突然……
再アップです
2020年11月追記
「子供心」
小学生か中学生の頃まで、キジバトの鳴き声を
フクロウの鳴き声だと勘違いしていました。
割と恥ずかしい笑。
「あ、フクロウ鳴いてるなぁ」と
ホーホーホッホーという鳴き声を長らく勘違い。
勘違いに気づいたのは某生主の放送にて。
世間とのズレを認識した瞬間でした笑
いい思い出です。
5月の土曜日。ゆとり教育の煽りを受けて
隔週のこの日は休みであった。
気分的に師匠の住む割と使用感溢れるアパートに
お邪魔してこの日は、朝早くから将棋を指していた。
日照りが激しく、窓から普段より日光が差し込んでいる。
パチッ。少し間を置いてパチッ。
脚付きの本榧の盤に、黄楊の駒が勢いよく着手される。
盤と駒箱と棋書と大量の書類以外殆ど何も無い
殺風景な空間の中で駒音だけが響き渡る。
「うん、ここまでかな」
そう言い、師匠、及川九段は視線ををゆっくり盤から
俺に向けた。柔らかな白髪の前髪がふわりと舞う。
及川九段は本格派の居飛車党で、前期順位戦では
A級に在籍していた。十数年前には竜王にも
なっている。今期は、B級1組に降級したが、
その実力はまだまだ衰え知らずだ。
また、将棋の普及にも熱心で将棋教室の講師
としても活躍している。俺が尊敬している師匠である。
さきほど、師匠と将棋を指していると言ったが、
もちろん公式戦ではなく練習将棋である。
俺の四間飛車に対して師匠の穴熊。
積極的に4四銀型の構えをとり、中盤から戦いが始まった。
俺の攻めと師匠の受けが真っ向からぶつかった。
中盤まではまずまずだったが、師匠の受けに苦しみ
形勢の悪化により攻め急いだ俺は、見事に師匠の
カウンターを浴びたのであった。
最後は、師匠が飛車を切り軽やかに寄せ切った。
「はい、負けました」
俺は頭を下げ自分の負けを認める。
とはいえ、多少の悔しさはやはり感じる。
そのせいで、投了の声はやや滲んだ。
「うん、ここが悪かったね。受けたほうがよかったかな?
もしこうだったら私の負けかな?」
師匠が俺に気を使ってくれるが、完敗だ。
トッププレイヤーとの力量の差をさらに感じた一局だった。
そのあと感想戦(自分の考えを言いながら将棋を振り返ること)
をして俺は木々の若葉を尻目に帰路についた。
自宅まで歩く中、突然スマートフォンに着信がきた。
そして、俺は持っていたペットボトルを落としてしまった。
「しまった。通知音最大だった......」
通行人に奇異な目で見られてしまった。ツイてない。
「誰だ?」
俺は赤面した顔でスマートフォンを開く。そこには、
千原からのメッセージがあった。
「あぁ、そういえば千原と連絡先を交換していたっけなぁ」
実は学校の休み時間に連絡先を交換するよう強要されて
交換してしまったのだ。
だってあまりにもしつこいから。
「で、なんだ?何々?
『明日の日曜日一緒に映画見に行こうよ、
どーせ暇でしょ?』」
「なに言ってんだバカ」
俺は秒でメッセージを送る。
あいつには、キッパリ言ったほうがいい。
独断と偏見で迷いなく判断した。
数分後、メッセージが届いた。
「いいから来なさいよ、こないと罰金よ罰金」
某アニメのキャラの台詞をさりげなく言いつつ
俺に映画に行くことを強要してきた。
さらにスマートフォンが着信を俺に知らせた。
「なんだよ。まったく」
「もし映画に行ってくれないなら。
クラス全員に私と隣くんが付き合っているって
デマ流しちゃうよー」
眼下に広がるのは、千原からの脅迫文だった。
その瞬間、自らの動きがピタッと止まったことを
感じた。先程まで、活発に動いてた脳が停止した。
「こういうことしないと隣くん
行ってくれないじゃん。ね、いこ」
結局、俺は貴重な日曜日を千原と映画に行くことになった。
千原の性格上ほんとに行かないとデマを流すはずだし、
こうなった千原は誰にも止められない。
「まぁ、いっか」
俺はあきらめて昼下がりの雲一つ無い空を見上げた。