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UNKNOWNな引きこもり  作者: 砂を持った猫
3/5

3 能力の出現

 気を失ってからが大変だった。


 数時間が経っては目を覚まし、耳から入ってくる圧倒的な情報量に、脳がうまく処理できずに気を失う。

 この繰り返し。この流れのまま、僕は死ぬんじゃ無いだろうかと、気を失う間際には考えていた。

 しかし、朝起きてから12時間あたりが過ぎてくると、聞こえてくる声の数が減ってきた。うるさいとは思えど、気を失うほどでは無くなったのだ。

 

 夕食が来る時間には、聴力のコントロールが出来るようになっていた。

 

 下の階にいる家族の声が聞きたいと思い、意識を集中すれば家族の声が鮮明に聞こえた。いろいろと試していて、3軒隣の家に意識をしてみれば、そこにいる住人の声だけを聞き取れたときには驚いた。


 聴力のコントロールが出来るようになってからは、興奮状態だったので何も気にしないで、いろんな会話の盗聴を楽しんでいた。

 一通り楽しみ、少し落ち着いてきてから、ふと思う。


「……あれ?これっておかしくない?」


 唐突な賢者タイム。


 すごくはしゃいでたけど、これやっぱりおかしいよね?

 人間ってこんなことできないよね?

 

 こうして、自分の異常さに気付いたのである。


 不思議には思う。普通に考えて人間業では無いからだ。もちろん、以前から実は使えていたんだ。というわけでもない。


 思い当たることがあるとすれば、昨日落ちてきた黒い塊。


 思い当たるといっても、自分で調べきる自信も無いし、かといって相談する相手もいない。得体の知れない黒い塊が空から落ちてきた、でもぶつかっても平気で、耳も良くなった。なんて話をしても信じてくれる人はいないだろう。

 もし信じてくれたとしても、目に浮かぶ未来は人体実験である。そんなもんは受けたくない。


 ん~。どうしたらいいんだ。……そうだ!分かったぞ!


 考えるのをやめよう!


 耳が良くなっただけだし、コントロールも出来る。自分の生活において害は無い、大丈夫大丈夫!


 僕は現実逃避という開き直りをした後、晩ご飯を食べて寝た。





 しかし、僕に起きる身体の異変はこれだけでは無かったのだ。






 次の日起きてみれば、視力が良くなっていた。これもコントロールをするのには時間がかかった。

 コントロールしなくても良いじゃんと思うでしょ?でも、視力良すぎると、ホコリの1つ1つ、カーペットにいるダニの1匹1匹が鮮明に見えるのだ。


 非常に気持ち悪かった。


 ただ単に目が良くなっただけでは無い、ズームが出来たり、透視なんかも出来たりした。

 そして、眼鏡はいらなくなった。さらばだ、眼鏡よ。


 その次の日には、嗅覚が良くなっていた。これをコントロールするまでには何回も吐いた。

 家に住んでいる女性陣の化粧品と香水、父親の加齢臭、食品、洗剤の臭いなどが強烈な刺激として僕を襲ったのだ。

 コントロールが出来てからは、人それぞれの体臭の臭いなんかも分かるようになり、その臭いを追いかけることも出来るようになった。

 犬になった気分だ。


 こうして3日という少ない期間で、僕の五感のうち、3つが異常なほど発達した。発達という言葉では生ぬるいもしれない。ここまでくると、もう進化の方が正しいのかも。

 

 それでも僕は深く考えなかった。コントロールできるから大丈夫。

 社会不適合者で引きこもりの僕にとって現実逃避はお手の物だった。


 こうして僕の身体が異常になってから1ヶ月が過ぎた。

 

 この1ヶ月間の間に気付いた能力がある。

 

 1つは遠視(とおみ)と呼んでいる。 


 簡単に言うとこの能力は、視点を自分の眼球に置くのでは無く、違うところに置くことができる。

 自分の眼球から遠くの場所に視点を置くから、遠視だ。

 

 ある日、部屋にこもりながら久々に海が見たいなと思い、目を瞑り、幼い頃に家族で出かけた海水浴場のことを思い浮かべていたら、まるで今そこにいるかのように景色が鮮明に見えたことで気付いた。


 色々なことを試してきて能力の効果を大体は掴んでいる。


 1つ、自分が見たことのある場所にしか、視点を置けない。ただし、遠視で視点を置いた場所から見えた場所にも視点は置ける。

 このことから想像できると思うが、視点を動かして人を追跡したり、外に出ないで探検なんかも出来る。

 

 2つ、実際に行った場所じゃ無くても、写真や映像で見たことのある場所になら視点を置ける。


 3つ、視点を置く際には、置きたい場所の景色を鮮明に思い浮かべる必要がある。

 

 例えば、遠視を使い擬似的に散歩をしていて、建物に入りたいとする。しかし、ドアの向こう側を思い浮かべることが出来ないのでお店の中には視点を置けないのである。

 視点を置くには、扉の奥の情報を前もって知っておくか、誰かが中に入るのを待つしか無いのだ。

 

 まぁ、こんな説明をしておいてなんだけど、遠視と透視の併用が出来たので僕には関係無いのだけれど。


 4つ、遠視中に、自分自身の目に視覚情報が入ると能力は切れる。

 遠視中に少しでも瞼を開いてしまうと、遠視は終わってしまうのだ。しかしこの問題は意外にもあっさり解決した。安眠用のアイマスクを付けることで、少し目を開けても視覚情報に引っかかること無く、遠視を続けることが出来たのである。


 最後に、この能力を使っていると頭が痛くなることだ。

 使い始めていた頃は、遠視をしても1分や2分で激しい頭痛がしたので長い時間使うことが出来なかった。

 最近は3時間くらいまでなら頭痛無しに使えるようになったけどね。


 頭が痛くなるのは、脳が今はまだ耐えられないからだと考えている。少しずつ慣らしていけば1日中遠視が出来るようになる日がかもしれない。


 この遠視は聴力のコントロールと組み合わせることで、実際に自分がそこにいるかのように体験することが出来るのを発見した。

 この前はリア充の集団の近くに視点を置き、聴力をコントロールしてリア充の集団の声だけを聞き取り、リア充になってみたごっこをした。

 結局は会話に入り込めないので、大学に通っていた時に、席の近くでリア充がワイワイしているのを聞いて羨ましく思っていた感情を思い出すだけで、何も楽しくは無かった。




 もう1つの能力には複眼(ふくがん)と名付けた。

 この複眼という能力は遠視の複数バージョンである。

 イメージとしては、数台のテレビをつけ、それぞれ違うチャンネルに設定し、すべて同時に鑑賞しているような感じだ。


 能力の効果としては、視点を複数に置ける以外は遠視と変わらないが、頭痛に関しては何十倍も痛い。

 母さんの様子を見ながら、父さんの様子も見れないかな?と考えたのが間違いだった。出来たことには出来たのだが、気を失うほどの激痛を経験することになった。

 

 そのときの一言がこうだ。


「出来るかな?……ん~。あっ、出来あああああああああああああああああ」


 1秒くらいで激痛に会いました、はい。

 いや、本当にヤバかったよ。右脳と左脳がそれぞれに分かれて死んだと思ったよ。


 この複眼も、遠視のように何回も使い慣れることで長時間使えることが出来るようにはなると思う。なるとは思うけど、何回も試したくない。実際に1回しか使ったことがないしね。


 複眼に関して分かっているのはこれくらいだ。これからも増えることは無いと思う。痛いのは嫌だから。


 1ヶ月の中で、これらの能力が使えるようになり。「いや遠視とか、五感の強化どころの話じゃないだろ。僕、人間を卒業しちゃったのかな」とか思うようにもなってきた。

 

 ただ不安感はあまりない。

 

 人間を辞めたって、人間のふりをすれば良いだけだからだ。

 誰にも話さなければバレない。そもそも誰ともコミュニケーションを取らないのに誰にバレるというのだろうか。

 

 バレなければ、取りあえずは人体実験という未来は無くなると思う。


 ただ1つだけ、自分は近い未来にポックリ死ぬのでは無いだろうかということだけ不安に思っていた時期はあった。

 死ぬのは怖いチキンだけど、今すぐ死ぬわけではないし、毎日いつ来るかも分からない死に怯えていたら、そっちの方が短命になりそうだと思ったら不安感は消えた。

 

 人間卒業してようがしてまいが、人はいつか死ぬからだ。


 

 今では能力を使った日課も増えた。

 それは家族の観察だ。

 

 僕だって、ずっと家族と話せないのは嫌だ。少しずつ家族との距離になれていけば良いと思って、遠視と聴力のコントロールで観察しているのだ。

 よくよく考えてみると、すごく変態みたいだな。酷い言い方をすればストーカーと変わらないじゃないか。

 モラル的には止めたほうが良いとは思うんだけど、1ヶ月前に父さんと会話したときに得られた幸福感が忘れられないんだ。


 とりあえず、家族以外はストーカーをしていないので、自分の中では良しとしておく。


 お母さん、お父さん、姉ちゃん、明輝、ごめんなさい。


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