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毒舌氷王子はモフモフうさぎにご執心!  作者: 架け橋 なな


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18/23

本当の想い人

──その後。



 私は抱っこされたまま、ジェイドの私室に連れて来られた。豪華な部屋はシャンデリアのオレンジ色の光に包まれている。


 ジェイドは「ここで待っていてくれ」と告げて、天蓋付きのベッドの上に私を降ろした。彼は近くの棚に置いてある小箱から、何かを取り出している。うさぎ語を話せる指輪だ。



 そういえば、指輪を何度も貸し出すのが面倒なので、ジェイドにプレゼントしてあげたと、前に師匠が言ってたっけ。



 彼はそれを小指にはめ、私の横にゆっくり腰かけた。



「ヒスイ。従者にラズリ殿を呼んでくるよう言っておいたから、ここでしばらく待っていてくれ」


「うん。大人しくしておくわ。逃げようとして、あちこちぶつけちゃったし」


「身体が痛むのか?私が側を離れたせいで、お前を酷い目に遭わせてしまったな。本当に申し訳なかった」


「ううん。私がこうなったのは、あなたのせいじゃないわ。悪いのは、嘘をついて私を始末しようとしたあの子だもの。だから何も気にしないで」


「そうか……。ありがとう。お前は優しいな」



 ジェイドは目尻を下げ、私の頭をそろりと撫でる。大きい手のひらは温かくて、ドキドキするけど心地よかった。



「ねぇ、ジェイド」


「何だ?」


「そういえば、いつからあのヒスイが偽者だって気付いてたの?」



 本人から見ても、マディラは上手く私を演じていたと思う。だからジェイドがどこでそれを見破ったのか、気になっていたのだ。



「そうだな。異変に気付いたのは、部屋を訪れてすぐだった」


「え?そんなに早く気付いてたの?」


「ああ。最初に彼女と部屋で会った時、強いバラの香りがしたのだ。あれはマディラが好んで付けている香水と、同じ匂いだった」


「なるほど。私は香水なんて何も付けていなかったし、おかしいと思ったのね?」


「そうだ。それに私はマディラに疑惑を抱いていたからな。ゆえに、目の前のヒスイが偽者ではないか。本物のヒスイはどこかに閉じ込められているのではないかと、予想した」


「あんな短い時間に、そこまで色んなことを考えてたの。ジェイドって頭の回転が速いのね」



 私がしみじみ言うと、ジェイドは「それほどでもない」と謙遜してわずかに口角を上げた。誉めたから照れたのだろうか。ちょっと可愛い。



 両耳を垂らし、ニヤニヤしながらジェイドを見上げる。ジェイドは私から視線をずらし、話を再開した。



「私は自分の考えが正しいかを確かめるために、会話を続け、同時にお前の居場所の手がかりがないかを探った」


「あの人がヒスイじゃないって確信したのは、いつ?」


「お守りについて話した時だ。私はそれが『何であるか』をあえて知らせず、反応を見た。結果、マディラは近くの棚にパールのネックレスが置いてあるにも関わらず、見つけられなかった。その上、ラズリ殿からもらった品をどうでもいいと述べた。これが決定的だったと言える」


「確かに。ラズリ様からもらった物を、私が忘れるわけないもんね」


「ああ。ただ、マディラがヒスイに変身した方法を特定するのは、難しかった。ラズリ殿やヌーマイトが、アクセサリーを使って姿を変えていたから、身に着ける物が関係しているだろうとは思っていたのだがな。とっさに指輪を外せと言ったのは、ある意味賭けだった」


「へぇ。そうだったのね。あなたがすぐにあの子の正体を見破ってくれて、私、ほんとに助かったわ。あのままクローゼットから出られなかったら、窒息してたかもしれないから」


「ああ。間に合って良かった。お前を見つけられて私も安心したよ」


「事件に関係する人はみんな捕まったし、これであなたの悩みも解消するわね」



 もうジェイドが辛い想いをしなくて済む。そう思うとすごく嬉しい。だけどその反面、淋しさも感じた。



『ジェイドの不調を改善する』



 師匠の依頼された、この仕事が終わるということは、私のお手伝いも終わるということだ。


 ジェイドと一緒に居られるのも、あと少し。考えると切なくて、胸がぎゅっと締め付けられた。



 ふと気付くと、美しい銀色の瞳が私を真っ直ぐ捉えている。私が首をかしげると、ジェイドは真剣な面持ちで、話を切り出した。



「ヒスイ。今まで私のために様々な働きをしてくれたこと、心より感謝している。今日、お前と行動を共にして、私は自分に芽生えている感情に改めて気付かされた」


「え?どういうこと?」


「八年前、初恋の人を失ってから、私はもう誰も愛せぬと思っていた。だがお前を見ていると、どうしてだか昔に感じた熱い気持ちが、蘇ってくるような気がするのだ」


「それって、私が好きだから?それとも初恋の王女様にそっくりだから?」



 ジェイドは目を見開き、一瞬言葉に詰まってから、再び話し始めた。



「ヒスイは知っていたのか……。実のところ、初めてバラの庭園で会った時から、似ていると思っていたのだ。もしかしたら私は、無意識に彼女の姿をお前に重ねてしまっているのかもしれない。自分で自分の気持ちが、まだよく解らないのだ」



 ジェイドは酷く思い悩んでいる様子だった。彼が私に好意を持ってくれている。それは素直に嬉しい。でも、それが本当に()()()に向けられているのかを、確認したい。



 だって私は『王女様』じゃなく、『ヒスイ』なのだから。ジェイドには、ちゃんと私を見て欲しいから。




「ねぇ、ジェイド。今まで黙ってたけどね。私、あなたのことが好きなの」


「え?そう、だったのか?」


「うん。でも私は、あなたの初恋の人の身代わりなんて、まっぴらごめんよ。だからハッキリさせましょう」



 もしもジェイドの好意がこちらに向いていないと解ったら、たぶん私は傷付くだろう。でも、だからって自分の想いに妥協はしたくない。


 私は意を決して彼に質問した。



「ジェイドは今の私を見てどう思う?初恋の人と見た目が違うから、全然ときめかない?」



 彼は無言で考えこんでいる。私は畳みかけるように聞いた。



「素敵なドレスも着てない。お化粧もしてない。おしとやかでもないし、性格も勝ち気。こんなモフモフうさぎでも、あなたは一緒に居たいって思うの?」


「…………ああ。そうだ。例えうさぎの姿であっても、私はヒスイが好きだ。お前と過ごす時間はいつだって楽しいし、何より自分らしくあれる。だから私は、今後もずっとお前の側に居たい」



 そう言い切ってからハッと何かに気付くジェイド。私は良かった、と心の中で呟いて、笑みをこぼした。



「だったら何の問題もないわね。ジェイドは私の中身を見てくれてるもの」


「ヒスイ……」


「私もあなたがどんな姿になったとしても、好きよ。最初は毒舌すぎて、殴りたいくらいムカついたけど。今は全部、大好き」



 心を込めて気持ちを伝える。ジェイドは切なげな顔をして私を抱き締めた。



「私もお前が大好きだ。いつも自分に正直で、強くて、あったかい心を持ったお前が」



 ジェイドは耳元でそっと囁く。うさぎ姿のせいか、その言葉がより大きく脳内に響いてくる。


 私は倒れそうなぐらい心拍数が上がり、ジェイドの腕の中でひたすら固まっていた。彼は腕の力を緩めると、私をいとおしそうに見つめた。



「あ!あの!あんまり近くで見ないでくれる!?恥ずかしいから!」


「いや。そう言われると、ますます見たくなってしまうだろう」


「もう!ジェイドってば意地悪ね!」


「あはは!ヒスイはすぐに照れるのだな」



 口を尖らせ、ジェイドの胸に軽くパンチすると、彼はさらにからかってくる。私たちは笑い合い、ほんわかと和やかな雰囲気になった。


 すると、ふいにジェイドは銀色の瞳を細めて、私の頬を触った。



「何も恥ずかしがることはない。もっと自信を持て。うさぎになってもヒスイは綺麗だ。まるで宝石みたいにな」



『綺麗だよ。まるで宝石みたいに』



 え?この言葉。この感じ。覚えがある。いつ、どこで?



 ジェイドの甘い声と、優しい少年の声。二つの声が私の固く閉ざされた記憶のドアを叩く。



 そうだ!私は昔、ジェイドに会ったことがある!!



 雷に打たれたような衝撃が身体中を走る。長い間、空白だった記憶の一部分。そこへ幼い頃に見た景色が、次々と映し出されていった──。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふわああああ! なんて、素敵な。優しく抱き上げられてるとことか、撫でられてるとことか。もう、愛おしさが溢れてるじゃないですか! それに、ちゃんと伝えられて! ヒスイちゃんの、初恋の人に重ね…
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