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第5話 ふたば その1

 家族友人に恵まれているとはいえ、一人で過ごす暇な時間は訪れる。

 特に日曜日は暇を持て余していた。

 彰兄さんは部活に出掛けるし、佐藤家は元々家族で出かけることが多い。

 佐藤家と三鷹家が一緒に出掛けることはあるけれどそこまで頻繁にあるわけもない。

 そんな中見つけた娯楽は図書館に出掛けて本を読むことだった。

 この図書館は人が少ないし、隅にある席に陣取れば、カウンターからも見えないため、目立つこともない。

 三鷹家佐藤家にある本はすでに一度目の人生で読んだことがある。

 週間連載の雑誌などは読むまでもなく先の展開まで覚えているのだから面白さは半減してしまっていた。

 その点図書館の本は読んだことがないものばかりで娯楽にはうってつけだった。

 今日も今日とて、新しい本を物色しようと本棚の間をさまよっていたのだが、何やら子供が騒いでいた。

 俺と同い年くらいの少女二人で、ツインテールの女の子が自慢気にもう一人のおとなしそうな少女に話しかけていた。


「何よ、こんなのもよめないの? ホース! こっちはシープよ!」

「うん、おうまさんがほーすで羊さんがしーぷなんだね」

「そんなんじゃ。これからこまるわよ。わたしがおしえてあげるからちゃんと聞くのよ!」

「うん。ありがとうふたばちゃん」


 ふたばと呼ばれた少女は偉そうにふんぞり返っている。

 二人の間にある空気は穏やかなものだから、間に入るのはおせっかいでしかないだろう。だけど、うるさくしないように注意だけしておくか。


「二人とも図書館では静かにしなよ」

「何よあんた。わたしたちのべんきょうをじゃまするの?」

「読書の邪魔をしているのはそっちだろ。勉強なら静かにやってよ。それなら文句ないよ」

「ふん、できないやつのひがみね。あんたはこれよめないでしょ」


 そうやって俺に広げていた動物のイラストと英語で書かれた文字を見せてくる。指さすのはネズミか。


「マウスだろ」

「え? じゃ、じゃあこれは?」

「ラビット」

「これならどう!」


 長い単語。だけどこの程度の単語なら中学生レベル十分読める。


「エレファント。あと興奮しないで静かにするように」

「うぅ。じゃあ、これはどう! お兄ちゃんにきいたとっておきよ!」


 彼女が指さしたのは、動物のイラストではなく余白に鉛筆で書かれた文字だ。たまたま動物の英語の読み方を知っているだけだと思ったのだろう。イラストがなければ読めないはずだと提示しされたそれがなにか一瞬わからなかった。だが、


「ゼブラ。シマウマ。あと字はきれいに書くこと。そうじゃないとちゃんと読んでもらえないよ」


 頭文字のZの上のほうが丸みを帯びていて完全に2にしか見えないせいで一瞬読めなかった。

 2ebraと書かれていたからさすがに戸惑った。


「な、なな、なんでよめるのよ!」

「ふたばちゃん声大きいよ。みんな見てるからしずかにしよう」

「……わかったわ。べんきょうできなくなったらこまるからしずかにするわ」


 二人は声を潜め勉強に戻った。小声で話しているが、席が離れていれば気にならない程度の声で話しているので問題ない。

 これで心安らかに読書を楽しむことができる。

 今日は何を読もうか。そうだ、英語の本を読んでみるのもいいかもしれない。外国の作家が書いた日本でも有名な、魔法使いが冒険する本があったはずだ。読んだことがなかったから挑戦してみるにはちょうどいいかもしれない。

 図書館で騒ぐ迷惑な少女がいたけど、新しい本を発掘する手助けになるとは思わなかった。

 俺はこの後有名な作品を探し始めるのだが、まだ出版されていないことに気づくのはだいぶ先のことになるのだった。


 そしてこのふたばという少女と長い付き合いになるとは、この時の俺は思いもよらなかった。

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