第4話 三鷹彰その1
夕食後は暇を持て余しがちだったのだが、最近は一花がうちに遊びに来る。
「じゅんちゃん、かんじをおしえてー」
そう言ってやってくるが勉強するのは数十分程度ですぐに遊びに移るんだけどな。
しばらくドリルの宿題をやっていたところで一花が首をかしげて聞いて来る。
「そういえばわたしのなまえは一花だけどじゅんちゃんのじはどうかくの?」
「……わかんない」
正確に言うと順一の順の字はまだ習っていないので答えられない。
「じゅんちゃんでもわからないことがあるんだねー」
「習ってないことは分からないよ」
「そっかー」
「何か分からないことがあったのかな?」
俺たちの様子を見て彰兄さんが近づいてきた。
「じゅんちゃんの名前のかん字がわからないの」
「そうかい、順一の字はこうやって書くんだよ」
そういって丁寧に俺の名前を書く。
「おにいちゃんありがとー。じゅんちゃんとわたしおそろいの字だー」
「彰兄さん教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「こんばんわー。一花来てますか? ああ、一花ちゃんと勉強できた?」
「うん! じゅんちゃんの字とわたしの字はいっしょなの!」
「そうよかったわね。順一君いつもありがとうね。いやじゃない? いやならいやって言っていいのよ?」
「うん、大丈夫」
一花はとろいところがあるけど、物覚えが悪いわけじゃない。俺といっしょに勉強したことはちゃんと覚えている。
順一の漢字もちゃんと憶えたことだろう。
その後しばらく勉強をしたが、まだ幼い一花は集中力が続かず、勉強を放り出した。
「じゅんちゃん。あそぼ―」
「何するの?」
「みんなでババ抜きしよー」
「こら、もう勝手にそんなこと決めてお兄さんも忙しいんだから……」
「俺は大丈夫だよ」
「そう? じゃあ一回だけよ」
「やったー!」
ババ抜きが始まり、だんだん枚数が少なくなっていく。
「ううぅ。どっちだろう……。お姉ちゃん。ババ持ってる?」
「さあ? どうかしら」
たぶん持ってるんじゃないかな。と思っていると。一花がエイッとカードを引く。カードを見た瞬間に表情が絶望に染まる。
間違いなくババを引いたな。落ち込んだ表情で丸わかりだ。
しょうがない。
「じゃあ、こっち」
一花からあっさりとババを引くと一花の表情はぱぁっと明るくなる。とても分かりやすいやつだった。
そして俺は一度カードをシャッフルしてから、彰兄さんに引かせるために手札を向ける。
「じゃあ、僕はこれにしようかな」
兄さんはまるで見えているかのように俺からババを引いていった。
たぶんわざと引いていった。俺は一花とは違って表情にあまり出ない。それでも兄さんは簡単にババを引いていく。兄さんは人をよく見ている。本気になれば完封すらされてしまうだろう。
それなのに気前よく弟や妹分に勝ちを譲れるのは、人が出来ている。
まだまだ子供なはずなのに二週目の俺がかなう気がしない。
「じゃあ、私はこれね。なかなかそろわないわね」
彰兄さんでババは止められているようだ。
「うー、こっち! やったぁー! そろった!」
その後、兄さんの所からババは動かず、一花が一番で俺が二番だった。
一番をとれた一花はとても嬉しそうに喜び、俺たちはそれを微笑ましく眺めるのだった。




