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第10話 三鷹彰その2卒業

 珍しく俺は一人家でのんびりと過ごしていた。

 兄さんも両親いない。

 置いてけぼりにされているというわけではない。

 今日は彰兄さんの卒業式だからだ。

 卒業式後にはお祝いにご飯を食べに行くことになっているので、出掛けるわけにはいかない。

 ちなみに俺の三つ年上なので、中学や高校に進学しても一緒の学校に通うことはできなくなる。

 姉さんは二つ上。

 だんだんと頼りにしていた年上がいなくなり、代わりに頼りにされる立場になっていく。

 前世では兄さんがいなくなってさみしいと思うばかりで、そんなことは考えてもいなかった。

 こうして少しずつ環境が移り変わって成長していくのだろうか。そう考えると同じ学年の浩司や一花が俺に頼りっきりの現状を続けるのは拙い気がする。

 ただ浩司に関してはあまり心配していない。もともと誰にでも気軽に話しかけるやつだし、来年からは部活もやっている。その時に広い交友関係を持つはずだから問題ない。

 一花に関しては、どうだろうか?

 俺の一度目の人生にはいなかった一花のことは分からない。これまでは同じクラスだったけれど、別のクラスになるのか、それともこれまで通り、同じクラスなのか。

 いや、ちょっと待て、これまで前世通りのクラス分けだったけれど、実はそれはたまたまで、佐藤順一と同じなのは俺じゃなくて、一花なのか?

 そうするとずっと浩司と同じクラスだったけれどこれからは違うという場合も出てくるかも知れない。

 ……そこらへんは考えるだけ無駄か。別のクラスになってから考えればいいことだ。

 逆に別のクラスになったらなったで、一花が自立するにはちょうどいいのかもしれない。

 

 …………それにしても暇だ。


 もうすぐ帰ってくるはずなんだけど、図書館で本でも借りておけば良かった。

 そんなことを思っていると、玄関のチャイムが鳴った。


「だれだろ?」


 疑問に思いつつも玄関に向かう。一花あたりだと暇をつぶすにはちょうどいい、そう思っていると。


「順一くんいるー?」

「姉さんか」


 待たせないように足早に玄関に向かい扉を開ける。


「姉さんどうしたの? 兄さんは今日はまだ帰ってきてないよ?」

「うん。そうみたいだね。でも一番に卒業おめでとうって言ってあげたいから。ここで待たせてもらっていいかな?」


 手には小さな花束があった。市販のものではなく、庭で育てた花を束ねただけのものだけれど、姉さんの気持ちは込められていた。


「うん。いいよ上がって待っていて。兄さんも喜ぶと思うよ」

「お邪魔します」

「今のうちに花瓶探しておこうかな」


 雑貨がしまってある、物置場所をを探すとすぐに花瓶が見つかる。


「そういえば、一花はどうしてるの?」


 いつもなら姉さんが来る前に一花が現れていた。姉さんだけが家にいることは珍しかった。


「一花なら、順一君に花束を作ってるわよ」

「俺に? なんでまた」

「私が作っていたら、「私も順ちゃんに作るー」って。今お母さんに教わってるわ」

「そうなんだ」


 そういうことなら、花瓶を二つ出しておくとしよう。

 しかし、一花よ。俺に作ってどうするんだ。姉さんは兄さんの卒業式だから作ってるんだぞ。

 もらえるのはうれしいし、純粋な行為を無下にする気もないのでしっかり受け取らせてもらうけど。


「姉さんも来年卒業だね。俺も花束を作ってあげようか?」

「作ってくれるの? うれしいけど。彰君がひがんじゃうわよ」

「そうかもね」


 自分の時はなかったのにと落ち込む兄さんが想像できて思わず笑みがこぼれる。


「ただいまー。順一。またせたね。って、智も来てたんだ」

「うん。お祝いに花束を作ったの」

「おお、ありがとう。こんな立派なの作ってもらえるなんてうれしいな」


 花束を受け取り嬉しそうな兄さんと、褒められてうれしそうな姉さんの二人だけの空間ができて、少しだけ疎外感を感じる。


「順ちゃーん。花束できたよー。あげるー」


 それをぶち壊すように一花が飛び込んできた。右手にはへにょっとなった花束が握られていた。


「ああうん。ありがとう。一花もうまく作ったな」

「うん。彰お兄ちゃんにもあげるねー」


 もう一つ小さな花束を左手に持っていてそれを兄さんに渡した。


「ありがとう。一花ちゃん」


 兄さんは微笑んで受け取り、一花も嬉しそうだった。


「そうそう、これからご飯を食べに行く予定だったけど変更になったよ」

「え? そうなの?」

「良ければ、お隣も誘って一緒に行こうかって話になっていて、今お母さんとお父さんが都合が悪くないか聞きに行ってるんだ」

「ご飯作ってなかったから大丈夫だよー。私中華料理がいいー」

「そうだね。今日は中華料理屋にしようか」


 勝手に中華をリクエストするけど、兄さんは微笑んで受け入れる。


「いいの? 一花を優先しなくていいのよ」

「中華料理屋だったら、大きな席もあるしちょうどいいよ」

「じゃあ、近くにある中華料理屋だね。すぐに出発すればまだ空いてるんじゃないかな。ただその前に」

「その前に?」

「花束を飾ってから行こうか」


 花を飾った後、中華料理屋に行って俺達は兄さんの卒業を盛大に祝った。

 その日から数日我が家の玄関が華やかだった。

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