其ノ30 幽霊の友達
「『えっ?』」
俺を含めた三人は琳の発した言葉に耳を疑い、力の籠らないマヌケな声を発してしまった。
「なにを――」
俺の言いかけた言葉を、琳の左腕が水平に上がってピタッと制止させた。尚も琳は目の前にあるひび割れた鏡をじっと見つめていて、真剣な眼差しで幽霊と対峙している。俺はそれ以上言葉を出すことが許されないように感じて、喉元まで出かかっていた言葉をぐっと飲み込み口を噤んだ。
「先ほどから叶実さんとの戦いを見ていましたが、なんとも一方的な感じがしました」
琳の発言に俺の横で叶実の眉がわずかに反応したような、一瞬電気が走ったみたいな空気感を肌で感じる。
「まるで小さい子供を相手に遊んでいるような、一方的に上から見下ろして自身の手のひらで転がすようなその振る舞い方」
横の少女の肩が小刻みに震えだし、机の縁に添えている手に力が込められていく。
「表情は伺えませんが、恐らく叶実さんの動きを見ていてほくそ笑んでいたのでは?」
琳は冷静を保ったまま静かに幽霊に問う。言っている本人は全くの無自覚なのだろう、その発言の数々が俺の横にいる少女の癇癪に触れているとも知らずに。
「さっきから聞いていればあの子! 私のこと馬鹿にしすぎじゃないっ!?」
ついに我慢の限界に達した叶実が机から勢いよく身を出して、保護者である俺に琳の悪気のない暴言に対する怒りをぶつける。
「知らんわ! 第一、お前琳を麻痺させてんだしそれぐらい言われても我慢しろよ。大人げない」
「ムキーーッ!!」
まるで猿のような奇声を上げて不満を爆発させている叶実を横目に、琳の行っている推理に耳を傾ける。琳はこちらで起きていることには意にも介さず、目の前の相手をじっくりと観察し自身の考える推理を述べていく。
「私はそのような振る舞いを得意とする御方を知っています。ですがそれは私の生前にいた人で、当然今は故人です」
「ほほう……」
叶実とは俺を挟んで反対に浮かんでいる出雲も、琳のする推理を興味深々に聞いている。
「そもそも、ここに至るまでで気になる点がいくつかありました。先ず、様々な場所を規則性も法則性もなく転々としていること。私の知っている御方も地図が読めない人で、よく道を間違えて迷うことがありました。その度に私は帰りが遅くなってお父様に叱られたものです。次にこの屋敷にあった羊羹の箱です。和の国の菓子である羊羹が外の国の屋敷にあるのは、あまり似つかわしくないと感じました。それで……」
「まさか、そいつも羊羹好きだったとか?」
「殿、その通りです。その御方は羊羹が大層好きでよく食べていました。三食の御飯より、五食の羊羹と言っていたほどです」
琳は俺の回答に、チラリと目線だけこちらに向け少し口角を上げて答える。羊羹好きな幽霊がいるなんて、そのことの驚きよりもいい意味で人間味があるように感じ親近感を覚えた。洋館に来てまで羊羹を食べるなんて俺よりギャグセンスがあるんじゃないだろうか、などと考えてしまい、幽霊もやっぱり元は人間なんだなぁとしみじみ思う。
「次に貴方の居るその居場所です。探していた中で目撃された場所に鏡は比較的多くありました。そして、私の知っている御方も鏡の前で毎日のように化粧をしていました」
「余程の自意識過剰な人だったのかな」
「シーーッ! アンタそれは言わないの!」
出雲の毒のある発言に、咄嗟に叶実が傍に駆け寄り口を塞いで制止する。しかしその行為も空しく、言葉は既に口から旅立っていた後であった。
「最後にその振る舞い方。弄ぶかのようにつかみどころのない動きと仕草は、まさにあの御方のそれと一致します」
「と、言うことは?」
俺の真相を求める問いかけに琳は眼を一度閉じて呼吸を整え、しっかり見開いてから指を突き付けて、
「貴方――――樒沙夜子さんではありませんか?」
「しきみ?」
『さよこ?』
聞きなれない名前に、俺達の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
「フフフ……」
突然、俺の身に全く覚えのない声がどこからともなく聞こえた。よく心霊動画等で偶然入り込んでしまった的な感じに聞こえる大人の女性の気味の悪い声が、耳の中にへばりついて気味悪く残る。
「な、なにっ!?」
叶実にもその声は聞こえていたようで、俺は叶実の発したものを聞いて彼女が発信源でないことを理解する。次に反対側にいる出雲に振り返ってみるが、
「オイラじゃないよ~」
出雲は自身の短い前足を横に振って否定する。出雲の声もまた、聞こえてきた声とは違うものだった。
「じ、じゃぁ……」
俺はまた琳と鏡のある方を向きなおす。正面を向いた俺の背中に、嫌な汗が垂れていくことが感じ取れた。
「フフフフフ……」
またあの気味悪い笑い声が月夜に薄く照らされた部屋に響くも、琳は視線を一切ずらさず真っすぐに鏡の中を見つめている。
「フフフフフ、アハハハハ!」
声は次第に大きくなり、同時にそれが俺達の恐怖感を更に煽っていく。俺の腕はいつの間にか小刻みに震えだしていて、机に膝立ちしている足もすくみ始めていた。
「お、おい琳。変な刺激したんじゃないだろうな?」
恐る恐る琳に声を掛けてみるが、琳は目の前に集中し過ぎて俺の言葉が一切耳に入っていなく返事がない。
「ちょ、ちょっと! なにしてくれてるのよっ!」
恐怖感に背中を撫でられた叶実が、焦って俺の肩をゆすりながら大声を出す。
「お、俺に言われても知らんっ!」
「アンタそれでも保護者!? 何か考えがあるって、相手を調子付かせることだった訳!?」
「俺が知るかぁ!!」
目の前の恐怖感と叶実の焦燥感にあてられてしまい、つい俺の声にも熱が入ってしまう。
叶実の腕をつかんで強引に肩から引きはがし、大きく息を吐いて逆立つ気持ちを落ち着かせようと意識する。
「琳! なんかよく分からんけど刺激し過ぎだ! 何かされる前に戻ってこい!」
大きく叫ぶも、依然として琳の耳には届いていない。もしかして、もうすでに手遅れになっているのだろうか。
そんな最悪の考えが思考を過り、体の芯が一瞬にして凍り付いたような悪寒を感じる。
声は尚も部屋中を響き渡っていて、壁で反響するたびに大きさが増して言っているような気がする。音が四方八方から聞こえてきて、立体音響のような歪んだ響きがとても気持ち悪く目が回りそうだ。
「……」
琳は未だ険しい表情を崩さず、無言のまま鏡を見つめていた。
すると突然、鏡の中から白く細い棒のようなものがゆっくりと出てきはじめた。それが白い服を纏った幽霊の腕だということは、割とすぐに判断がついた。
幽霊の腕が真っすぐ琳に向かって伸びる。酷く弱々しく、しかししっかりと意志の感じられる動きで琳の顔のすぐそばまで伸びていき、ついに琳の頬に指先が触れた。
「り、琳ッ!!」
「……んッ」
触れられた瞬間、琳は少し眼を細め背筋を震わせたがすぐにまた凛々しい瞳に戻ると、伸びてきた腕に動じることなくその場に立ち続ける。
「フフフフフ……」
身体の大部分を鏡の中に残したままな幽霊は、琳の頬に触れるとその柔らかな肌をゆっくりと撫で始めた。まるで小さな子供をかわいがる母親のように優しく、慈しむ様な手つきで。
琳は眼を閉じ幽霊の手のなすが儘に撫でられているが、幽霊の方もそれ以上のことはしてこないようだった。
ふいに琳が小さくため息を吐く。それから眼を半目に開き前を見据え、
「いつまでそうされているのですか、樒さん」
琳が低く少し呆れたような声のトーンで、鏡の中の幽霊に向かって尋ねた。
急に部屋中に響いていた声が途切れ、頬を撫でていた幽霊の手が止まる。そしてその手がゆっくりと鏡の中に引っ込んだ次の瞬間――、
「アハハハっ! バレちゃったかぁ!!」
鏡の中から白い物体が勢いよく琳めがけて飛び出し、目の前に立っている琳の周囲を一瞬にして大きく覆った。
「お、おいっ!」
「あ、あの子っ!」
「うわぁお」
机の裏にいた俺達は、思わず声を張り上げて机の上に身を乗り出す。
飛び出たものは琳の周囲を一瞬ふわりと覆い、それから琳の正面にゆっくりと落ち着いていくように集まっていき、人の形を成し始めた。それから正面に立ったと思うと勢いよく琳を抱きしめ、その顔を初めて俺達の前に晒していく。
「んもぅ、『樒さん』なんて他人行儀な呼び方しないでよ~。昔は、『さっちゃん』って呼んでくれたじゃな~い」
幽霊――もとい琳が"樒さん"と呼んだ者は、琳の顔に自身の顔を擦り付けて一方的に愛情表現をしているように見える。
「んぐっ、し、樒さんこそ、なぜこのような場所にいるのですかっ」
「わたし? なんか色々彷徨ってたら、いつのまにかここに来ちゃってたわ~」
今、明らかに言葉の語尾に星のマークが付いていたような、とても軽い口調で険しい顔をする琳に言葉を返した。
「それにしても奇遇ねぇ。みっちゃんとこんな時代にこんなところでまた会えるなんて!」
白い幽霊はオーバーなくらい琳に頬擦りしながら、琳との再会を心から喜びその愛情表現を一層ベタベタと擦り付けていく。
「わ、私も最初は樒さんだとは思いませんでした。ですが色々鑑みた結果、どうも樒さん以外に当てはまる御方がいなかったのでまさかとは思いましたが……」
「んもうっ! いつからそんなに堅っ苦しく喋るようになったの~? お姉さん、そんな風に育てた覚えはないぞ~?」
樒さん、とやらは眉をへの字に曲げて口を尖らせ琳の両肩を優しくたたきながら、真面目になった琳の口調の変貌ぶりを指摘する。
「こんな口は……こうだっ!」
「うひっ! い、いひゃいですぅしきみしゃんっ、はなしてくらは~いっ」
両頬を引っ張られて上手く喋れない琳が、腕を上下に振って必死に抵抗を試みるも、相手はさも楽しそうな表情で弄る手を緩めず琳に笑みを向けている。
「アハハハハ、みっちゃん変わらないなぁ。柔らかいほっぺ気持ちいい~」
うりうり、とつまんだ頬を縦横無尽に動かし琳の柔らかな頬を餅のように伸ばす。散々弄られてようやく離された頬は少し赤くなっており、琳は両頬に手を当ててジトッと幽霊を見上げる。
「うぅ、樒さんも変わりませんね……」
「だってこれがわたしだもの。いくら長いことこの世にいてもそれは変わらないわ」
幽霊はどんと胸を張って自慢気に琳へ答える。その高く張った胸は勢いでプルンと揺れて、俺の居る遠くからでも丸わかりなくらいに豊満な巨乳であることが伺えた。
「それで、みっちゃんはどうしてここに?」
張った胸を下ろしてから幽霊は琳に尋ねる。
「それは、樒さん――いえ、幽霊がこの町に出たという情報をもとに、殿と探しに来たのです」
「殿? あ、もしかしてここに上様がいるの!?」
殿、という言葉を聞いて幽霊は急に興奮し始め、忙しなく辺りをキョロキョロと見回し始めた。
「あっ! あそこにいるのって!」
ふと、俺と顔があったと思うとふわりとその場を飛び立ち、ひとっ跳びで俺の目の前まで距離を詰めてきた。着ている白い着物が大きく宙に広がりその姿を大きく見せる。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
俺は幽霊が詰め寄ってきた勢いに負けて、つい後ずさりしてしまった。横にいた叶実も同じく声を上げて後退してしまい、叶実が今いた場所に幽霊が入り込む形をとる。
「あぁ、やっぱり上様だ! 恰好が知っているのとちょっと違うけど」
幽霊は俺の姿を上から下までじっくりと眺めてから、目を輝かせて俺の顔を覗き込んできた。
「は、はぁ!? 俺は上様なんかじゃないぞ!」
「うん? 何を言っていらっしゃるのかわからないですけど、上様は上様でしょう?」
幽霊は顎に手を当て首を傾げて、俺がおかしなことを言っていると言いたげに不思議そうな表情をする。
「樒さん、その方は私たちの知っている殿ではありませんよ」
鏡の前にいる琳が落ち着いた口調で、俺の目の幽霊に言葉を投げる。
「えぇ? だって見たまんま上様にしか見えないけど?」
「その方は殿のご子孫にあたる御方です。顔つきは非常によく似ていますが」
「えぇっ!? そうなのっ!?」
幽霊は両手を上げて、琳の言葉に大げさなくらいの驚くリアクションを取ってから、口元に人差し指を当てて唇を尖らせ俺の顔をまじまじと見つめ始める。長く伸びた黒髪の間から見える青漆色の瞳で俺の顔の隅から隅までを見定めていく中、幽霊の身体が揺れるたびにその豊満な胸も大きく弾んでいるので、俺は視線を下におろせずキョロキョロと宙に彷徨わせてしまう。
「ほほぉう……」
指を当てた反対側の口元、俺から見て左側にあるほくろがまたそのしぐさのエロさを引き立たせている。長く伸びたまつげが色っぽさを更に増幅させていて、もうなんか色々ヤバい。
「う、うぐっ……」
もう少しでお互いの吐息がかかってしまいそうな距離まで顔が近づいてきたが、寸前のところで幽霊が顔を引っ込めて難を逃れる。
「ふぅん、わたしには全く同じ人にしか見えないんだけどねぇ。この時代に生きているわけない、か」
何かを納得したように鼻で息を吐き、腰に手を当てて疑問を自己完結させた。
「それで、今は上様のご子孫様と一緒に暮らしてるって訳ね」
「はい、その通りです」
「ふぅ~ん」
幽霊は琳に尋ねながら、顔を左右に振りながら俺と琳を見比べる。
「大体は解ったわ。それで、"幽霊"を探しに来たって言ってたけど……」
「そ、そうよっ! アンタ覚悟しなさい!」
急に話題がそれたと思うといきなり本題に突っ込んでいき、思い出したかのように叶実が幽霊の背後から声を荒げた。
「アンタがこの町で出るものだから、町の人が迷惑してるのよ! だからさっさと成仏するか封印されなさい!」
叶実は鋭い目つきを一層尖らせ、人差し指を真っすぐ幽霊に突き立てて声を張る。
「わたしが? それは悪いことしたねぇ。昔から方向音痴でさぁ」
しかし、幽霊は叶実の方を向くと意外にもあっさりと自分の非を認め、頭に手を置いて申し訳なさそうに答えた。
「ただでさえ土地勘無いし、気が付いたらこの界隈に流れついちゃったんだけど、ここら辺に美味しい羊羹の匂いがしてねぇ、つい誘われて来ちゃったのよ」
アハハハ、と幽霊ははにかみながら事情を説明していく。その様子に叶実は毒気を抜かれたように力が抜けていき、真っすぐだった人差し指が力なく垂れ下がってしまっている。
「まさか、羊羹を追ってここまで来たのか?」
幽霊のとんでもない言い訳に驚いた俺が、叶実の後ろから声を掛ける。
「その通りです! 上様のご子孫様は頭の出来がいい!」
素早く振り返って俺の方を向くと、片目を閉じてウインクしながら指を俺に向けて答える。
「なんとも"おかし"な幽霊だねぇ」
俺のさらに後ろで、出雲が呆れ半分につぶやいた。
「こういう者なので。さて……」
出雲の皮肉に対し笑顔で返すと、幽霊はまた叶実の方に向き直り言葉で前置きをしてから、
「あなた達、私をどうする気? 見たところ何か特殊な武器を持っているようだし、それで私を封印する?」
幽霊は頬格を上げ怪しげな笑みをしたまま、しかしその眼は真っすぐ叶実を見つめて質問をする。表情は笑っているのに眼は笑っていない、そんな言葉が当てはまるだろう。その言葉にならないプレッシャーに思わず叶実は言葉を詰まらせるが、それでも負けじと背筋を伸ばして幽霊に食って掛かった。
「ア、アンタがいるから迷惑なの! ここで大人しく封印されなさい!」
「迷惑って、具体的には?」
「ぐ、具体的? えーっと……姿を見てトラウマになったり、怖くて外を歩けなくなったり、それから……」
「確かに、わたしって割と誰でも見ることが出来るらしいのよね。でもそれは、わたしとしても困りものなのよ」
幽霊はため息を吐き、困った顔をして顎に手を当てる。
「わたしにだってプライベートのひとつくらいあるのに、どこに行っても誰かに見られてしまうなんて一女性として我慢できないわ」
困った顔から少し怒ったような顔つきになり、ため息を吐いて自身の不遇に対する不満を打ち明ける。
「それで、それ以外は? 他に何か実害はあったの?」
幽霊はまた表情をコロッと変えて今度は興味心を露にし、声のトーンを上げて尋ねる。自分のことを責められているのに、まるで他人事のように話しかけている。
「えっと、えーっと、その……」
「わたしが今までに何か壊したり、人を呪ったり、生き物を殺したりしたって言われたの?」
「それは……」
幽霊は不気味な笑みを浮かべて叶実にいやらしく問う。まるで自分の手のひらで転がして遊んでいるような、居心地の悪さを覚える。
「あっ、この部屋にあった物! アナタが逃げるから壊れたのよ!!」
ふと思いついたように叶実が声を上げる。声には自分が正しいと言わんばかりの絶対の自信が満ちていた。
「ふむ。じゃあ例えば、あなたは鬼ごっこをするとき鬼から逃げないのかな? 相手が追いかけてきて、もしかしたら殺されてしまうかもしれないっていう時に、ぼけーっと殺されるのを待つと言うの?」
幽霊は表情を崩さずに、叶実が自信たっぷりに言い張った論理をいとも簡単に返した。
「ぐっ……」
「わたしはそうは思わないな。だって追いかけられたら逃げたくなるでしょう? さらに言えば、それは物理的な武器なんだから、投げて当たれば壊れるのは当然のことじゃない? まさか、それの使い手なのにわたしにだけ刺さって他は壊れない、なんてバカみたいな勘違いしてたわけじゃないわよね?」
幽霊は、机の上に刺さっている術針を指さして叶実に尋ねる。
「よって、その理論はそもそも成り立たない。ここにあるものを壊したのは、未熟なあなたが投げた物。理解できた?」
幽霊は叶実のほころびだらけの口実を、笑顔で完膚なきまでに論破して見せた。叶実はぐうの音すら出せず、唇を固く結んでその場でわなわなと震えている。
「ほほぅ、敵ながらあっぱれ!」
出雲が俺の後ろで手を叩き、幽霊の思考力の高さに賞賛を送る。
「おい、相手は一応敵なんだろ? それを誉めて自分の仲間を助けなくていいのかよ」
「敵でもその思考の良さには驚いたよ。それにあの幽霊の言う通りだから反論できないさ」
「た、確かに……」
出雲の補足に俺もうなずくしかなかった。なにせ、誰がどう聞いても叶実の言い分には無理があったのだから。それを強引に推し進めようとする勢いは認めるけど、その勢いとほころびだらけの論理をいともたやすく、それも完璧に論破して見せたこの幽霊の思考力の高さに俺も開いた口が塞がらない。
「さて、と……」
幽霊は一仕事終えたように息を軽く吐いてからまた俺に向き直る。
「上様のご子孫様は、このわたしをどうされますか?」




