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其ノ47 私のキモチと俺の覚悟

 ゆっくり歩くと同時に床板のきしむ音が、暗く静寂が満ちる廊下に響き渡る。リビングから俺の部屋まではそう距離は無いのに、今は途方もなく長い道のりのように感じた。


 部屋のドアは少しだけ開けられていて、中から日の光が薄く縦筋を引いて空間に差し込んでいた。出ていった形跡はなさそうで、恐らく琳はまだこの部屋の中にいるのだろう。

 ドアの前に立ちゆっくりと深呼吸をしてから、意を決してドアノブに手をかける。

 

「……入るぞ」


 中に向かって一声かけてからノブを下ろし、ドアをゆっくりと押す。俺の部屋のドアは廊下から右に押すタイプなので、ドアを開けた瞬間は部屋の全貌が見えない。なので当然、開け放った先の空間には琳の姿は見えなかった。さっき出て行く時に"寝床を借りる"と言っていたので、琳の気が変わっていなければ恐らくドアで壁になっている先のベッドにいることだろう。

 どんな顔をしているのだろうか、どんな姿勢でいるのだろうか、何を考えているのだろうか。そんなことが頭の中でぐるぐると渦を巻く。まず最初に何を言えばいいのか、それすら満足に決められない状況で果たして琳の顔を見れるのだろうか。心配が心配を呼び、部屋の入るための一歩が中々踏み出せない。


(うっ……気が重い……)


やっぱり、今の俺ではだめなのかもしれない。諦めて引き返そうと再びノブに手をかけたその時、


「なーにやってんのよ。気になって見に来てみればこれだわ」


「うひっ!」


 俺の耳元で沙夜姉がいきなり囁いたせいで、俺は背筋をビクッとさせて小さく変な声を上げてしまった。


「さ、沙夜姉! 脅か――」


 俺は振り返って沙夜姉に文句を言おうとしたが、沙夜姉は俺の口に人差し指を付けてそれを優しく制止した。


「しーっ、琳に聞こえるわよ。さっきまでの勢いはどうしたの?」


 沙夜姉は口に指を当てたまま、やれやれと言った様子で俺に尋ねる。


「あ、いや……」


「まあ、言わなくても分かるわ。男の子のくせに意気地がないなぁ」


 俺の口からそっと指を離し、沙夜姉は腰に手を当ててため息をつく。


「うっさい。こういうのはなんだか性に合わねぇんだよ」


 俺は小恥ずかしいというように、頭を掻きながら目をそらして答えた。


「性もへったくれもないでしょうに」


「うっ……」


「そんな意気地なしには……こうだっ!」


 開けたドアの前でうじうじしている俺を見かねた沙夜姉は、片足重心で立っている俺の胸めがけて両手のひらを押し付け、勢いよく部屋の中に押し込んだ。


「うっ、おおっっ!?」


 思わない衝撃に体勢がよろけ、俺はそのまま部屋の中に押されてしまった。


「さ、沙夜姉っ!」


「ごゆっくり~」


 部屋の中で体勢が戻った時には既に沙夜姉がドアを閉めた後で、俺は琳と二人っきりの状態になってしまった。


(なんてことしてくれるんだっ! こんな状態で琳と向かい合うなんて……)


 恐る恐る部屋の中を、安全であろう方面から見渡していき始める。いきなり琳と両面きって話すのは気が重すぎたためである。


 ドア横の壁面、異常なし。後ろの本棚、異常なし。窓、夏の日がよく照っていて温度以外異常なし。机と時計、今は午後二時過ぎだった。そしていよいよ、俺は自分のベッドに目を向けた。



――……。



 琳はいた。

 しかしこちらを向いていなく、俺に背を向ける形になりベッドの上で静かに正座をしていた。


 しんと静まり返った部屋の中に、デジタル時計の秒針の音だけが響き渡る。部屋には冷房を入れていないため閉め切られた室内は気温が高く、冷や汗なのか脂汗なのかわからないものが首筋に垂れてくるのが伝わってくる。


 何から始めようか、なんて声を掛けようか、未だ決まらない最初の一手を延々と頭の中でぐるぐるさせながら、浅くなっていく呼吸を静かに整える。


「あ、あの、さ……」


 ようやく出た言葉も後には続かず、再び沈黙が流れる。かと思いきや、


「何用ですか」


 後ろを向いたままの琳が、なけなしの俺の言葉へ静かに答えた。


「あ、いや、その……」


「用が無いのなら、一人にさせてもらえませんか?」


 琳は冷静に、静かに、そして冷たく、俺と距離を取ろうとする。それは、今までの琳からは想像がつかない対応だった。


「あー……」


 俺は次に繰り出すべき言葉を必死になって考える。しかし、なかなかいいものが浮かばず視線を宙に彷徨わせながら声にならない声を発し続けた。


(これじゃダメだ。折角沙夜姉が作ってくれた時間なんだし……)


 暫く考えてから、俺は目を閉じて大きく深呼吸をした。そしてまた息を吸い、両手に力を籠める。



ぱんっ!


 一瞬、琳の背筋がビクッと反応したように見えた。俺は自分の頬を思いっきり手のひらでたたくと、重たい足を一歩、また一歩と前に出していき丸い机の前であぐらをかいて座った。


「すまんっ!」


 両膝に手を置き、俺は琳の背中に一言謝ると思いっきり机にめがけて頭を振り下ろした。ゴンッという豪快な音が部屋中に響き、俺の目の前には綺麗な火花が散った。


(いってぇぇぇッッッ!!!)


 内心声を大にして叫びたかったが、これ以上みっともない姿を晒したくは無かったのでグッと涙をこらえる。

 これには流石の琳も何がどうなっているのか全く分からなく、ついに身体を俺の方に向けて驚いた顔を隠せなかった。


「と、殿っ!? 大丈夫ですかっ!?」


 琳は慌ててベッドから飛び降りると、俺の傍に飛んできて状態を心配する。しかし、俺は頭を下げたまま手を伸ばして琳を制止させた。


「だ、大丈夫だ……それより、お前こそ大丈夫か?」


 俺はゆっくりと頭を上げて、琳の方を見ながら尋ねる。まだ額がジンジンと熱を持っていてヒリヒリと痛みが残っていた。


「わ、私は大丈夫ですけど……」


 琳はしどろもどろになりながら、自分の身体をあちこち見ながら答える。


「そりゃそうか。だって何もしてないもんな」


「あ、そうですね……」


 刹那、俺と琳はお互い顔を見合わせた。その時初めて俺は琳の顔をちゃんと見たのだが、琳の眼にはうっすらと光るものがあり、鼻頭はオレンジ色に染まっていた。


「あっ……」


 琳はすぐさま目線を逸らし、自分の眼を着物の袖でぐしぐしと拭い始める。


「んっ……それで、一体どうしたのですか。こんなことをしてまで、何用なのですか」


 琳はまた後ろを向いてしまい、人工的な冷たさを持った声で窓に向かって尋ねる。


「……もう作ってるのバレバレだぞ」


「うっ……」


 どうやら図星だったようで、琳の背中が小さくなったように見えた。俺は一度咳払いをして背筋を伸ばす。


「お前とちゃんと話がしたい。せめて座ってくれないか?」


 しかし、琳はすぐには答えなかった。暫く時間が開いて、琳は大きくため息を付く。


「……勝てませんね。わかりました」


 そう言って琳はゆっくりと俺の正面に移動し、正座をして俺の正面に座った。丁度、琳と初めて会った日に話をした形と全く一緒だったのは単なる偶然ではないだろう。もっとも、位置は真逆だったのだが。


「こうやって話すのは、初めて会った時以来だな」


「そうですね」


 琳は少しぶっきらぼうに答える。正面に座ってもまだ眼は合わせてくれないらしく、下を俯いてしまっている。


「あの時は本当に焦ったもんだ。なんたって信じてなかった幽霊と話してるんだからな」


「殿が大変焦っていたのを覚えています」


 琳の口調は今までのどの時よりも大人びていて、まるで年上の人と話しているかのようだ。そうなってしまった理由はさっき聞いたし、いまもそうなっているのは紛れもなく俺のせいである。


「それから幽霊と暮らすなんて、夢にも思わなかったな」


「……そうですね」


「……」


 折角話がいい感じに進んでいたのに、琳の切り返しに続く言葉が出てこなかった。再び沈黙が訪れてしまう。しかし、このまま黙っているわけにもいかない。折角来た波を、このまま見過ごすわけにはいくものか。そう決心を固め、膝の上の拳を握る。


「……それから色んなことを知ったな」


「……はい」


「琳の好きなもの、嫌いなもの。楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと」


「……はい」


「でも、肝心なところは何にも知らなかった」


「……」


 琳はついに返事をしなくなり、黙って俺の言葉に耳を傾け始めた。俺は琳が離れていかないことを確認すると、言いたいことを少しづつ絞り出しながら言葉を続ける。


「さっき、沙夜姉から色々聞いたよ。本当なら琳から直接聞くものなんだろうけど、事態が事態だから沙夜姉も教えてくれたんだと思う」


「……」


「琳の本当の過去。いや、"三ツ姫"の過去を知ったよ」


「――ッ!」


 三ツ姫、と言う単語を出した時琳は一瞬ハッとなって顔を上げたが、またすぐ顔を伏せてしまった。


「どうして琳が行ってしまったのか、その理由と原因。聞いてないから知らなかったなんて言い訳はしたくないけど、それでもやっぱり知らなかったことは謝る」


「……殿が謝る必要ありません。私も話していなかったのですから」


 琳は顔を俯かせたまま、暗いトーンで答える。


「でも、知らなかったことでお前を傷つけたのは間違いない。だから俺が悪い」


「そんなっ! 殿は悪くありません! 悪いのは私ですっ」


 琳は顔をバッと上げて怒ったような眼で俺を見つめ、声を荒げた。しかし、俺は不思議とその展開が読めていたので少しも動揺はしなかった。


「ならどっちも悪かった。それで文句ないだろ?」


「そ、それは……」


 勢いのあった琳は、俺の提案を聞いてから反論が見つからず身体に入っていた力を抜いてシュンとしてしまった。


「これで先ず一つ解決。そんで俺が話したいのは、お前の気持ちが分かっていなかったってことだ」


「……それは?」


 琳は、不安と疑いを持った目付きで俺を見つめながら尋ねる。


「それを言う前に、先に知りたいことがある。さっき出ていたっとき、琳は何を考えていた? 今まで俺の部屋で何を思っていた? それが知りたい」


 俺は、琳の眼あるところを見てはっきりと言い切った。


「……私は……」


 琳はまたうつ向いてしまい、口を噤んで何かを我慢しているように見えた。


「思ってること、何でも言っていい。俺はどんなことでも怒らないし、ちゃんと聞くから」


「……ッ」


 琳は一瞬息を素早く吸ったかと思うと、少しずつ膝の上においていた手が小刻みに震え始めた。


「琳……?」


「……ひっく、うっ……」


 そして、俯いた琳の顔から一つ、キラッと光りながら落ちていく雫が見えた。


「うぐっ……私はッ……わたしはッ……!」


 その雫は次第に数が増えていき、琳は声と肩を震わせながら必死に言葉を紡ごうとする。


「私はっ……子供扱いされることが嫌でした……。ぐずっ、子供扱いされてっ、殿の正室候補になれなくてっ、んぐっ、だからっ、私は大人になりたかった……。そして、殿の正室になりたかった……」


 俺は黙って、琳が伝えようとするものを聞き逃さないように集中する。


「その時のことが、ずっと忘れられなくてっ……ひっく、今もっ、あの時のことで胸がいっぱいでっ、エホッ、殿が、あの時の殿に見えてしまってっ、いたたまれなくなったのです……」


「だから出ていったんだな」


 琳の言葉は、おおよその想像が付いていた。と言うより、沙夜姉に聞いた通りであったため言葉の先読みができ、琳が言えなかった言葉の補完が自然と頭の中で行われる。沙夜姉、マジ感謝。


「今はっ、んぐっ、ここで殿と会ってからのことを思い返してましたっ……」


「それはどんな?」


 琳は、自分の眼から溢れ出てくる涙を必死にふき取りながら話を進めていく。


「殿と会って初めて言われたことっ、殿と約束したことっ、殿と一緒にお出かけしたことっ、殿とッ……殿とッ……!」


 段々と言葉がつまりはじめ、最後の方では嗚咽に負けて言いたいことが言えないようだった。


「その"殿"って、誰のことだ? 生前の俺のご先祖様か、それとも目の前の俺か?」


 琳は嗚咽を繰り返しながら、暫く何も口に出さなかった。これを聞いたのにはある確信があったからなのだが、その答えはやはり本人から直接聞きたかった。


 長らく、俺のことを"殿"と呼ぶ理由。それは当初、生前のご先祖様と容姿が似ているからだと聞いていたが、今は多分違う理由があるのだと思う。俺の名前を教えても尚呼び方を変えなかったのは、琳の中である考えがあるからなのだろう。その理由はきっと、琳自身が答えてくれる。そう信じていた。


 そして、嗚咽が収まってきたころ、琳は紅い眼を袖でこすってからしっかりと俺の顔を見て――、



「……家城、雅稀殿です」



 それを聞いて確信が更に深まった。俺が聞いたことの本当の理由。それは、"琳が俺をどう思っているのか"ということ。


 漢字の"殿"と言う字は、貴人を敬って言う代名詞であり、その昔は摂政や関白等の目上の人を指していたとミキペディアに書いてあった。つまり、琳が"殿"と呼び慕うのは自分より目上の人物であり、その人物に敬意や尊敬の意を持っているということである。

 琳の時代で城主を殿と呼ぶのは勿論当たり前なのだが、この時代ではそんなことはない。しかし、それでも琳は俺のことを殿と呼ぶ。それはつまり、俺、家城雅稀を敬い慕っているという確たる証である。そこからわかること、俺が解らなかったことと照らし合わせると、ある一つの事実が浮かび上がってくるのだ。


「殿……私は……」


 琳が唇を震わせながら言葉を紡ぎながら、拭っていた腕を下げくしゃくしゃになった顔で俺を見つめる。今にもまた泣き出しそうな顔で、でも必死に何かを伝えたいのだということが痛いほどわかる。


 口がゆっくりと開いていき、喉が空気を受けて震え始める。最初の一言を生み出すために。そして――、



「私は、家城雅稀殿が好きです」



 やっと聞けたその言葉、それが琳の本心だ。沙夜姉も言っていたことだが、いざ本当に本人から聞くと中々の破壊力がある。幽霊に好かれる俺っていったい何なんだと、少し前の俺ならパニクってしまってどうにかなっている所だが今は違う。その言葉の重みをしっかりと受け止め、噛みしめていくことができる。

 琳はもう大分泣き止んでいて、声の震えもだんだんと納まりつつあった。だから、その言葉ははっきりと俺の耳と心に届いたのだ。


「私は、ずっと前から貴方のご先祖様の殿が好きでした。でも、今こうして殿と呼ぶ相手のことを考えると、どうしても貴方のことが浮かんできてしまうのです。私が好きな"殿"とは一体誰のことなのか、そればかりが頭を巡っていました。私は一体誰を好きになったのか、わからなくなってしまったのです……」


 俯き加減のまま、琳は黙々と言葉の理由を話し始めていた。


「でも、今こうして貴方と話していると、自然と穏やかな気持ちが溢れてくるのです。それは過去に殿と話していた時と同じ――いえ、それ以上です。その気持ちが一体何なのか、本当は解っていたけど考えたくなかった。だって、私が好きだったのは貴方のご先祖様のはずだから……」


 琳は唇を食いしばりながら話を続けていて、まだ悩みながら話しているように見えた。


「それがいつの間にか貴方と言う存在が私の中で大きくなり、そして殿を思う気持ちを超えてしまいました」


「そのきっかけは何だったんだ?」


 俺は、琳の話が切れたところを狙って尋ねる。


「……貴方が陰陽師から護ってくれると約束をしてくれて、それをちゃんと守ってくれたことだと思います」


 琳は少し考えてから、俺の眼を見つめて答えた。


「あれは、護ったって言うのにカウントされないと思うんだけどなぁ……」


 俺は自分の頭を掻きながら、苦笑いして答える。


「でも、結果として私は封印されませんでしたし、沙夜子さんも無事です。それは間違いなく貴方のおかげです」


 しかし、琳はその否定を否定するかのように真剣に返してきた。


「生前の殿は最後に約束を破ってしまいましたが、貴方はちゃんと守ってくれました。それが私はいと嬉しかった。だから、好きになったのかもしれません」


 なるほどな。いつの時代でも約束を守るやつは好かれるってのが今ここで証明された、そんな気がした。俺のご先祖様、事情はどうであれもうちょっとしっかりしてほしかったな。


「それを認めたくなくて、でも認めてしまいそうで頭がこんがらがっていた。だからここでずっと考えてたんだな?」


 俺の質問に対し、琳はコクンと小さく頷く。


「貴方に子供扱いをされて、過去のことを思い出して、殿のことを考えれば考えるほどあなたの顔が浮かんでしまって、頭がぐちゃぐちゃになってしまいました。でも、貴方がちゃんと話をしてくれるから、ちゃんと謝ってくれるから、ちゃんと守ってくれるから、たった今私は自分の中で迷っていた気持ちに答えを出せました」


 琳のこの一言が、今日すべての結果を表していた。琳は話を進める中で、自分の中に答えを見いだせていたのだ。


「そっか」


 俺の発した言葉はとても優しく、穏やかなものだった。出してから自分でもびっくりするほどだったのだ。


「貴方はどうですか?」


 ふいに琳が俺の眼を見て、薄く笑みを浮かべて尋ねる。


「何が?」


「私のこと、どう思っていますか?」


 俺が最初に言ったことを琳は思い出したのか、その答えを求めてくる。俺を見つめる眼は紅く燃えるような色をしていて、生半可な気持ちで聞いているのではないことが分かった。だからこそ、俺はなんて答えればいいか未だに自分の中で決めあぐねていた。


「俺は……」


 目を伏せて口ごもる俺を、琳はしっかりと離さないように見つめてくる。


「……今の俺は、お前のその気持ちに応えることはできない」


「……はい」


「勘違いしないでほしいのは、別に嫌いってことじゃないからな。お前といると、その、楽しいし退屈しないんだ。だけど、今お前の真っすぐな気持ちを受け止めきれるか分からない。はっきり言えば、俺なんかでいいのか自信が無いんだ。だから、俺の気持ちに整理がつくまで待っててくれないか? 必ず答えは出すから。約束する」


 そう答えるのがベストだと思った。これが俺の本音そのものであり、琳に対して思っている感情なのだから。嘘偽りなく、俺は琳に打ち明けた。

 多分、俺も琳のことが好きなのだろう。しかし、その好きがライクなのかラブなのかが分からないのだ。だから、その迷いに答えが出た時には改めて俺の方から伝えようと思う。それがせめてもの礼儀だと思うから。


 琳は眼を閉じて黙って俺の宣言を聞いていた。そして、聞き終わってからゆっくりと眼を開けて薄くほほ笑んだ。


「……はい。約束、ですよ?」


 琳の顔は、既に傾きつつあった夕日の光に照らされてオレンジ色に輝き、頬は桃色に染まっていてとても可愛らしかった。その笑顔に誓って、俺はこの問題に必ず答えを出そうと心に決めたのだった。






雅稀メモ:必ず答えをだす


琳メモ:貴方が好きです


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