10 ブラックドラゴンのおかわりが追加され、とんでもないことに……!
あれだけ大量の餅を勢いよく大量に食えば、そりゃあ喉も詰まる。
当然の結果といえば当然の結果であった。
俺が死んだブラックドラゴンを呆然と見つめていると、バササッと何かが羽ばたく音が聞こえてくる。
何事かと見上げれば――。
「そういえば、群れって言ってたわ……」
こちら目がけて飛んでくる黒い影が複数見えた。
この世界へ召喚された際、ルイーズさんにブラックドラゴンの群れが王都に向かっているから、倒して欲しいと言われたことを思い出す。
目の前の一匹が死んで何とかなったと思っていたが、そうではなかったのだ。
「も、餅だ……。とにかく餅を出しまくるしかないッ」
慌てた俺は、再度特大偽まるもっちーを作り出す。
二度目ともなると案外手慣れたもので、製作速度と完成度が上昇し、前回より出来栄えの良いものを手早く仕上げることができた。
が、相手は複数。一体作っただけでは、身代わりとして機能しないに違いない。
「うおおおお! 急げぇえええ!」
ブラックドラゴンの群れが迫る中、急ピッチで作業を進めていく。
作れば作るほど速度と完成度が上昇し、確実に数を増やしていく。
初めに作っていたものは成形するだけで手一杯だったため、ポーズも棒立ちであった。
だが、今は違う。正座、あぐら、昼寝、鶴の構えと様々なポーズにも挑戦し、バリエーションも増やした。
「これくらい作れば大丈夫か……?」
額を手の甲で拭いながら完成品の数を数えれば二十を超えていた。
ちょっとした大仏展示場状態である。
かなりの数の巨像を仕上げたが、置く場所に困ることはない。
ついさっき、喉を詰まらせたブラックドラゴンが暴れまわってくれたお陰で、周囲は真っ平ら。非常に陳列し易かった。
そうこうしている内に、ブラックドラゴンの群れがこちらへと急降下してくる。
俺は慌ててブラックドラゴンの死体をアイテムボックスへ収納すると、再度巨木の陰に隠れた。今回は周囲にダミーが大量にある。森の中を一人で走るより、側に隠れた方が安全と判断し、逃走を控えた。
問題があるとすれば、像を作っているところを上空から見られた可能性があるということ。
ブラックドラゴンは、餅と俺、どちらを旨そうと判断するのか。
群れの全てを満腹にできるだけの分量を準備しているので、餅に食いついてくれれば、俺に構うことはないはず。
腹一杯になれば動きも鈍くなるだろうし、もしかしたら寝てくれるかもしれない。
そうなれば逃走しやすくなる。
俺はそんなことを期待しながら、こちらへと次々と降下してくるブラックドラゴンたちの様子を盗み見ていた。
「よし! 成功だ」
幸いにもブラックドラゴンたちは、俺が作った餅像にノータイムで喰らい付いた。
巨大なアギトを動かし、猛烈な勢いで食い始める。
雑食なのか穀類が好きなのかは定かではないが、凄まじい食べっぷりだ。
案外俺が作り出した餅には、竜には抗えない魔性の魅力でもあるのかもしれない。
しばらくの後――。
餅を食ったブラックドラゴンたちがドッタンバッタンと暴れ出す。
「おい……、このパターンは……」
数分前に見たことあるな、などと既視感を覚えていると、ブラックドラゴンたちが次々と痙攣し、動かなくなっていく。
俺は全てのブラックドラゴンが動かなくなったことを確認し、巨木の陰から顔を出す。
状態を確認すると、全て死んでいることが分かった。
死因は当然、お餅を喉に詰まらせての窒息である。
やはり餅を食べる時は、少量ずつ細かくし、喉に詰まらないよう細心の注意を払う必要がある、ということだ。
――大量の餅は凶器になり得る。
今日知った誰にも披露することのない知識だった。
「二十六、二十七っと……。これで全部か……」
死んだブラックドラゴンの群れを数えた結果、二十七匹もいたことが分かった。
先に倒した一匹を加えると合計二十八匹。
そりゃあ、街に被害も出るし、勇者も召喚するわけである。
俺の作った餅像は二十八体あったらしく、食べられなかった鶴の構えの像だけが残っていた。
「後二匹いたらやばかったな……」
俺は鶴の構えの餅像に手を合わせ、感謝の念を込める。
『倒しちゃったんだ。やるぅ〜!』
『ヒューヒュー! 強いねぇ、この!』
俺が餅像に合掌していると、どこからともなく女性の声が聞こえてくる。
この世の元は思えないなんとも美しい声だ。
顔を上げ、声の主を探そうと辺りを見回すも、ブラックドラゴンの死骸が邪魔でよく見えない。
『上よ、上〜』
と声に誘われるままに空の方へ視線を向けると、餅像の頭上に女の人が二人浮かんでいた。
絶世の美女という言葉がぴたりと当てはまるほどの美貌の持主が、ほんのりと発光しながらこちらを見下ろしている。
「あのう、どちら様でしょうか?」
『『女神でーす』』
組体操をしながら二人ハモっての返答。曰く、女神だそうで。
……なんかチャラいな。
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