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恋だけが残る  作者: 青木りよこ
30/32

ちゃんと

「どこで食べる?」

「運ぶのめんどくさいからここでいい」

「そう?」

「ここは暖かい。まあこの家はどこでも暖かいけど」

「そうね。じゃあ、あ、ちょっと待ってて」

「ああ」


私は彼を台所に残して寝室へ向かう。

クローゼットに隠しておいたクリスマスプレゼントの入った紙袋を手に急いで台所へ戻ると彼が鶏のから揚げを食べていて、私と目が合うとばつの悪そうな顔をした。


「いいわよ。もう食べても」

「美味いぞ。やっぱり揚げたてが一番だな」

「そうね、はい。これ」

「何だ?」

「クリスマスプレゼント」


彼はもう一つ鶏のから揚げを口に放り込んでから私のプレゼントを受け取った。


「有難う」

「いいえ」

「何が入ってるんだ?」

「ワイシャツ。毎日着るものだから何枚あってもいいでしょ?」

「ああ、有難う」

「来年はちゃんとお誕生日のお祝いしましょうね」

「え?」

「十二月一日なんでしょ?」

「アイツは八月だぞ」

「貴方のお誕生日よ。来年はちゃんとするから」

「いいよ。そんなの」

「私がしたいの。ごちそう作るから、それとも来月やっちゃおうか?お正月くらいに」

「いいよ。来年で」


彼はプレゼントを開けない。

紙袋を手にしたまま椅子に座ろうともしない。


「食べましょ」

「なあ、奈緒」

「なあに?」

「眼鏡かけてやろうか?クリスマスだから」

「何それ?あの人ごっこするってこと?」

「ああ、何ていうかそれくらいしかあんたを喜ばせる方法がわからない」


私は吹き出した。

彼が余りにも真剣で本当にそれを信じているようだったから。


「何で笑う?」


彼は心外だと言う顔をした。

心底解せないようだった。


「貴方こそわけわからないわ。貴方はあの人じゃないってさっきそう言ったばっかじゃない」

「でもそっくりだろ?そっくりどころかほぼ本人なんだし」

「そう、ね」

「なあ、これくらい似てたら好きになったりするものじゃないのか?」

「え?」

「全く同じだろ。眼鏡かけてないだけで。あんたがかけてほしいならかけるし」

「ねえ、食べましょ。暖かいうちに」

「話を逸らさないでくれ。あんたはいつもそうだ」

「逸らさないから、先に食べましょう。話はそれから」

「食べたらちゃんと俺の話を聞くか?」

「聞くわ」

「ちゃんとだぞ」

「わかったから。食べよ」

「ああ。で、眼鏡は?」

「かけなくていい。伊達眼鏡は邪道」

「何だそれ。眼鏡は眼鏡だろ」


長い脚。

見上げる身長差。

圧倒的に好きな顔。

これに眼鏡なんてかけられたら、そう、あれだわ、一生見ていられる。

それは困る。


「食おうぜ」


彼は椅子に座り隣の椅子に私のあげたプレゼントの袋を置いた。

それは小さな子供がぬいぐるみを自分の隣に座らせお客様扱いしているのに少し似て見えた。


「食ったらちゃんと話す」

「うん」

「いただきます」

「いっぱい食べてね」

「ああ」


長い夜になるのだろうか。

そうはいかない。

明日は平日で彼は仕事だ。

よって私はお弁当を作らねばならない。

だからいつも通り眠る。

去年のクリスマスもあの人は勿論朝になったら仕事に行った。

初めてあの人に行ってらっしゃいと言った。

私は彼が出て行った後もお昼まで彼のいないベッドにいた。

嬉しすぎて眠る気になれなかった。

何をするでもなく自分の指を見たりした。

あの人に触れた指を。

あの人が触れた指を。

幸せでもう何にもいらないと思った。

それがほんの一年前。

なのにいつの間にかとても遠くに感じる。

あの人も遠くに行ってしまったけど、私も遠くに来た。

もうあの私はいない。

あの人が連れてっいってしまった。

自分だけの大好きな奈緒ちゃんを。




















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