其ノ44 ガールズ・ショッピング
「さて、着いたわね」
叶実に引き連れられて最初に着いた先は、商店街で一番大きなドラッグストアだった。全国にチェーン展開している大型の店舗の一つで、日用品から女性の化粧品、栄養食品や掃除用具まで多種多様に取り扱っており、俺もごくたまに洗剤や生活用品を買いに来ることがある場所である。
「ふぉぉ……いと大きな建物ですね……」
巨大なドラッグストアを目の前にして、琳の眼が大きく開かれ首を上げてその壮観な佇まいを眺める。
「わたしもここまで大きいとは思わなかったわ……」
沙夜姉もその大きさに、思わず感嘆の声が漏れる。店舗の上には何階もの駐車場までついていて、敷地も広く巨大なホームセンターのようなのだ。それがこんな商店街の一角にドンと鎮座しているのだから、驚くのも無理はない。俺も最初はそうだったのだから。
しかし、正直ここに来るとは思っていなかった。近場の薬局や安い総合販売店などで揃えればいいと思っていたのだが、まさかここに連れてこられるとは予想外だ。なぜなら……、
「ここなら安いものから高いものまで、何でも揃うでしょ?」
叶実はこれ見よがしに入り口の方を指さし、堂々とした声で俺達に話しかける。
そう、叶実の言う通りここなら何でも揃えることができる。言い方を変えれば、どんなものでも大抵のものならば在庫があるということだ。それだけここが大型の店舗だということなのだが、それはつまり商品の値段もピンキリであるということ。
女性の化粧品なんか買ったことが無いから値段の相場がよくわからなく、下手をすれば高額の商品ばかり買わされかねないということなのだ。
「俺は近場の店でも良かったんだけどなぁ……」
「何言ってんの。あんなところじゃ揃うものも揃わないわ」
叶実は呆れた様に、苦い顔をしている俺に反論する。こういう時、何も知らない俺より女子たちの意見の方がはるかに参考になるのは、火を見るより明らかである。
「そんなに大量に必要なものなのか?」
俺は、今度は横に浮かんでいる沙夜姉に尋ねる。
「う~ん、一通りは揃えたいから、最低でもこれくらい?」
すると沙夜姉は少し考えてから、右手の指を三本立てて見せた。
「三? ……三種類?」
「違うわよ。お金の話」
「金? ……三千円か?」
「違う違う」
沙夜姉は、少し呆れた様に首を横に振る。
「え……三万?」
「そのくらいは欲しいわね」
沙夜姉がにっこり笑顔になると同時に、横で聞いていた叶実も首を縦に振って答えた。
「マ、マジかよ……」
俺は恐る恐る、貰ったばかりの給料が入った封筒を開けて中を覗く。そして、チラッとだけ外を見て沙夜姉たちの顔色をうかがった。
沙夜姉は手を顔の前で祈るように組み、青漆色の眼を輝かせてこちらを見つめていた。さらに、なぜか琳まで眼を紅く染めて沙夜姉と同じように目を輝かせて俺を見つめている。そして叶実は胸の前で腕を組み、早くしろと言わんばかりに不満そうな顔つきで俺を睨んでいた。
(うっ……)
これは中々にヤバい状況である。三万の出費なんて、一人暮らしをし初めてからそうそうしたことはなく、ここ最近も大きな買い物をした覚えがない。なのに、給料が入ってからすぐこんな大きな買い物を、それも俺のものではなく幽霊の私物を買わなきゃいけないなんて、なんともおかしな話だ。
しかし、こんな期待の眼差しで二人に見つめられてはどうも弱くなってしまう。逆に考えて、これでこいつらに使うお金の出費が収まるなら、たとえ三万でも出した方がいいのではないだろうか。高い買い物だが、後々のことを考えればその分の価値はあるかもしれない。
「……あ~ったくっ! わかったよ! 出せばいいんだろ、出せば!」
俺は封筒を乱雑にバッグへ押し込みながら、吐き捨てるようにため息をついて答える。
「さっすが雅稀! 話が分かるぅ!」
俺が渋い顔をしながら答えると、沙夜姉は指をパチンと鳴らして満面の笑みを浮かべる。
「殿っ! ありがとうございますっ!」
そして、琳も何故か顔をピンク色染めて高揚し、沙夜姉と一緒になってはしゃぎ始めた。
「話はまとまった? さっさと行くわよ」
後ろで眺めていた叶実が腕組を解いてくるっと向きを変えると、一人スタスタとお店の中に向かって歩き始めた。叶実は意外と歩くのが早く、あっという間にお店の入り口の自動ドアをくぐって中に入っていってしまう。
「あ、おい、待ってくれよ!」
俺達は慌ててお店の中に消えていく叶実を追いかけ、店内に急ぎ足で向かった。
――……。
「ほぉぉ……」
中に入って先ず、琳が驚きと期待の気持ちが混ざった感嘆の声を漏らした。
「中も随分と大きいわねぇ……」
琳の後ろに付いていた沙夜姉も、首を長くして額に手を添え遠くを眺めるようにして周囲を見回す。
「色とりどりで……いと美しいです……」
すぐそばの広告の傍に寄った琳は、顔をぐっと近づけてカラフルな歯磨き粉の欄をキラキラした目で眺めながら、湧き上がる興奮を隠せない様子。そう、こいつは以前にも猫の手に初めて行ったときに、そこら中に散らばっていたカラー印刷された資料を拾い集めて、家に持ち帰りたいと言ったくらいのカラー印刷マニアなのだ。それが、こんな広くて色とりどりなお店の中に入ってしまえばどうなるか、お察しの通りである。
琳は、そこらじゅうのカラフルな広告や商品を端から端までじっくりと観察していきながら、事ある毎に感嘆の声を漏らして忙しく棚を移動する。
「あんまり離れると置いてくわよ?」
入り口から入ってすぐの棚の前で待っていた叶実が、腰に手を当てて少し不満そうに俺達に声を掛けた。
「お、お前が歩くの早いんだよっ」
息が途切れ途切れになった俺を横目に、叶実は俺の後ろで騒いでいる琳と沙夜姉を静かに見つめながら腕を組む。
「……幽霊、なのよね」
「んぁ? 急になんだよ」
「あんなにはしゃぎまわっている幽霊が珍しいというか、なんというか」
俺の問いかけに、叶実は眉間にシワを寄せ難しい顔をして答えた。なるほど、叶実の言いたいことはわかった。俺も最初に感じた、この違和感のことだろう。
「あぁ、それか。確かにおかしいよな。あんなに人間味のある幽霊、他に見たことあるか?」
俺も振り返って二人が居る方を向いた。
「沙夜子さんっ! これは何という物ですか!?」
琳は薬のビンが並ぶ棚の中を指さして、興味津々に沙夜姉に尋ねた。
「それは"胃薬"よ。お腹が痛くなった時に飲む薬ね」
沙夜姉は膝を折って琳と同じ背の高さになり、琳が指さした物を見て的確に答える。
「ふぉぉっ! なんと、これを飲めばお腹が痛いのが治るのですかっ!?」
「まあ、何日かはかかるらしいけどね。今の医学は発達してるでしょう?」
沙夜姉は、少し自慢げに胸を張って琳に問う。豊満な胸がプルンと跳ね、その姿がなんともグラマーに見えた。
「すごいですっ! いとすごいですっ! 今は薬草を使わなくてもいいのですね! あれは苦くて、私嫌いです……」
琳は両手を上げ飛び上がって興奮した後、何かを思い出したかのように急に苦い顔をして顔色が悪くなってしまった。
「こらお前たち。何やってんだ」
すかさず、薬の棚がある場所まで歩いて行き、沙夜姉に事情の説明を求める。
「これの説明したんだけど、昔飲んだ薬草の味を思い出してこんな顔してるのよ」
沙夜姉はやれやれと言った様子で、苦い顔をした琳の方を向いて答えた。
「何故か急に口の中が苦くなってきました……」
「バカやってないで、さっさと行くぞ」
俺は琳の腕を引いて、さっきから呆れた顔をして待っている叶実の方に歩いて行く。沙夜姉もそれに続いて、俺の後ろに追ってきた。
「何やってるのよ。まったく」
「すまんな。もう寄り道はしない」
「そうしてくれると、大助かりだわ」
叶実は深くため息をついて、「ついてきて」と俺達に言ってから向きを変え奥に進んでいく。
いくつかの商品コーナーを抜けて奥のお目当ての商品たちが並ぶエリアに着くと、叶実はスッと立ち止まって商品を眺め始めた。
「う~ん……どれがいいのかな……」
叶実は商品の中からいくつかを手にとっては、裏面やパッケージに書いてあるコンセプトを目で追って吟味していく。
「俺にはどれも一緒にしか見えないのだが」
多種多様な商品が並んでいても、その物自体の使い道は一つしかないわけであってこんなにたくさんの種類が必要なのかと疑問に思う。俺自身も、自分に使うシャンプーや化粧品の類にそこまでのこだわりはなく、安くてコストパフォーマンスがいいものを優先的に選ぶようにしている。そのため、ここまでたくさんの中から選ぶ経験が少なく、どれがなんだかさっぱりわからない。
「男にはわからないわよ。女子の嗜みなんだから」
「そうよそうよ。殿方にはわたしたちの苦労なんて、いつの時代でも理解されないわ」
ふいに後ろから、琳と一緒にいた沙夜姉が唇を尖らせて口をはさんでくる。
「そ、そうなのか?」
「そこの幽霊のほうがよくわかってるじゃない。ていうか、あなたのための買い物なんでしょ?」
未だに理解しきれていない俺の顔をよそに、叶実は沙夜姉の居る方を向いて尋ねた。
「沙夜子でいいわ。そうね、わたしの物なのにわたしが選ばなくてどうするのよね」
そういうと、沙夜姉は俺の身体をすり抜けて前に出て、腰をかがめて叶実の横に付き一緒に商品を眺め始めた。そういえば、この店舗は高い天井の上に大きな天窓が張られていて店内に太陽の光が差し込む造りになっていた。だから、沙夜姉は実体化することなく俺の身体をすりにけられるという訳なのだ。少し透明になった沙夜姉が自分の身体をすり抜けていく様は少し気味が悪かったが、身体自体に違和感はなかったので何とも不思議な体験だった。
「沙夜子、さん? あなた本当に化粧するの? 幽霊でしょ?」
「あら失礼ね。幽霊でも私は女性よ? 化粧のひとつくらいするわ。女の嗜みだものね」
叶実の問いかけに、沙夜姉は鼻を鳴らして得意げに答えた。この人ほど化粧に執着している人を、俺は他に知らないので、その返し方に自信が見えたのは気のせいではないだろう。
「そ、そうなんだ……」
そう答えた叶実は沙夜姉の自信に少し押さ気味になりながらも、何とか理解したという感じに見えた。
「さっさと決めてくれよな? こっちは暇なんだからよぉ」
俺は一人残された琳のほっぺたをつねって遊びながら、二人に言う。琳は俺に遊ばれて「いひゃひゃひゃひゃ」と声を漏らしながらも、嬉しそうな迷惑そうなよくわからない顔をしていた。
「うっさいわね。少しくらい待ちなさいよ」
「そうそう。あっ、これなんてどうなの?」
「あー、それは最近新発売したヤツね。まだ使ったことないからわからないけど、ここのはあまり評判良くないわ」
「ふ~ん、そうなのね。じゃあ、こっちのは?」
「それは安くてコスパがいいらしいわよ」
沙夜姉の質問に対し、叶実は的確に商品の説明と効能の評判を答えていく。もしかして、叶実も化粧にうるさい方なのだろうか。それとも、巷の女子たちの間ではこれくらいの情報は持っていて当たり前のものなのだろうか。いずれにしても、こんなにたくさんある中で一つ一つの情報を的確に持っている叶実には恐れ入った。
「なあ琳、俺達暇だから他行こうぜ?」
「んっぱぁ! へっ? 私は楽しいですよ?」
急に琳の頬から手を放して移動を提案するも、琳はあっさりとそれを断った。
「楽しい? どこが?」
「だって、ここはこんなにも色とりどりじゃないですかっ! まだ全部見れていないので、全部見終わるまで移動できませんよっ!」
琳は紅い眼をキラキラと輝かせて、手を胸の前で握り俺に詰め寄る。
「お、おうっ……そう、なのか」
「はいっ!」
フンスと琳は鼻息を荒くして返事をし、目力だけで俺もここに残れと訴えかけてくる。
「はぁ、参ったなぁ……分かったよ」
俺は頭を掻きながら、琳の勢いに押されて渋々返事をした。
「ありがとうございますっ! 私、沙夜子さんに教えてもらってきますねっ!」
そういうと、琳も元気よく飛び出して沙夜姉の横に付いて、何やらさっきから始まっていた女子トークに混ざり盛り上がっていってしまった。
「あ、あー……」
一人取り残された俺は、どうすることも出来なく、かといってこの場所に俺の見たいものはなく、本当に何もすることがなくなってしまった。
いつもなら「これはなんというものなのですかっ?」と琳から問い詰められて疲れ果てているはずが、今日は「沙夜子さんに教えてもらう」と言って俺の傍を離れていってしまったことに、内心で少しの寂しさと心の中に小さな穴が開いたような感じがした。
(なんだろうな……この気持ち)
何とも言えない、虚無感のような、喪失感ともいえるような、寂しい気持ち。俺の傍が急に静かになって何も聞こえなくなったような、そんな空しい気持ち。琳が俺の傍を離れた、ただそれだけのことで俺は何をセンチメンタルになっているんだと、段々馬鹿馬鹿しくなってくる。
いつもうるさい奴が急にいなくなるとこんな感じなのかと、少しの時間物思いにふけってると、
「ちょっと、いつまでボーっと立ってるつもり?」
急に差し込んできた鋭い矛先のような言葉が、俺の耳を真っすぐに突き刺した。
「……あ?」
「あ、じゃないわよ。次の場所行くから、かご持ってきてこれ入れといてちょうだい」
そう叶実は言い切ると、手に持っている何かを俺に押し付ける。
「おっと、っと」
目線を落してそれらを見るとそれは数個の化粧品で、パッと見ても何が何だか俺には判断がつかない物ばかりだった。
「こ、こんなにか?」
「そうよ。まだこれでも足りないんだから」
叶実は、胸を張って強気に答える。
「どんだけ買うんだよ……ていうか、お前大分乗り気だな」
俺は、持たされた化粧品を落さないようにしっかりと抱えながら叶実に呆れ半分に尋ねると、
「当然でしょ。だって、アタシの得意分野なんだからっ!」
叶実はニヤっと不敵な笑みを浮かべ、栗色のポニーテールを手でなびかせながら自信たっぷりに答えた。
「どういうことだ?」
「アタシって、昔から祭りや式典なんかでおめかししてたのよね。最初はおばあちゃんにしてもらってたんだけど、そのうち自分でもするようになって、いつの間にか化粧が趣味になっちゃったのよ」
叶実は次の場所に向う中、俺の前を歩きながら説明してくれる。
「ほぇ~」
「なによ。何か不満でも?」
くるっと向きを変え、叶実は俺の顔をまじまじと見つめてくる。
「い、いや? 見た目に反して意外な趣味だなぁと思って」
「……そうね。これくらいしか、させてもらえなかったから……」
言葉がどんどんしりすぼみになっていく叶実の顔には、少しの影が見えたような気がした。
「なんだ? 最後の方聞こえなかったんだが」
「いいのっ。気にしないで」
そう言って叶実は俺の言葉を振り切るようにまた向きを変え、次の売り場の方へ速足で向かい始めた。
――……。
――……。
――……。
「……はぁ」
両腕の買い物かごいっぱいに女性ものの化粧品類を詰め込まれた俺は、売り場の通路のど真ん中で大きくため息をついた。当然、俺一人と買い物かご二つが通路のほとんどを占領してしまっていて、他の人から見たら通れなくてただの邪魔でしかない。そんなことは百も承知である。が、しかしだ。
「女子の買い物って、なんでこう、効率悪いんかなぁ……」
ここのお店は無駄にだだっ広く、そして売り場面積も相当な大きさを確保しているため、売り場そのものもまた大きい。そして、広いがためにいたるところに色々なものが陳列されていて、どこに何があったかすぐに忘れてしまう。さらに、化粧品コーナーだけでもいくつかの場所に分散されていて非常に効率が悪い。
「あちこち行ったり来たり、もうしんどい……」
俺は両腕をプルプルと震わせながら必死にかごを持ち上げ、目先の棚の前ではしゃいでい女子三人をチラ見した。
「あら、これもいいんじゃない?」
棚を見ていた叶実が、その中から目に留まった一つを取り出す。
「そう? ちょっと派手すぎないかしら? あ、琳につけてみよっか!」
叶実が勧めたものは、沙夜姉には少し合わなかったらしい。そこで、今度は沙夜姉が琳を呼ぶ。
「私ですか? やってみたいですっ!」
「よし、じゃあこれも買っちゃおう!」
沙夜姉は、琳の顔を見てにんまりとした笑顔で答える。
「決まったわね! おーいっ、荷物役の人ーっ」
遠くで俺を呼ぶ、元気な叶実の声が聞こえた。
「……はぁ。疲れる……」
俺は足取り重く、仕方なしにと言うようにゆっくりと呼ばれた方へ向かった。
――……。
『ありがとうございました~』
レジのスタッフさんのお礼の言葉なんか、今の俺には届いていなかった。レジ袋いっぱいに詰められた化粧品や美容道具などを担ぎ、俺はドラッグストアを重々しい空気を纏って出ていった。夏の暑い空気と荷物の重さと多さで、店から出た瞬間から汗が額より吹き出し始める。
(これ、なんかデジャヴじゃね……?)
「いやぁ~、買った買った!」
「楽しかったですねっ!」
「ちゃっかり私の分まで買ってもらって、なんか悪いわねぇ」
目の前を歩く三人の女子たちは、それぞれ思い思いの感想を述べ、とても満足げに足取り軽く道を歩いている。
「くそっ……ちゃっかりしてやがるぜ」
俺は交わされた恨みを口にし、最後の力を出して叶実を睨んだ。
「買い物付き合ってあげたんだから、それくらいの対価はあっていいんじゃないの?」
「はぁ? 元はと言えば、お前が怪我させてくれたバツだろうが!」
ひょうひょうと答えた叶実に、歯を向いて唸りながら反論する。
「もーいいじゃないのっ! お互い、もう大丈夫そうなんだしっ」
そう言いながら、叶実はくるっと俺の方を向いて俺の右肩を指さす。そう、昨日の今日で肩の痛みは大分治まっており、日常生活をする分には大事ないくらいまでに回復していたのだ。叶実も、足に包帯こそ巻いているものの普通に歩けているようだし、心配するだけ無駄だってことが見て取れる。
「ま、まぁな……って、さりげなくごまかすなっ!」
「テヘッ。バレた?」
「……そのやり口、さては沙夜姉だな」
俺は睨む矛先を、叶実からその前を歩く沙夜姉に向ける。
「あら、よくわかったじゃない。今日で叶実とは、随分仲良くなったわ~」
「そーゆーことっ。ねっ、琳ちゃんっ、沙夜子さんっ」
「はいっ! みんな仲良しになりましたっ、叶実さんっ!」
目の前の三人の女子たちは、『ね~っ』っと声を合わせて首を傾け、にこやかに顔を見合っていた。
「いつの間にそんな仲になったんだ……」
「それは……」
琳が含みを持った笑みでこちらを見た。
「乙女の」
「秘密よっ!」
続いて沙夜姉、叶実が琳に続いて声をかぶせてきた。自信たっぷりに輝きを放つ三人とは対照的に、俺の周りにはどんよりとした重い空気が漂っているのが分かる。口元に手を当てて、小悪魔みたいに笑うその光景は、嬉しいような悲しいようなよくわからない感情を心の中で渦巻かせる。
「……こんなはずでは……」
俺の疲労たっぷりなぼやきは、陽炎踊る夏のアスファルトに全部吸い込まれて行ってしまった。
雅稀メモ:女性コワイ
琳メモ:みんな仲良しですっ!




