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恋だけが残る  作者: 青木りよこ
18/32

興味

「奈緒は何も買わなくていいのか?」

「私はお洋服いっぱい持ってるもの」

「アイツに買ってもらったのか?」

「ええ」

「アイツ甲斐性なしのくせにな」

「そんなことないわよ」

「アイツは奈緒の服見るの好きだったんだ。自分の服興味ないくせに」

「いいの。あの人は背が高くて足が長くて何着たってかっこいいの」

「おい、アイツを褒めるってことは俺を褒めてるのも一緒だぞ」

「貴方もかっこいいわよ。でも私は眼鏡をかけてる方が好きだけど」

「眼鏡なんか鬱陶しいだけだろ。くもるし」

「そうね。じゃあ、お買い物はいいとしてお茶でも飲みましょうか?」

「ああ、ドーナツ食いたい」


買い物を終えると彼の両手は紙袋でいっぱいになった。

服の趣味は変わらないのか黒い色のものばかり買った。

ただ違うのはクルーネックのセーターとTシャツばかり買ったこと。

あの人は冬になるとタートルネックのセーターばかり着ていた。

似合っていたのにもう見れない。

でも同じ顔をした彼に着て欲しいとは思わない。

私が見たいあの顔はあの人だけだ。


「本当に食わなくていいのか?」

「お腹空いてないからいいの」


彼はドーナツを六つも頼んだ。

あの人も良く食べる方だったけど彼はそれ以上だ。


「美味しい?」

「ああ」


随分淡々と食べるのだと思った。

あの人もそうだった。

美味しいとは言ってくれるけど美味しい顔はしていなかった。

顔に出ない方だったのだろう。

食にも本当は興味なかったのかもしれない。

なら私に興味を持ってくれたというのは奇跡なのかもしれない。


「ねえ、あの人私のどこを好きになってくれたの?」


彼は露骨に嫌な顔をした。

ドーナツを食べてる時の顔でないことだけは確かだ。

その顔は無防備で警戒がないのだと言え、単純に信頼してるとも取れそうだった。

家族に見せる顔、といったら一番近いのかもしれない。


「顔だろ。それ以外なんもないだろ」

「顔はわかってるの。でも思うの。あの人何にも興味なかったでしょ?それなのにどうして私にだけ興味を持ってくれたのかなって。だってこの世には数えきれないくらい人間がいるのよ。なのにどうして私だったの?どうして私だけがあの人の特別になれたの?」

「知るか。好みってのはそういうものだろ。説明なんかできない。あんたはできるのか?」

「私?」

「ああ、アイツのどこが好きか」

「初めて会った時から好きよ」

「その理由は?」

「理由なんかないわ」

「ならアイツも一緒だろ。理由なんかない。ただ手中に収めたい。それだけだ」

「不思議ね」

「そうだな」

「同じこと考えてたなんて」

「そうだな」

「違う人間なのにね」

「自分と同じ人間を好きになるか?」

「ならない」

「一個食うか?」


彼は私にエンゼルクリームを差し出した。

お腹は空いていなかったけど、エンゼルクリームは好きだったので素直に受け取った。


「有難う」

「別に」


別に、か。

あの人が私に別にと言ったことがあっただろうか。

でも私以外の人間には言ったのかもしれない。

私以外に雑なあの人。

何て素敵。

あの人が私に別になどと言うわけがない。

だって私はあの人にとって特別だった。

いつだって私だけはずっと。
















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