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UNKNOWNな引きこもり  作者: 砂を持った猫
1/5

1 引きこもりの僕

よろしくお願いします。自分の妄想たっぷりなので、合わない人はごめんなさい。

 下を向いて歩く。いつから下を向いて歩くようになったのか。

 高校に通いづらくなった時から?大学で友達が出来なかったから?


 理由なんてもんは分からないけど、僕は下を向いて歩く。

 下を向いていると安心するから。


(しょう)。下に降りて一緒にご飯食べない?」

「いつも通り、部屋の前に置いといて」

「……そう、置いておくわね」


 2年前から家族が家にいる時は、家族と顔を合わせたくないために部屋から出ないようになった。

 社会不適合者になってしまった自分を、家族に見せるのが怖くて情けないのだ。


 家族がいない時は、外に出てお気に入りの場所に行く。ずっと部屋の中にいると生きていることが無意味に思えて、自分の存在があやふやで怖くなるからだ。

 想像になるけど、この怖さに耐えることが出来ず、目を逸らすことも出来ない人が、自殺をするんじゃないかと思う。

 僕はどんなに辛くても、他者と関わることも自殺することの出来ないチキンなので、怖さから逃げるために外に出る。

 

 リフレッシュは、社会不適合者にも必要だ。


 扉を開けると、晩ご飯が置いてあった。今日のメニューは、切り干し大根、煮物、ご飯、ししゃも。

 最近は洋食が多かったので、時々の和食も良いね。


 僕の今の人生はこんな感じで流れていた。


 あの日、力を得るまでは。







「よし。母さんも父さんも仕事。姉ちゃんと明輝(あき)は学校に行った」


 朝九時を過ぎると家には僕だけ。そう僕が部屋から出る時間だ!

 ヒャッハー!これからは僕の時間だぁぁぁぁぁぁ!


「フンフン~♪フーン♪」

 

 鼻歌を鳴らしながら服を脱ぐ。僕の日課である、朝一のシャワーのためだ。夜は家族がいるために浴びられないので、この時間になる。

 鼻歌なんか歌って、引きこもりなのに元気そうだなだって?引きこもりだってテンション高い時くらいあるんだよ!


 シャワーを浴び終えると、キッチンに置いてある食パンを1枚とり、口に咥えて、ソファーに座り、テレビをつける。

 自室にはテレビがないので、テレビもこの時間にしか見られない。

 今の時代は便利なことに、スマートフォンとWiFiがあれば、大概の暇を潰すことができるためにテレビが見られない時間があっても何ら困らないのだ。


「いや~、恐ろしい事件が起きましたね」


 テレビに映っているのは、よく見るコメンテーターだ。

 恐ろしい事件とは何なのだろうか?そう思い右上のテロップを見てみると、そこには連続殺人と書かれていた。


 少し興味を持ったので、ニュースに集中する。


「都内のBARで、数人を刃渡り一五cmの包丁で刺し、13人を殺害した疑いです。

 日渡 努(ひわたり つとむ) 容疑者は、昨日8日にBARで開かれていた同性愛者が集う会に乱入し、数人を包丁で刺し殺害した疑いが持たれています。警察によりますと、現場にいた店長が警察に通報をし、駆けつけた警官により取り押さえられ、連行されたと言うことです。警察は、容疑者の動機などを調べています」


 アナウンサーが、事件の概要を説明していた。


 連続殺人をする奴なんてヤバすぎるだろ。と感想を抱きながらテレビを見つめていた。

 テレビの向こう側では、事件現場の映像が流れている。

 この映像が自分の生きている世界と同じものだとは思えない。なので、今僕に流れている同じ時間の中で起きた、凶悪な事件に対して不思議だなと思ってしまう。


 テレビの映像が、事件現場からスタジオへと変わる。


「本当に恐ろしい事件が起きてしまいましたね。佐藤アナウンサー、これって現場にいた人から話とかって聞けてるの?」


 そこは視聴者である僕としても気になる所だ。


「はい。現場にいた人の話によると、日渡容疑者は店に乱入し”神による裁きだ!”と叫んでから、次々と襲っていった。ということです」

「”神による裁き”ですか。これって精神鑑定とかになるんですかね?」

「どうでしょうか。そうなるのかどうかは今後の取り調べで決まってくると思います」

「佐藤アナウンサー、ありがとうございました。本日は泉堂大学の犯罪心理学科、新羅(しらぎ)教授に来ていただいております」


 番組では犯罪心理学の権威が登場し、事件の解説を始める。

 僕はテレビから流れる音を聞きながらワクワクしていた。


 いつも事件が起きるたびに僕の心は躍る。不謹慎かもしれないが、自分の周りで起きたことの無いようなことを知ることが、とても新鮮で興奮を覚えてしまう。まるで違う世界での話を聞いているような感覚だ。


 僕は非現実的な出来事に憧れているのだ。僕の、この平凡でつまらない場所から、テレビの向こう側の非現実的な世界へと行きたいと願ってしまうのだ。


 今の引きこもりだって、普通の人から見たら、非日常的だとは思うけれども。


 とりあえず、簡単にまとめると、僕は生きるための刺激を欲していると言うことだ。

 まぁ、人には迷惑をかけないけどね。僕チキンだし。

 それに、殺人などの人を害するものが良いものとは思えない、実際にニュースを聞いていて胸が躍る反面、気分の悪さも感じるからだ。


 テレビでは、まだ新羅教授が解説をしているが、細かい話は面倒くさいので聞き流し、昼までの時間はソファーに寝そべりながら、ゆっくりと過ごした。


 昼になってから適当に冷蔵庫にあるものを食べて、出かける準備をした。


 外に出ると、お気に入りの場所を目指して散歩をする。歩いて15分くらいで大きく流れる川が見えてきた。

 僕のお気に入りの場所は、あの川の土手の野原だ。あそこに寝そべって空を見上げていると、身体の力が抜けてリラックスが出来る。

 きっとこのリラックスには、寝そべりながら聞こえてくる川の流れる音の効果もあるのだろう。


 いつものように野原に寝そべり、雲一つ無い、大きな青空を見上げる。今日のニュースを思い出して、深く息を吐く。

 重たいニュースはどうしても憂鬱になる、聞いている最中は興奮するのだが後味が悪い。今日の帰り道くらいは、前を向くことを意識して歩こうと思う。


 なぜ、下を向いて歩かないのかだって?下を向いて歩くと、他人の目を気にしなくても済む、しかしその代償として、狭く心苦しい気持ちになるのだ。

 今日くらいは憂鬱なのに、自分から心苦しい気持ちにならなくても良いだろう。帰りの時間帯は人も少ないので、余り他人の目を気にしなくても済むしね。

 

 お気に入りの場所でのんびりしていると、時間というものはすぐに流れる。

 そろそろ、妹の明輝が高校から帰ってくる時間なので家に戻らなければ。


 ゆっくりとしていた身体を起こし、両腕を真上に上げて身体全身を伸ばす。

 伸ばし終えたので帰路に着こうとしたその瞬間、身体中に悪寒が走った。


 心臓を鷲づかみにされたような感覚に冷や汗をかく。


 風邪引いたかな?少し落ち着こうと思い。空を見上げてから深呼吸をしようとした。しかし、僕は深呼吸をすることが出来なかった。


 見上げた空の先からは、黒い塊が落ちてきていたからだ。

 驚きのあまりに、声を上げることもその場から逃げることも出来ない。刻一刻と落ちてくる、青い空に生まれた大きな穴のような黒い塊を眺めるだけ。


 そして、黒い塊は僕に落ちた。 


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