第8話 佐藤一花 その2
日曜日、暇を持て余して今日も図書館へ向かおうと家を出る。今日もまた双葉がいるだろう。
勝負事を挑まれるのは嫌いじゃあない。どんどんと成長していく双葉を見守るのは楽しいものだ。前世とは全く違う人付き合いなのでなおさらだ。
「じゅんちゃーん!」
そんなことを考えていたら、佐藤家から飛び出してきた一花に呼び止められた。その隣で一花の様子を見て姉さんが微笑んでいる。
「おかし作ったから食べに来てー」
「おかあさんに教えてもらってマドレーヌを作ったの。順一君と彰君に食べてもらいたくて誘いに来たけど大丈夫だった?」
「大丈夫だよ。大した用事があるわけじゃないし、兄さんは部屋にいるから呼んできなよ」
図書館に行くことは大した用事じゃない。毎度、双葉と顔を合わせているが、約束しているわけでは無いので問題ない。次に会う時の双葉の機嫌は悪いだろうけど、久しぶりに食べるおふくろの味に勝てるわけがない。
「じゃあ、呼んでくるわね」
家にいる彰兄さんを姉さんが呼びに行った。その間に一花と一緒に佐藤家に行く。
「おかあさんは昔からおかし作りがとくいなんだって。でもオーブンをつかうとあぶないから今日まで作らなかったんだって」
「そうなんだ」
家にお邪魔してリビングへ行くと、そこには大量に作られたシュークリームが並んでいた。
いくつか並んでいる内のカスタードクリームがはみ出しているものが一花が作ったのだろう。
「初めてなのにすごいな」
俺も前世で作ったことがあるのだけれど、もっと雑に作っていた。
「ふふ、やぶれちゃったのは冷蔵庫に隠してあるのよ」
「お母さん! ないしょにしてっていったのに!」
どうやら失敗したものもあったようだ。
兄さんたちも遅れてやってきて一緒にシュークリームをいただくことにする。彰兄さんは姉さんの作った物を、俺は一花の作ったものをもらうことにする。
口に広がるバニラビーンズの香りに懐かしさを覚える。
「おいしい」
素直な言葉が出てくる。
「そうだね。お店で売っているのと全然違うね。何が違うんだろうね?」
あまり甘いものを食べない彰兄さんも本当においしそうに食べている。
「あまさを控えめにしているのと、やっぱり出来立てだからかしらね。あとは一番大事なのは愛情をこめて作ることかしら」
「いっぱいあいじょうをこめたよ! じゅんちゃん!」
「そうか。じゃあ一花はお菓子作りの才能あるんだな」
「え? そう? ケーキ屋さんになれる?」
「うん。がんばればケーキ屋さんになれるよ」
「じゃあ、いっぱいれんしゅうする! 練習してケーキ屋さんになる! 明日も作ろお母さん」
「もう毎日作るわけないでしょ」
「ええ、じゃあ、今日つくろ」
「変な理屈をこねないの。来週また違うクリームのシュークリームを教えてあげるから今度にしなさい」
「うう、じゃあやくそくね」
変な理屈をこねたものの、諭され来週もう一度シュークリームを作ることが決まった。
その後は一花がどうやってシュークリームを作ったのか一所懸命に説明をしてくれた。
「また食べに来てねー」
「もちろん食べにくるよ」
来週作るのはカスタードクリームだけでなく、生クリームを追加したものになるだろう。今から楽しみだ。
ただ、一つ心配がある。二週連続で図書館に行かなかったら双葉が相当へそを曲げていしまいそうだった。
少し遅くなっても来週は図書館に行くべきだな。
機嫌取りのために、シュークリームを持っていくべきかなぁ。




