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第12話 三鷹順一その3

 燦燦と太陽の日差しが降り注ぐ中、俺は内心は鬱々としていた。

 眉を顰めるのはまぶしさのせいだとごまかすように日差しを手で覆い隠す。


「綺麗な海ね。人も少ないしいいところね」


 姉さんの声にうなずく。

 そう。海である。

 お隣の佐藤家と一緒に海に来ていた。

 泳げはするものの、相変わらず、俺は水泳が嫌いだった。

 というか、ここでおぼれたのが原因なんだよな。

 前世の時にこの海で波にさらわれ、おぼれかけた。幸いにも兄さんがすぐに駆け付けて助けてくれたため、大事には至らなかった。

 前世と比べるとちゃんと泳げるようになっているので、準備運動さえしっかりとしておけば溺れることはない。

 だからトラウマを払拭するために楽しみ尽くすことにする。


「順ちゃん海綺麗だね」

「そうだな。一花もおぼれるなよ」

「溺れないよー。私もちゃんと泳げるようになったんだよー」

「知ってる知ってる。だから海に来ることになったんだから」


 ちゃんとプールで泳げることを両親も確認していて、海でも問題ないだろうというお墨付きをもらっている。


「順ちゃん泳ぎに行かないの?」

「あとでなー」

「私も後で―」


 一花もこういっているし、苦手意識は後で払拭するとしよう。

 うんそうしよう。

 俺と一花は両親達が準備したシートとパラソルを準備からほど近いところで砂の山を作って遊ぶことにする。

 巨大な山を作ってキャッキャウフフと楽しんでいる兄さんと姉さんを驚かせてやることとしよう。




「すごいな。二人ともこんな大きな砂山初めて見たよ」

「そうね。ちゃんとトンネルもあってすごいわね。それに貝で飾り付けてるのね」


 と、戻って来た二人を驚かすことに成功した。


「貝殻は私のアイディアだよー」


 褒められて一花もご満悦であった。

 そしてお昼ご飯を食べて一息ついた後、一花と一緒に海に泳ぎに出る。

 緊張した足取りで、海に入っていく。

 足裏の砂がさらわれる独特な感触を味わいながら、肩まで浸かるところまで来て波に体をゆだねる。

 大きな波にさらわれない様に、タイミングを合わせながら揺蕩う。

 うん。問題ない。

 前世と同じようにおぼれることは無い事に安心する。


「ふう。って、あああ! 一花! お前が溺れるのか!」


 隣にいたはずの一花がいつの間にか消えていた。

 慌てて波にさらわれた一花を探し出し、足の着くところまで引きずり出す。

 鍛えてていてよかった!

 苦手でもちゃんと水泳を頑張っててよかった!


「大丈夫か一花!」

「っげふ、ごふ。じゅんちゃーん。怖かった。」


 水を少し飲んだだけで済んだようですぐに返事が返って来た。


「ああ、よかった。俺がちゃんと見ていてやらないとだめだったのにごめんな」


 自分のトラウマに向き合うことにばかりに気を取られて、海が初めての一花をないがしろにしてしまっていた。一花を支えて海から上がる。


「大丈夫か! 一花ちゃん! 順一!」


 いち早く異常を察知して兄さんが飛んできてくれた。


「だいじょうぶー」


 泣きそうになりながらも、問題なさそうな一花に兄さんは安堵する


「よかった。ちゃんと僕もついてくればよかった。いやついて行かなきゃ行けなかったのに」

「兄さんは悪くないよ。ちゃんとプールで泳げてたからって深いところまで行った俺のせいだよ」

「とにかくシートまで戻ろう」


 父さんたちも異常に気付いて近くまで来ていたが、一花が大丈夫な様子を見て安堵していた。

 二人で一花を支えてシートまで戻る。

 一花はしばらくタオルにくるまりじっとしていた。

 一花が溺れかけたこともあり、もう帰ろうかという話にもなったが、一花が「大丈夫。夕方までいる」と言ったので、予定していた通りに夕方までいることになった。

 スイカ割りにビーチバレーを楽しみ、日が暮れるころには一花に笑顔が戻っていた。

 帰りの車の中。俺の腕をがっしりとつかんで、一花は穏やかに眠っていた。

 思わずこちらも顔がほころぶが、心配事が二つできた。

 一つは、一花は俺に懐きすぎじゃないだろうか。

 幼いころからの付き合いがあるとはいえ、ここまでべったりになるのは拙い。

 一花を嫌いというわけじゃないけど、いつかは分かれがくる。それが遠くないことは確定してしまっている。

 俺がいなくなった後一花は立ち直れるか心配だった。

 そして、もう一つ。

 前世で溺れたのは俺だった。だけど実際に今日溺れたのは一花だった。

 偶然ならそれでいいけれど、もしかして一花は、俺の代わりに俺の人生を歩んでいるんじゃないか?

 そんな疑問が浮かんだ。

 もしそうであるなら、俺の最期にだけは巻き込まない様にしなければならない。


 あの死は俺にとっての救いなのだから。

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