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完璧王女には悩みがある  作者: 菅賀ルゥ
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プロローグ

 麗らかな春の日差しと、柔らかな花の香り。春特有の暖かくて少し強い風が、髪を揺らす。

 そんな午後を、王城の中庭で過ごすうら若き男女がいた。


 女は、サラサラの長い銀髪にエメラルドの瞳を持つ派手な美少女。白くて滑らかな肌も、均整のとれた細身の体も、もっと言えばその爪の先まで美しい。

 彼女を一目見るだけでため息が出そうなほどだ。いや、実際ため息どころか鼻血まで出した奴もいた。


 対して男は、キラキラした金髪に琥珀色の目をした穏やかな騎士である。

 ちょうど少女を守るかのように後ろに控え、優しげな表情で見守っている。しなやかな体躯や強者特有の余裕がどことなく威圧的ながら、貴公子然とした理知的な雰囲気がそれを中和している。


 言うまでもなく、彼らは絵になっていた。

 華やかな美少女。それを守る優秀な騎士。こんな2人が春の庭でティータイム。これが絵にならない訳がない。

 実際、近くを通る人たちは歩くのも忘れて見惚れていた。立ち直りの時間に個人差はあるものの、口を開けて頬を赤らめるのは老若男女共通だ。


 そして彼らの仲睦まじい様子を見て、想像ーーー否、妄想する。

「彼らは一体何を話しているのだろうか」と。


 今朝見た小鳥の話だろうか。はたまた、春に咲く花の名前についてだろうか。

 人類の世界平和について、という可能性もある。もしかしたら幸福の定義についてとか?

 いやいや、今日の青空の事かもしれない。美しい紺碧の海について、という案も捨てがたい。


 ……まぁ、現実にそんな会話をしている男女なんて薄ら寒い気もするが。

 そんな事すら思いつかなくなるくらいには、彼らは神話の世界に生きていた。


 が、時に真実は残酷である。

 彼らはもちろん神話の中の登場人物ではないし、夢見がちな妄想とは全くの正反対だ。


 例えば、そう、彼らの実際の会話のように。


 優しげな騎士が柔らかな表情で、憂いのある美少女に話しかける。


「ロクサーナ姫殿下、また飽きもせずに悩んでおられるのですか?」

「そりゃそうよ。あのね、マルコは他人事だろうけど、私にとっては大問題なのよ?」

「まぁ、他人事なのは否定しませんけど」


 ニコリとした騎士は目を瞑りながら、しれっと言ってのける。それに対し、少女はむすっと眉をしかめた。


「否定しなさい!貴方の主人の一大事なの!従者なら自分の事のように悩みなさい、そして苦しめ」

「……自分が辛いからって呪わないでくださいよ。大体、無理ですよ。主人は主人、俺は俺ですから」

「なんって淡白なやつなのかしら!しかもそれを主人の前で言うなんて、騎士教育をやり直してもらいましょうか!?」

「あ、それは丁重にお断りします。『騎士たるもの』なんて言われても眠いだけですし」


 どこか芝居掛かった様子で、少女は額に手をつく。そして戸惑ったように、目をパチクリと瞬く。

 実に可愛らしい仕草だが、120%嫌味である。


「……え、私王女なのよね?なんでこんな不道徳な騎士が付いてるの??騎士道精神を眠いなんて言うやつ、不安でしかないんだけど?」

「その点は心配ご無用です。俺、学校では最優秀騎士でしたから。擬態は上手いんで」


 騎士は得意げに胸を張り、涼しげな顔で少女に微笑む。それはまるで自分の武勲を誇るかのようであり、どこか年相応の子供っぽさまで覗かせる。

 ……ように、側からは見える。無論、そんな愛らしいものではない。


「なら、私の前でも擬態しなさいよ!できるんでしょ!?ほら!」

「嫌です。面倒臭いです。意味も価値もないです。それに、姫殿下は俺を呼び出して愚痴しか言わないじゃないですか」

「うぅ、良いじゃない!貴方にしか言えないのよ!」


 ロクサーナ姫殿下と呼ばれた美少女は、その大きな瞳に涙を溜めてじっと騎士を見る。

 普通の人なら、この威力の高い攻撃にふらふらと眩暈を起こしてしまうだろうが、マルコと呼ばれた彼は違う。

 ものすごく面倒臭そうに一瞥して、「はぁ」とため息をつく。


 そして充分に溜めを作ったロクサーナは、全身全霊の恨みつらみを込めて口を開く。


「なんでっ、私にっ、彼氏ができないのよぉっ!!」


 ……現実は、夢をビリビリに破いて捨ててしまうほどに残酷なのだった。


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