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恋だけが残る  作者: 青木りよこ
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「コーヒー入れてくる」


目の前の男は立ち上がった。

大きいなと思った。

夫からこんな風に見下ろされたことがあっただろうか。


「あんたはいるか?」


目の前の男の言うあんたが誰なのかわからなかった。

私は夫にあんたなんて一度も言われたことがなかったし、夫が誰かをあんたなんていうのも初めて聞いた。

私は首を振った。

目の前の男は部屋を出て行った。


「奈緒さん。彼と今まで通り一緒に暮らしてもらえませんか?彼もそれを望んでいます」


その彼は夫なのだろうか?

それとも私をあんたと言った男だろうか?


「彼は佐倉君です。見た目だけじゃなく彼は完全に佐倉君なんです。記憶も完全です。今まで通りの生活が出来ます。少し口調が違うのはあえてです」


何故あえてそんなことが必要なのかと聞けばいいのだろうがどうも聞けない。

この人から反論などすることもできない圧を感じる。


「彼の研究のためにも今まで通りの生活をさせてほしいんです。脳にストレスは一番よくありません。

佐倉君は奈緒さんを本当に好きだったんです。結婚できてどれほど喜んでいたか。ずっと待ち望んでいたんです。彼の望みを叶えてあげてください」


だからその彼は誰なの?

夫の望みが私が夫の死後も夫の複製と仲良く暮らすことだったとでもいうのだろうか。


「ただいま」


夫の複製がいれたてのコーヒーと白い大きな缶を携え戻って来た。

缶の蓋を開けるとクッキーの詰め合わせが顔を出した。

毎日こんな風に休憩時間美味しいお菓子を食べて楽しくお仕事をしていたのだろうか。


「食べたらどうだ?」


夫はそんな言い方しない。

しないけどクッキーは美味しそうなので丸いリング状のクッキーを手に取る。

目の前の男も同じものを手にする。


「何か言ったらどうだ?」


目の前の男は不機嫌そうに言う。

その顔は初めて見た。

素直にかっこいいと思った。

でも何を言っていいのかわからないので黙る。

何でかわからないけどこの人と話したくないと思った。


「美味しいとか、不味いとか」


クッキーの話か。

そういえばコーヒーを飲んでマカロンとクッキーを食べているのに一度も感想を言っていないと気づく。

話したくないけど仕方ない。


「美味しいです」

「なら、言ってくれ。何も言わないと何を考えているのかわからない」


わかる必要ないでしょう。

他人なのだから。

そう思い浮かんだけど言わなかった。

この顔と口論するのは嫌だし、この顔をした男に傷つくことを言われるのも傷つくことを言うのも嫌だった。












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