1 勇者召喚されたと思ったら、とんでもないことに……!
「ヒィィィイイイイイイイイイイイイ!」
俺は叫び声を上げながら、ひたすら森の中を走っていた。
背後には、ジャンボジェットと見紛うサイズの竜が一匹。
――ブラックドラゴンだ。
大きく口を開け、重機の如く木々を薙ぎ倒しながら、こちらへ迫ってくる。
秒刻みで大きく距離が縮まり、俺の余命も縮んでいく。
赤子が見ても“これ、あかんやつや”と、一発で理解できる絶体絶命なこの状況。
誰か助けて。
俺、死んじゃう!
どうしてこんな状況になったかといえば、時を遡ることになる。
…………
――それは三日前。
時刻は昼。
曜日は日曜。
場所は餅月市餅月山展望公園。
「お餅モチモチ〜?」
撮影担当の鈴木さんが、カメラを構えて問いかける。
それを聞いて、俺の目の前にいる高校生カップルがポーズを取りながら――。
「「まるもっちー!」」
と、息を揃えて返した。
ナイスポーズです。
そう心の中で呟きながら、カップルの背後で決めポーズを取る。
全身の動きが遮られる枷を付けて、仲睦まじいカップルの思い出作りのサポート。
今日の夕食は鈴木さんのおごりで焼肉にいけると知っていなければ、即闇堕ちしそうな状況である。
まるもっちーの着ぐるみを着た焼肉大好きな俺は、切れのあるポーズで静止していた。
そう、今は記念撮影サービスの真っ只中。
餅月市公認ゆるキャラに扮して、思い出作りに貢献する。
それが、今俺がやるべきこと。着ぐるみのアルバイトである。
「はーい! いきますよ〜!」
鈴木さんが笑顔を振りまき、シャッターを切る。
すると、まるでそれが合図だったかのように、カップルの足元が発光した。
「きゃ〜♪」
「おお? 凝ってるな」
謎の発光にカップルがはしゃぐ中、俺は何事かと慌てる。
驚いても声を出さないのはプロ意識が高いから、というわけではなく混乱していたから。
――こんな演出はなかったはず。
などと思いつつ視線を下に落とせば、魔法陣のようなものが展開していた。
発光現象の大元が判明した瞬間、光の勢いが増して視界が奪われる。
あっという間に何も見えなくなる。
が、数秒と立たない内に光は消えた。何かのいたずらだったのか?
目を瞬きながら、見回す。そこで周囲の異常に気づく。明らかにおかしい。
俺が居たのは展望公園だ。
ロープウエイを使って移動する高所にあり、とても見晴らしが良い。
大きな噴水が名物で、その側に特設会場を設けて撮影会をしていた。
そのはずだ。
が、今は屋内。
石造りの壁に、高級感の漂う装飾。
目の前には、高そうな服を着た魔導師っぽい人が複数居たりする。
どうなっているんだ?
「勇者様、どうかこの国をお救いください!」
と、一際偉そうな雰囲気を放つ人がこちらへ駆け寄ってきた。
だが、近づく歩調が次第に遅くなり、表情が段々と疑問顔へと移行していく。
「召喚した勇者は二人のはず……、なぜ三人……」
発せられたのは、そんな呟きだった。
ネット小説を読み込んでいた俺は、この辺りで現状を大体把握した。
要は記念写真の撮影中に、異世界へ召喚されたのだ。
そして、召喚されたのは目の前にいる高校生カップルの二人。
たまたま側にいた俺は巻き込まれてしまった。
おそらくそんな感じ。