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其ノ46 割り切った過去と割り切れない思い

 リビングには、クーラーで冷やされた以上の冷気と沈黙が漂っていた。今までの和気あいあいとした雰囲気とはガラッと一変してしまい、生まれてしまった沈黙が心の中を痛痒くさせる。琳は俺の部屋に行ったきり出てこなく、物音ひとつ立てずに静かにしているようだ。


「……なあ」


 その沈黙が耐えられなく、俺は取り残されたもう一人に声を掛けた。


「なぁに?」


 沙夜姉は机の横に立ったまま俺の方を向いて、優しくも冷静に返事をした。


「俺、なんか気に障ること言ったか?」


「……そう、ね……」


 俺の顔を見つめていた沙夜姉は、眼をそらして廊下に首を回しながらつぶやく。その表情はとても悲しそうで、見ているこっちまでもが心が痛んでくるようだった。


「琳のあんな表情、初めて見たな……」


 俺は誰に向けてでもなく、ただ自分に言い聞かせるように静かな部屋の中でぽつんとつぶやいた。


「……ねぇ」


 今度は沙夜姉の方から、俺に向けて声を掛けてきた。


「なんだ?」


「琳が、あんな顔をして行っちゃった理由わかる?」


 沙夜姉は静かに俺の方を向いて、しかしちゃんと芯の通った声で尋ねる。俺は横目でそれを見ていたが、沙夜姉の表情は先ほどとは打って変わり真剣そのものだった。


「……俺が気に障るようなことを言ったから?」


「じゃあ、その気に障るようなことって?」


 更に質問を重ねる沙夜姉の声のトーンが、少し強くなったような気がした。

 俺は視線を前に戻し、少し前のことを思い出す。沙夜姉が変身の技を見せ、琳がそれを見て大興奮していた。余りの食いつきように流石の沙夜姉も敵わず、目配せで俺に助けを求めた。だから俺は琳を止めようと、襟首を引っ張って引き離し声を掛けた。


 一見すると、どこもおかしなところはない。しかし、この一連の流れの中にどこか琳に引っかかる部分があったのだ。それがどこなのか、なぜそうなったのか、よくよく考えてみるも見当たらない。食いついていたのを見過ごせばよかったのか、止め方がまずかったのか、それとも他のことなのか。


「……さっぱりだな」


 俺は小さくため息をついて、目を伏せながら答えた。


「そう……」


 沙夜姉は静かにそうつぶやくと、ゆっくりと呼吸をした。そして、


「琳のこと、もうちょっと解ってると思ってたんだけどね」


 そう、何かを諦めたかのように言葉を言い捨てた。


「……は?」


 いきなり言われて、俺は最初耳を疑った。まるで、何も解っていないというような言い方だったのだ。


「どういうことだよ」


 俺は横目で見ていた姿勢を沙夜姉に向け、顔を睨みながら低いトーンで問う。


「言葉のままよ」


 しかし、沙夜姉は俺の睨みに一切動じず、冷静な姿勢のまま言葉を返す。


「意味が解らん。確かに沙夜姉に比べれば琳との付き合いは浅いかもしれんが、それなりに解ってるつもりなんだが?」


 生前からの付き合いがある沙夜姉に比べれば、俺と琳の付き合いなんて一か月程度の短い期間である。しかし、その一か月の中にも色々なことがあったし、色々なことを知った。幽霊を信じていなかった俺がその幽霊と同居生活をするなんて、それですらありえないことだったのだ。でもそれを可能にしてくれたのは、紛れもなく琳のおかげである。そんな琳のことを色々知ろうと思い、忘れないようにノートや手帳にメモを取った。琳の過去を知って、琳がまた封印されないように陰陽師達から守るとも約束した。

 

 そんなやり取りを一切知らないつい最近来た新顔に『もうちょっと解ってると思っていた』と言われても、逆に琳と俺の何を知っているんだと言いたくなる。琳の現在や過去は、俺の中では話をたくさん聞いたから大分知っていると思っている。それの一体どこが足らないというのだ。


「……はぁ」


 強く出た俺の態度を見て、沙夜姉は呆れた様にため息をついた。その行動一つ一つが、段々と癪に触ってくる。


「なんだよさっきから。俺がどうしたって言うんだ!」


 つい、今まで募っていたイライラが少し溢れ出てしまい、言葉が荒く大きくなってしまった。しかし、沙夜姉は一切微動だにせず淡々と俺を見つめている。


「何もわかってないのね」


 沙夜姉の言い放った言葉は、とても冷ややかで心の奥に深く突き刺さった。ジクリと胸の内が痛み、そこからどんどんと血の気が引いていくような気持ち悪い悪寒を感じる。


「……何だって言うんだよ。どいつもこいつも」


「教育係を甘く見ない事ね。事情を知っている人から見れば、誰だって同じことを思うはずよ」


 沙夜姉は、冷静に一つ一つの言葉をはっきりとさせながら話す。


「だから、その事情ってなんだよ! まだ俺が知らない琳のことがあるなら、はっきり言ったらどうだ?」


「なら聞くけど、雅稀は琳の気持ちを考えたことはあるの?」


 俺は椅子から飛び上がって、声を荒げる。しかし、勢い任せに沙夜姉にぶつけた言葉は、そのままの勢いを保ったまま沙夜姉から返された。思わずその勢いに押し返され、俺はガタンと音を立てて椅子に崩れてしまった。


「琳の、気持ち……?」


 俺は目を見開いて口を金魚のようにパクパクとさせながら、沙夜姉が言った言葉を繰り返す。


「そう。雅稀が解ってないのはそこよ」


 沙夜姉は、崩れた俺に向けて人差し指を突き出して話す。


「暫く後ろで見ていたけど、雅稀は他人の感情を理解することが下手くそだと思うわ。誰に対しても強気で、自分が優位に立っている。相手の気持ちのことを解ろうとしない、自分さえ理解出来ていればそれでいい、そんな風に感じ取れるわ。どう、思い当らない?」


 グッと指を前に突き出され、鼻先まで先端が近づく。思わず首を後ろに引いてしまうが、心では負けじと威勢を張りたい気分だった。


「何が言いたい。何も知らない癖に、そんな解ったような態度をするなっ!」


 俺は机を拳でドンと叩き、沙夜姉を見上げ歯を向いて食らいつく。


「解ったようもなにも、見え見えなのよ。行動から言動から、雅稀の心情が」


 沙夜姉は、突き出していた指を引っ込めて両腕を胸の前で組んだ。


「いい? 何も解っていないようだからヒントをあげるわ。わたしが言いたいのは、雅稀は琳の過去や性格などの"情報"は知っていても"感情"までは知らないってこと。それを踏まえた上でもう一度聞くわ。なんで琳が行っちゃったか解る?」


 沙夜姉は、諭すように俺に話しかけてきてくれている。大人な対応をしている沙夜姉に対し、俺はただ感情を表に出して騒いでいるだけでみっともない。ここは感情的になるよりも、理論的になった方が得策だろう。

 俺は少し頭を冷やそうと荒くなった呼吸を整えるべく深呼吸をし、感情の高ぶりを抑えつつも沙夜姉の質問の意図を探ろうと脳みそをフル回転する。


 暫し、二人の間に沈黙が流れる。どれぐらいか経った頃、俺はゆっくりと口を開いた。


「……琳の気持ちを考えないことを言ったから?」


「なら、それはどんなこと?」


「……それが分からない。大人になったら出来るかもって、変な期待をさせた事とかか?」


 まるで教師と生徒のような立ち位置で、禅問答を受けているような感覚だった。不思議と沙夜姉はそんな空気を作り出していて、さっき言っていた"教育係は伊達じゃない"という意味がようやく解った。


「近からずも遠からず、ね。なら、その切り口から入ってあげる」


 沙夜姉はそれまで立っていた場所を離れ、琳が座っていた椅子の上に移動して静かに座った。お互い対面するような形になり、いよいよ生徒と教師のような構図が完成する。


「琳の過去のことは、当然知っているはずよね?」


「あぁ、何度も聞いたからな。けど、それと今回のことに何の関係が?」


「大ありなのよ。それがね」


 沙夜姉は、机の上で指を汲みながら答える。


「琳の過去にあった事と、さっきの会話の中で何か共通点はない? 特に言葉ね。単語でもいいわ」


「共通点……」


 琳は、過去に俺のご先祖様の殿様と親しくしていた。自分が正室になるのだと思い込んでいたのが、父親や家来たちの話し合いの結果自分だけが選ばれなかった。それで心を病んでしまい、最後には自殺をした。が、気持ちが強すぎて怨霊となってしまい、最後は叶実の祖先に封印された。ざっと、これが琳の過去だったはず。


 そして、今日の会話の中で、恐らく原因があったであろうフレーズ。たしか、『琳は子供だからな。大人になったら出来るかもな。多分』だったはず。こういう時に記憶力の乏しさが心配だ。


(子供……大人……琳の過去……感情……)


 まるで、探偵のように顎に拳を付けて考える。記憶力の乏しい俺の頭で、覚えている全てのことを総動員して見えないパズルを組み立てていく。


「……ッ! まさか!」


 その時は突然訪れた。考えていた中で急に頭の中の霧が晴れたかのように、目の前がぱあっと明るくなった気がした。透明で何もなかったパズルのピースに急に色がつき、描かれている絵が鮮明になってきたように思えた。

 俺は、急に顔を上げて沙夜姉をはっきりと視界に捉える。


「思いついたこと、話してみて?」


 沙夜姉は表情を変えず、俺に優しく答えてくれた。


「……まず、質問の答えからだ。共通点、それは"大人"と"子供"だ」


「ふむ、それはなんで?」


 沙夜姉は、組んでいた指を入れ替えながら尋ねる。


「琳の過去に関わってくるのは、自分と殿様との関係が大きいだろ? 子供だった自分が大人の正室候補に選ばれなかったこと、それが琳の心残りだった。子供だからと言う理由で、大人たちに勝手に決められてしまったことに傷ついたんだったよな?」


 俺は頭の中に浮かんでいる琳の過去の出来事を再生しながら、その時の心情を言葉にしてみる。あっているかどうかはわからないが、恐らくそんな感じだったであろうという自分の中の仮説の元、出来たパズルを読み取りながら話していく。


「そうね。琳にとって、それは何よりも重要なことだったわ」


 沙夜姉は、俺の考えを否定せずに軽く首を縦に振って答えた。


「次に、今日のことだ。俺は琳を子供扱いし、大人になったら出来ると曖昧な事を言った。それは琳にとって、過去の嫌な記憶を思い出させてしまうきっかけになった。違うか?」


「……さっきの雅稀とはえらい違いね。解ってるじゃない」


 沙夜姉は少し口角を上げて答える。その顔を見て、俺は少し安堵の気持ちが芽生えた。長らくこんな事をしなかったものだから、小学生以来の久しぶりの感覚で自分が若返った気分だった。


 俺は、沙夜姉の顔を伺いながら尚も推論を続ける。


「つまり、琳が行ってしまった理由。それは、俺が言った事で過去のことを思い出してしまい、結果として琳を傷つけてしまった。そう言うことだろう」


 俺は沙夜姉の眼をしっかりと見つめて言い切った。沙夜姉も俺の目を見つめ返しながら、真剣な表情を変えずにじっと俺の推論を聞いていた。


 しばしお互いの目線が繋がっている時間があったが、不意に沙夜姉がニコッと笑顔を見せた。


「そこまで解ってるなら、後はわたしが補足をしてあげれば大丈夫ね」


「補足? まだなにか足りなかったのか?」


 俺はこれでもダメだったのかと、少し落ち込んだ気分になった。顔を伏せ、また思考を回そうとすると、


「違う違う。雅稀の考えは合ってるわ。ただ、雅稀の知らないことがあるから、その付け加えを、ね」


 沙夜姉は椅子を立って机に身を乗り出し、頭をもたげた俺の肩をポンと叩く。


「知らないこと?」


「そう。わたしから話すのもなんだけど、この際だから許してね」


 立った沙夜姉は一瞬後ろを振り返って琳の居る方角を見て謝ると、また俺の方を向きなおして椅子に座りなおした。


「琳はね、自分が子供だったことを恨んでいたの。上の姉たちはみんな大人扱いされていたのに、自分だけは子供扱いを受けていて。それもそうよね、年齢が大分離れていたのだから」


「具体的には?」


「今の表し方だと……上の姉は二四、二十、琳は一四だったわね」


 沙夜姉は、自分の指で年齢を現しながら答えてくれた。


「三人姉妹だから、三ツ姫、か。一番上とはかなり離れてるな」


「因みに、上から一ツ姫(いつき)二ツ姫(ふつき)よ」


「安直なネーミングセンスだな。俺も人のこと言えないけど……」


 今も昔も名づけのセンスがいい人と悪い人はいるんだなぁと、琳達の名付け親に対し親近感が湧いた。


「まあそれは置いといて。琳は当時みんなから可愛がられていた訳だけど、逆を返せばそれだけ子供扱いされてきたってことなの。何をしても、"子供だから"って言われて育ったわ。だから、最初に会った時は筋金入りの箱入り娘だったのよ?」


「へぇ、知らなかったな」


「だって話してないもの」


 突拍子もなく、いつもの沙夜姉がする笑顔の冗談が混じってくる。こうなるともうさっきのような真剣な空気はなく、いつもの穏やかな空気に戻っていた。


「だから、正室候補が決まった時にも、みんなから『子供だからまだ早い』と言われ続けたのよ。そこで初めて自分が子供扱いされてきたことに疑問を持って、それから子供扱いされることを嫌ったわ」


「そりゃそうなるわな。今までは子供扱いされてきて何でも許してもらえてたことが、子供扱いで許されなかったんだから相当なショックだろう」


「わたしも、琳が塞ぎ込んでからは色々方法を考えたわ。最終的には、大人と同じ扱いをすることでなんとか話だけは出来るようになったの」


 沙夜姉は人差し指同士を器用にくるくると回しながら、話を続ける。


「今でこそ、あんなに元気になっているし楽しそうにしているけど、心の中ではまだあの時のことが忘れられないんだと思うわ。だから、子供扱いされたことでそのことを思い出してしまい、一人になりたいと思い行ってしまったのよ」


「なるほどな。子供扱いは禁句だったのか」


「もっと言えば、大人になればってところもね。自分が選ばれなかったとき、琳は大人になるまで待ってほしいと大人たちに懇願したの。けど、大人たちは待ってくれなかった。『いつか三ツ姫が大人になった時になれるよ』とはぐらかされて、結局最後は正室になれなかった。だから、琳は"大人"になろうとしたの。琳が時々大人びた口調に変わるのは気づいていた?」


「あぁ。そう言うことだったのか」


 琳は時々、真剣な話ごとの時や自分の考えを述べる際に見た目に似合わず大人びた口調で話すことがある。その理由は、琳の過去にあった事が原因だったのだ。

 

 俺の知らない琳の事情がどんどんと頭の中に流れてくる。俺はずっと琳のことを知った気でいたが、実はまだ全然知らないことが沢山あった。琳の過去にあった事、その時の琳の気持ち。それが全然わかっていなかったのだ。今更になって、さっきの自分の態度が恥ずかしく思えて仕方ない。


「琳はね、子供扱いされたがために正室になれなかったと思い、大人になろうと努力をしたわ。けど、結局はその年齢や身体的な部分で判断され、夢はかなわなかった。それが悔しくて、悲しくて、報われない思いを募らせながら日々を過ごし、そしてそついにの小さな体はそれに耐えきれなくなったの」


「……なんか、悲しいな」


 琳のその当時の気持ちを考えただけで、俺は胸が張り裂けそうな気分だった。それを琳は必死に我慢していたのだと思うと、胸が更に痛む。


「ここまで話して、琳の気持ち、少しは解った?」


 沙夜姉は、俺に対し優しく尋ねる。


「あぁ、痛い程な」


 俺は、着ているシャツの胸ぐらをぐっと握って答えた。


「なら、次にすべきことは解ってる?」


「あぁ、琳と話してくる。今なら大丈夫そうだ」


 俺はそう答えながら前を向いて席を立とうとした。しかし、それを沙夜姉は手を出して制止する。


「ついでにもう一つ聞いていい? 雅稀は琳のこと、どう思ってるの?」


「どうって……そりゃ、面白いいやつだとは思うけど?」


「違う違う」


 沙夜姉は首を横に振って否定する。


「琳のことが好きかってこと」


「は、はぁ!? いきなりなんだよ!」


 思わぬ質問に、体勢が崩れ膝からガクンと傾いてしまった。沙夜姉は待ってましたと言わんばかりににんまりと笑顔を見せ、机に両肘を立てて握った拳の上に顎を置き俺を見る。


「どうなの? 好き? 嫌い?」


「し、知らねえよ! 第一、なんで幽霊を好きになんなきゃいけないんだ!」


「あらそう? じゃあ、なんで今日もこうして琳を家に置いておくの?」


 沙夜姉の核心を突く質問に、俺は言葉が咄嗟に出てこなかった。


「……なんだろうな。好きか嫌いかじゃなくて、こう、うまく言えないけど、アイツが居ると楽しいんだよ」


「ふ~ん、それだけ?」


「そ、それだけだし!」


 沙夜姉に答える自分の顔が火照っていくのが、クーラーの冷えた風を受けたせいでなんとなくわかった。


「まあ、そう言うことにしておくわ。因みにね、琳は雅稀のこと好いてるわよ?」


「ぶっ!!」


 沙夜姉の口から思いがけない、とんでもない言葉が出てきた。琳が俺を好きだって? そんな馬鹿な話があるか。


「な、なに出鱈目言ってんだ!」


「出鱈目じゃないわよ。琳の行動を見てたら誰だって気づくわ。もしかして知らなかった?」


 沙夜姉は、不思議だというように首を傾げて尋ねてきた。


「あ、いや……」


 沙夜姉に言われて、正直思い当る節はいくつかあった。琳が俺を"殿"と呼ぶこと。一緒に暮らしても成仏しないこと。いつも俺を慕って付いてきて、役に立ちたいとしきりに手伝おうとするところ。

 その可能性だけは考えないように心がけていたのだが、いざ沙夜姉にそこを指摘されてしまうと考えずにはいられない。


「その表情だと、思い当ることはあるようね」


 にーっと歯を見せて笑いながら、沙夜姉は的確に核心をついてくる。


「……知らん」


 俺は心の中を見透かされているようで恥ずかしくなり、赤くなってきている顔をそっぽに向けてしまった。


「まーた素直じゃないんだから。これを知った雅稀がどう答えるか見ものね」


 沙夜姉は席を立ちあがると、腰に手を当て反対の手で廊下の方を指さした。


「さぁ、わたしの話は済んだわ。後は、あなたがどうするか決めなさいな」


 その表情はとても穏やかで、まるで卒業式の後に見送ってくれる担任の先生のように見えた。


「……わかった。ありがとうな」


「はい、よくできました」


 俺は沙夜姉に見送られながら、意を決して自分の部屋の方に歩いて行った。



「琳のこと、お願いね。わたしが出来なかったこと、あなたならきっとできるはずよ」


 沙夜姉は、雅稀に聞こえないよう離れていく背中に向けてそっとつぶやいた。







雅稀メモ:琳の気持ちを理解した


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