿には戻れないんですよね?」
『『まあね』』
「なら、無理ですよ。この世界で頑張るしかないです。それで、お願いの方はできそうですか?」
『当然。こう見えて女神ですから』
『任せな。楽勝だぜ』
「それじゃあ、お願いします」
『それなら、おまけで向こうの世界にある貴方の痕跡も全て消しておくわ。勇者の二人も元の世界へ戻ったら、貴方の記憶は失われる。そうしないと元の世界に戻った二人や君の家族が色々考えちゃうものね。――そういうことでいいのよね?』
「はい、助かります」
『で、残り二つは何にする?』
『ちゃっちゃと決めな』
「え、今ので三つになりそうですけど……」
むしろ三つ以上な気がする。
『そんなケチ臭いこと言わないわよ。あの数の魔澱濁を倒してくれたんだから、多少はサービスするわ』
『だな。内容としてひとつのこととカウントできる範疇だ』
「う〜ん……、残り二つ……か」
前もって聞かれていればすぐ思い浮かぶが、直前で聞かれると難しい。
無難に金持ちにしてくれとでも頼んでみるべきか……。
いや、それより、
「そうだ、ブラックドラゴンの被害を受けた街を元通りにしてください」
『駄目よ』
『却下だな』
「え、どうして」
『残念だけど、魔澱濁の影響を受けたものには干渉出来ないのよ。だからこの森もこのままにするしかないわ』
『ありえない話だが、同じ理由でブラックドラゴンを倒してくれって願いも聞けない』
苦々しそうな表情で女神様が説明してくれる。
それを聞き、納得する部分もある。
「そうか、それで願い事をかなえてくれるってわけか……」
『気付いたみたいね』
『そういう事。俺たちに出来ない事をしてくれたお礼ってわけだ』
「そうなると……。あの、少し考えてもいいですか?」
中々残りの願い事が思い浮かばない。
ここで適当なことを言って後で後悔するのも嫌だし、時間をかけたい。
『なら、一旦ここまでにしておくわ。後で改めて聞きに来るから』
『願い事が決まったら、心の中で強く俺たちを呼びな。予定がなかったらすぐ来るからさ』
「強く念じるんですね、分かりました」
『私たちは人間と時間の感覚が違うから、待たせていると気を遣う必要は無いから。好きなだけ時間をかけるといいわ』
『極論、死ぬ間際でもいいぜ? しっかりと考えて決めな』
「そこまで時間はかけないつもりです。う〜ん、何にしよう……」
『それじゃあ、王都に行って二人を送ってくるわ』
『それと、討伐の周知に事実の改変だな。パパッとひとつめの願い事を叶えるとするか』
「ありがとうございます」
『陰ながら応援してるわ』
『じゃあな、頑張れよ』
そう言うと女神様たちは、空に吸い込まれるようにして消えていった。
「願いは叶った、ってことでいいのかな」
確認する術はないが、きっとそういうことなのだ。
ブラックドラゴンを全滅させることも出来たし、鷹村君と富士原さんも無傷で元の世界に帰れた。
本当に良かった。
俺は女神様たちが消えた方向に向かって「ありがとう」と祈った。
「まあ……、これがベストかな」
人間に戻ることが出来ないなら、元の世界に帰っても面倒事が増えるだけ。
それならこっちに残った方がまだましだ。
幸い、固有スキルのお陰で食料に困ることはない。
最悪、団子屋でもやれば、お金にも困らないだろう。
今の俺なら、何とかやっていける。願い事も二つ残っているし、大丈夫だ。
ここからは餅人のまるもっちーとして生きていく。
「頑張りますかー!」
気合を入れた俺は、景気づけに癒やし効果を発動し、全身を発光させてみる。
そして空へ向かって思いっきり拳を突き上げた。
やってやる!
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