来年
去年と同じものを作っている。
クリスマス何が食べたい?と聞くと彼は巻き寿司と言った。
去年も食べたんだけど、と言うと食べたのはアイツで俺は食べていないと言われた。
そう言われるとこちらは黙るしかない。
実際に彼に食べさせてはいないのだから。
「上手く巻くもんだな」
私が巻きすをぎゅっぎゅとしていると彼が言った。
彼は私がスポンジケーキの薄力粉をふるっている時からずっと手伝うわけでもなく台所にいて、さっきまで焼き上がったスポンジケーキを熱々のうちに食べたいとうるさかったので一切れ食べさせた。
まあ、誰に見せるわけでもないし、彼のために作ったのだから最初から欠けていても問題ない。
「貴方も巻いてみる?」
「餃子よりは簡単そうだな」
「そうね。餃子より簡単。巻く?」
「いい。奈緒が巻いてるの見てる方が面白い」
「そう。ホントに鶏のから揚げで良かったの?オーブンあるんだしやっぱりローストチキンする?」
「骨ついた肉食べるのめんどくさい。から揚げのが美味い。いっぱいあげてくれ」
「貴方がいいならいいけど。あと春雨のサラダと揚げ出し豆腐とカボチャのポタージュでしょ?クリスマスっぽくなくない?」
「別にクリスマスってケーキ食って、プレゼント貰う日だろ?あと適当に美味いもの食うっていう」
「あと鶏肉を食べる日?」
「こうしなきゃならないって日でもないだろ?あんたは食べたいものを聞いた。俺は答えた。それでいいだろ?」
「私はいいわよ。貴方がいいなら」
「あんたいつもそうだな。貴方がいいならいいって。出かけても何食べたいって聞いても貴方が食べたいものでいいって。自分が食べたいものとかないのかよ」
「ねえ、それ、あの人がそう思っていたの?」
「は?」
「あの人私のそういうとこ嫌だったの?不満だった?こう、何て言うか自分の意思の希薄さと言うか、何でも人任せにしてるとことか、向上心とか学習能力とか意欲の無さとか」
「おい、奈緒」
「何?」
「何でアイツの話になる?俺は俺とあんたの話をしているんだ」
「え?」
「え?じゃねえよ。あー、もういい。俺が何を言ってもあんたはそうだったな。何でもアイツに結び付けるんだったな。もういい。アイツはあんたに不満なんかなかったから安心しろ」
「ホントに?」
「ホントだ」
「ホント?」
「あんた自分に自信ないんだな。顔そんだけ良くて、家大金持ちなのに」
「自信なんかないよ。何て言うか、やりたいこととかないし、今まで特別頑張ったってこともないし」
「ピアノやってたじゃないか。あと水泳か」
「水泳は中学入ったら辞めちゃったし」
「そういや何で辞めたんだ?」
「特に理由はないけど・・・」
胸が大きくなりすぎて水着を着るのが恥ずかしくなって辞めたのだけれど、続けていたら良かったのだろうか。
「アイツが気にしてたぞ。何で水泳辞めたんだろうって。心配してた。何か嫌なことがあったんじゃないかって」
「それなら心配いらないわ。何にもないから」
「でもあんた泳げるんだな。カナヅチって感じなのに」
「泳げます。私体育の成績いつだって良かったんだから」
本当は去年あの人に聞かれた。
奈緒ちゃん水泳何で辞めちゃったのって。
私は正直に胸が大きくなりすぎて水着を着るのが恥ずかしかったからと言った。
それを聞くとあの人は良かった、何か変な事されたんじゃないかと思ってたと言って、脱力したように笑った。
その顔を見て私は水泳は辞めて良かったのだと気づいた。
あの人はきっと私の水着姿を他の男の人に見てほしくなかったのだろうから。
「泳げるなら来年海行こうぜ。日本じゃなくて海外な。日本はだめだ。変質者がいるかもしれない」
「貴方泳ぎたいの?」
「泳いでもいい」
「何それ?」
「何でもいいだろ。アイツと行ってないだろ?」
「行ってないし、あの人行きたがってなかったでしょ?」
「わからないだろ。行きたかったかも」
「来年、ね。来年になったら考えましょ」
「鬼が笑うからか?」
「そう。鬼が笑うから」
あの人は海もプールも行きたくないと言った。
奈緒ちゃんの水着は見たいけど他の人には見せたくないと言って。
あの人はこういうところはとても素直であけすけだった。
だから一緒に暮らすようになってからお家で水着を着てあげた。
だから家にはあの人が買ってくれた一度しか着ていない水着が山ほどある。
それを彼は知らない。
「ケーキ、生クリームは貴方塗る?」
「いい。見てる」
「そう」
「巻き寿司端っこ食べていいか?」
「切るから待って」
去年と同じものを作っている。
でも違う。
欠けたひとかけら。
丸くないケーキ。
まるで今の、ううん、この先もずっと、私達そのもの。




