表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒舌氷王子はモフモフうさぎにご執心!  作者: 架け橋 なな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/23

魔術師たちの策略

 見上げると豪華なシャンデリアが、天井から落ちてくるのが確認できた。



「待って、ジェイド様!!」



 マディラの叫ぶ声が聞こえる。スローモーションで迫るシャンデリア。逃げようとする私。



 だめ!よけきれない!



 首元のパールのネックレスが光る。それと同時に黒い影が覆い被さって──



 数秒後にガラスの割れるけたたましい音が響き渡った。その後すぐに破片らしきものがパラパラと降ってくる。大広間にはたくさんの悲鳴がこだましていた。



 …………あれ?私、どこも痛くない。どうして?



 目を閉じうずくまっていた私は、自分が無傷であることに気付いた。しかも何かにくるまれている。



「おい!大丈夫か!?ヒスイ!!」



 ジェイドが間近で呼びかけている。私は返事をしようとまぶたを持ち上げた。その時、偶然ジェイドと目が合う。鼻先が触れてしまいそうな距離だ。



 うぎゃああああああああ!近い!かっこいい!気絶しちゃう!!



 真っ赤になった私は、慌てて床に手を付き後ずさりした。ジェイドから少し離れたものの、心臓がバクバクして目が回りそうだ。



「わ、私は大丈夫よ!!どこもケガしてないわ!!ジェイドが守ってくれたの?」


「ああ。それにラズリ殿のお守りも力を発揮したようだ。シャンデリアは私たちに当たらなかった」



 そっか。ジェイドもケガはなかったのね。良かった。



「ありがとう。おかげで助かったわ」



 へにゃっと気の抜けた笑顔を向けると、ジェイドはなぜか頬を染め、素早く立ち上がった。


 そして混乱し騒いでいる人たちへ、大声で指示した。



「皆の者、落ち着け!今すぐじゅうたんの火を消すのだ!あとケガ人が居ないか、至急、確認しろ!」



 周りの人たちは、慌ててシャンデリアから飛び散った火種を踏み潰し、テーブルから水差しを持ってきて、床へまいた。火はものの数分で消え、煙と焦げた匂い、シャンデリアの残骸だけが大広間に残った。



 ジェイドの迅速な対応にみとれていた私は、起き上がって彼の側に行った。



 従者たちによって窓が開け放たれ、煙が逃げていく。改めて周囲の状況を見ると、あちこちに割れたシャンデリアの破片が散らばっていた。


 落ちた衝撃でバラバラになっているが、元はかなりの大きさがあったと思う。



 あれが頭にぶつかっていたら、ただじゃ済まなかったわね。



 ゾゾッと背筋が寒くなり、私は顔をしかめた。シャンデリアの周辺には、切り傷や転倒などで軽いケガをした人たちが見える。



 この人たちは何の関係もないのに……。王位が欲しいんだか、ジェイドが嫌いなんだか知らないけど。こんなことした奴らを、私は絶対に許さない。



 怒りを覚えながら入口付近に視線を送ると、女の子がうつ伏せで倒れている。おかっぱ頭の従者だ。ケガをしているのか、うめき声を上げている。



 大変!早く助けてあげなきゃ!



 私が駆け寄ろうとすると、どこからともなくベラクルスが現れ、「わたくしが行きます」と告げ進路を阻んだ。彼はつかつかと女の子へ近づいていく。あの子の身に危険が迫っている予感がして、私もすぐに後を追った。



「【災厄呼びインヴァイトディザスター】が跳ね返ってきた……?まさかあの娘に【魔術全反射(オールリジェクト)】がかけられていたのか?」



 女の子は苦しそうに独り言を漏らしている。さっき私とぶつかった時とは口調も雰囲気も違って、気味が悪い。



「ふふふ。自分の魔術の味はどうだ?跳ね返ってきた力が大きいせいで全身が痛むのだろう?お前はどれだけの人をその力で傷付けてきた?……この屑野郎が」



 ベラクルスが女の子を見下ろして吐き捨てるように言った。ドスのきいた声に鳥肌が立つ。言葉の端々から、強い嫌悪を感じた。



「お前は、もしや」



 血走った目を見開いて、女の子がベラクルスを仰ぐ。彼は不敵な笑みを浮かべ、ピアスを外した。


 すると、ごつい男は一瞬にして、薄紫のドレスを着た美しい女性の姿に変化した。



「ラズリ様!」



 私は驚いて師匠に駆け寄る。ジェイドとマディラ、サルファーもこちらに歩いてきた。



 そうか!ベラクルスの正体はラズリ様だったのね!それでラベンダーの香水の匂いがしたんだ!



 気になっていたことが解り、スッキリしていると、師匠は突然、私をぎゅっと抱き締めた。



「ヒスイ。良く頑張ったわね。本当に怖かったでしょう?後はこのわたくしに任せてちょうだい」



 師匠は穏やかに言って、外したピアスを私に渡した。



 やばい。ラズリ様が優しすぎて、泣ける。



 とか思っていたら、ヌーマイトを見る彼女の目付きが、恐ろしく尖った。違う意味で泣きそう……。



「さあ、正体を見せてもらうわよ?」


「おい!やめろ!触るな!」



 師匠は女の子の袖口から見えていたブレスレットを、無理やり奪い取って引きちぎった。


 すると、女の子があっという間に、黒いスーツ姿の男に変わった。灰色の髪と鋭い瞳、危険なオーラ。



 間違いない!ヌーマイトだ!!



 周りに居た貴族や従者たちは、何事かと集まってくる。師匠は寒気のするような冷たい声を発した。



「ようやく出会えたわねぇ、誇りを忘れた下劣な兄様。また金貨を積まれて、くだらない()()()をしにいらしたの?」


「俺は自らの力を生かし、その報酬を得ているまで。責められる理由はない」



 ヌーマイトは師匠を睨み付け、がらがら声で言った。



「『魔術師はいかなる場合においても、他者を傷付けるために力を行使してはならぬ』──我ら特別な力を持つ者に定められた鉄の掟、忘れたとは言わせないわよ?」


「大昔の石頭共が作った、錆びだらけの掟だ。そんなもの、守るに値しない」


「お前は一回死んで、人生を赤子からやり直さなくてはならないわねぇ」



 師匠がきつくヌーマイトを睨み返す。彼は唇を歪め、憎々しげに聞いた。



「……ラズリよ。なぜ俺がここに来ると分かった?」


「わたくしはお前の行方をずっと探していた。二国の未解決事件、そして王子の恋人候補たちを陥れた事件。それらが魔術によるものだと確信したから、罠を仕掛けたのよ。この舞踏会は、お前をおびき寄せるために、わたくしが国王陛下に提案したの」


「何だと……!」


「用心深いお前が、じかに標的へ手を下すとは考えられない。魔術を使って、安全な場所からヒスイを狙うことは前もって分かっていた。だからわたくしは、ベラクルスの振りをして彼女を見張り、怪しい人物を探した。……ヒスイ。ちょっと後ろを向いて」



 私は言う通りにする。師匠は私のスカートを指差した。



「魔術で従者に化けたお前は、ヒスイにぶつかった時、【災厄呼びインヴァイトディザスター】のかかったブローチを、ドレスのリボンに付けた。ドジな新人の従者に成り済ましたのは、多少、不自然な動きをしても気付かれにくいから。また片付けなどを理由に、ここから安易に抜け出せると考えたからでしょう?」


「ぐっ……」



 ヌーマイトは眉間にシワを寄せたまま口を閉ざした。どうやら師匠の推理は全部当たっていたらしい。彼女は有無を言わさぬ気迫を醸し出しながら、妖しく笑った。



「これから洗いざらい吐いてもらうわよ?お前が引き受けた悪事の数々。そしてそれを依頼した人物をね」



 しばらくして、騒ぎを聞きつけた衛兵たちが、ヌーマイトの両手を縄で縛る。


 彼は二人の衛兵に引っ張られ、フラフラと歩き出した。師匠と私、ジェイドはそれを見送る。




「あなたがヒスイ様を殺そうとしたのですね……。その上ここの皆さんを危ない目にあわせて!許せませんわ!この人でなし!」



 マディラがヌーマイトに近づき、涙目で怒りをぶつける。次の瞬間、彼の瞳がギラッと光って、手首に巻かれていた縄が床に落ちた。スーツの袖の中に隠し持っていたナイフで切ったのだ。



「マディラ様!危ない!」



 私は大声を上げ、マディラの手を引っ張ろうとした。しかしそれよりも速く、ヌーマイトが彼女の首に左腕を回した。



「きゃあっ!は、離してください!」


「黙れ!じっとしていないと殺すぞ!!」



 ヌーマイトは怒鳴り、ナイフの刃をマディラの顔近くにちらつかせる。彼女は青くなって黙り込んだ。



「ひっひっひ。俺を上手く捕まえられたと思ったか?詰めが甘いなあ、ラズリは。『勝利を確信した時、人は最も隙が出来る』……そう昔に教えてやっただろう?」


「マディラ嬢を今すぐ離しなさい!その子はお前の標的ではないはずでしょう!」


「俺がどういう人間か、お前はよく知っているだろう?俺は何より自分が可愛いんだ。逃げ延びるためならどんな手でも使う。少しでもおかしな真似をしてみろ?この娘の綺麗な肌を、ズタズタに切り刻んでやるぞ?」


「なんて卑劣な男……!」


「この、魔術師の面汚しが!」



 私と師匠は、怒って罵声を浴びせる。ヌーマイトは口泡を飛ばし、師匠に反論した。



「何とでも言え!お前より俺の方が何においても優秀なんだ!お前は俺を死ぬまで捕まえられない!永久に勝てやしないんだよ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] そっちかあああ! ラズリ様だったかー! そんな化ける能力高かったんですねお二人とも。さすがはラズリ様です。おかっぱ、、、そんなわざとらしいドジは許されないのですよ。魔法使いなら、もっと魔法…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ