5 妹との対面
家を出て何事もなく、30分くらいで高校に着いた。
さてと、着いたことには良いけれど、どうしたら良いのだろうか。
駐車場でうろうろとしていても、不審者に思われるだけなので、校舎の方へと向かう。
校舎が近づくにつれて、明輝と対面するまでの時間が短くなっていく。吐き気がするが、ここで帰るわけにもいかない。
校舎の前まで来ると、ご用件がある方はこちらまでと書かれている看板を見つけた。指示通りに歩いていくと、来校者用の玄関にたどり着く。
深呼吸をして扉に手をかける。
普通の人にとっては、きっと軽く開けられる扉なのだろう。だが、僕にとっては重く、開かずの扉のように感じる。
いつもより汗が多く流れる。扉の向こう側から見れば変な人が扉の前に立っていると思うだろう。早く行かなければ。
僕は変な人に見られたくない一心で、扉を開けた。
校舎内に入ると、右手側に受付があった。迎えに来たことを受付で伝えなければいけない。
母親からの電話に出る、車を運転する、校舎の中に入るに続いて、本日4回目の試練だ。
「すみません」
ここで変に声を震わすと、明輝に迷惑がかかるかもしれないので、必死に声が震えるのを抑え、落ち着いて話しかけた。
すると、事務であろう女の人が小窓を開けた。
「なんのご用件でしょうか」
「2年の立花 明輝の兄です。体調不良になり早退ということで迎えに来たのですが」
「あ、はい。保健室から連絡が来てます。今、呼びますね」
そう言うと、事務の人はデスクに戻り、受話器を手に取った。
「2年生の立花 明輝さんのお迎えが来ました。はい、失礼します」
受話器を置くと、再びこちらに来る。
「もうちょっとしたら来ると思うので、少々お待ちください」
「はい、ありがとうございます」
礼を言うと、事務の人は小窓を閉めて、デスクに戻った。
あれ?俺、意外と完璧じゃない?受け答えしっかり出来てたよね?と内心浮かれる。この調子なら、明輝とも顔を合わせられる!
そう思っていると、近づいてくる足音に気が付いた。
一歩一歩、確実に近づいてくる足音。その音はまるで死神の足音のようで、血の気が引いていくの感じる。
この調子なら、明輝と顔を合わせられる?無理でした。そんな余裕は一瞬で吹き飛びました。
しかし、パニックに陥っていても時間は過ぎる。足音は段々と近づき、明輝は僕の前に姿を現した。
「え、お兄ちゃん?」
どうやら迎えに来るのがだれかは知らなかったらしい。かなり驚いている様子だ。
僕だって迎えに来た自分に驚いているよ。
しかし、相手が驚くのを見たおかげか徐々に落ち着いてきた。他人の驚きを見ると、自分が冷静になる法則である。
「母さんに頼まれた」
「え?本当にお兄ちゃん?太った?」
話を聞けよ。お兄ちゃんだよ。お前を迎えにきたんだよ。
てか、太った?ってなんだよ。久々に会うのに第一声がそれかい。
「明輝さんのお兄さんですか?」
一人心の中で、突っ込みを入れていると白衣を着た女の人から声をかけられた。保健室の先生だろうか。
「はい。いつも明輝がお世話になっています」
「いえいえ、いつもは元気なのに今日は体調が悪いみたいで。今は学校でもウィルス性の胃腸炎が流行っているので、今日は早退させることにしました」
「そうですか。お手数おかけしました。これから病院に連れて行きますので」
「はい、そうなさってください。じゃあ明輝ちゃん、しっかり良くなってから登校して来るのよ」
「……」
明輝は僕の顔を呆然と眺めていて、話しかけられたことに気づいていないようだ。
「あはは。本当に体調が悪いみたいので、今すぐ病院に連れて行きます」
「そうみたいですね。では、お大事に」
その会話は明輝の耳に届いたのか、ハッとしたような顔になり、ローファーの靴を履いて、僕の横に並んだ。
「じゃあ、先生さようなら」
「はい、さようなら」
挨拶をすると、明輝は先に外に出た。僕も先生に軽く会釈をしてから、明輝を追うように外に出た。
外に出ると、明輝が僕と顔を合わせるように待っていた。なぜ、仁王立ちなんだ。
「何で来たの」
「車」
「タクシー?」
「いや、父さんの車」
「え?!運転してきたの?!」
「うん」
「出来たの?」
「免許持ってる」
「……どのくらい乗って無かった?」
「2年くらいかな」
「私、バスで帰る」
まぁ、そうなるよね。分かってたよ。僕に友達がいたとして、2年運転してないけど30分くらいドライブに行こう。だなんて言われたら断る。
しかし、今日はバスで帰らせない。
「早く乗って。病院行くから」
「え、あ。うん」
意外にもすんなりと助っ席に乗り込む妹。お互いに車に乗った後は病院に付くまで、ひたすらと無言だった。
ただ、明輝は身体を小刻みに揺らしていた。
体調不良だから仕方ない。うん、僕のせいではない。
かかりつけの病院に着くとお金だけを渡し、自分は運転席で待っていることを伝えて、明輝を降ろした。
明輝が病院に入ったことを確認すると、身体中の力が抜けた。久々の妹との対面に身体中がガチガチだったのだ。
本当に緊張した。意外と遠視のおかげで妹が隣にいるということには緊張を感じなかったが、コミュニケーションとなると別だ。
遠視は僕からの一方的に関わっているだけなので、コミュニケーションを取っているわけではない。
コミュニケーションを取るということが2年ぶりだった。2年も会話をしていなければ、家族といっても、他人と同じくらいの距離感だ。
それは向こうからしても同じだと思うけどね。
1時間くらいすると、明輝が病院から出てきた。そのままこちらに来て助手席に乗ってきた。
「先生が言ってた胃腸炎じゃないってさ。ただの風邪でした」
流行りのものではなかったらしい。
「そうか、じゃあこのまま薬局行くか」
「うん、お願い」
その後は薬局に行って薬を買い、後は家に帰るだけだ。家に帰れば、後はいつもの生活に戻るだけ。
今日、明輝とコミュニケーションが取れただけで大満足だ。
家に着くと、車を駐車場に駐車をしなければいけないのだが、バックで入れるのが怖すぎて前から突っ込んだ。
父さん、なんかごめん。
「……ダサい」
明輝からは、鋭い刃のような感想が届いた。
これが久々のコミュニケーションか。なんだろう、心が痛い。
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