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恋だけが残る  作者: 青木りよこ
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夫は賢い。

この世で一番賢い。

亡くなった父は夫を日本で一番頭のいい男だと言った。

世界一だと言わなかったところが如何にも父らしい。

でも、そんな賢い夫にもわからないことがあった。


自分がいつ死ぬかということ。

その死に方。


夫の死によって子供のいなかった私は一人になった。

結婚したのは今年の三月。

今十一月が終わろうとしているから結婚期間は約八か月。

出逢ってからは七年。

十九年間の人生の中の七年で私の人生の半分にも満たない。


夫とは年が離れていた。

たった十歳だったけど。

彼には私より余分の人生があり彼の短すぎる二十九年間の人生に私は七年しか登場できなかった。

そこで私の占めた役割は何だろうと思う。

彼は最初私の八歳年上の姉のお見合い相手として私の前に現れた。

彼はとても難しい研究をしていて資産家である私の父はその研究にえらく執心していたらしく、どうにかして彼と資金援助以外の密接な結びつきを持とうと姻戚関係を持とうとしたらしい。


姉とのお見合いは自宅で行われたから私も同席した。

皆でお昼ご飯を食べた。

彼が帰ると姉は父に結婚は嫌だと言った。

父に何故だと尋ねられると姉は気難しそうだから嫌だと言った。

笑わない人だとは思ったけど私はそうは思わなかった。

口が重そうで信じられると思った。


何日か経ち、ピアノの練習をしていると父がやって来て、この間のお姉様のお見合い相手が奈緒と結婚したいと言っているんだがどうだと聞いてきた。

私は自分の名前を言われたのにも関わらず父が何を言っているのか理解しかね唯固まってしまった。

これを父は拒絶だと断定した。

すまん、何でもない。

練習を続けてくれと言って部屋から出て行こうとしたので、私は慌てて父のシャツを掴み、してもいいと言った。

小さい声しか出なかったので父に聞こえなかったのだろう。

父はどうかしたのかと言ってきたので、私は大きな声で言うしかなくなった。

結婚してもいいと。


次に会った時にはもう彼は私の婚約者になっていた。

彼は二十二歳。

私は十二歳だった。


彼は私が十六歳になったら結婚したいと父に言ったそうだが、父はせめて高校を出てからと言ったので結婚は私が高校を出てからすることになった。

こんなことになるなら彼の希望通り十六歳になったら結婚してあげれば良かったと思う。

そうしたら少なくとも三年一緒にいられた。


そう、夫は死んだ。

死んだと聞かされた。

遺体も見た。


なのに何故夫と同じ顔をした男が今、私の目の前にいるのだろう。











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